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平成18年10月 第2251号(10月25日)

 

進化・発展する長岡大学の教育研究
  ―地域づくり主体としての大学へ― −3−

長岡大学学長 原 陽一郎

 長岡大学(原 陽一郎学長)は、学校法人中越学園(設置する学校は、高校野球の甲子園全国大会にたびたび新潟県代表として出場している中越高等学校と本学)が設置する大学であり、長岡短期大学の改組転換により、二〇〇一年四月に開学した。同大学は、開学以来七年目を迎え、長岡短大の「地域に開かれ、地域に貢献する大学」の理念を継承した地域連携・共生活動をより重層的に展開するとともに、その地域連携の成果を教育に組み込んだ平成十八年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(現代GP)に選定された「産学融合型専門人材開発プログラム」を全学的に推進している。

八、産学連携実践型キャリア教育―参加型教育への転換へ―
  「産学融合型専門人材開発プログラム」(前号で掲載)は、三つのプログラムから構成されているが、ここでは、その一つの「産学連携実践型キャリア開発プログラム」について紹介したい。このプログラムは、第一回で述べた地域研究センターを初めとする地域貢献・連携活動の成果を本学の教育面に本格的に環流させる取組として位置づけられる。これまでの地域貢献・連携活動は教員が主体となって進められ、本学学生はその主体として位置づけられておらず、教員の社会的活動が十分に教育に反映されたとは言えない。この点への反省がこのキャリア教育プログラムを生むことになる。
  その際のポイントは二つ。一つは、座学から実践型・体験型・参加型教育への転換による「役に立つ」知識力と人間力の形成。二つには、地域貢献・連携活動により形成された地域ネットワークの教育内容・方法への組込み。この二つを融合させて、連携企業の教育力を媒介にした産学連携科目の展開(卒業提案への課題提起含む)を図ろうとするものである。

九、インターンシップの活性化と課題
  本学の組織的な体験型教育は、一期生が三年次に進級した平成十五年度のインターンシップから始まる。まだ四年目を迎えたにすぎないが、制度設計はしっかりしており、一応、順調に進んではいる。事前オリエンテーション頼w生(三年生)の希望研修企業の集約頼驪ニとの研修テーマの決定莱ト休み二週間の実務体験頼w生のレポート提出頼驪ニと担当ゼミ教員で評価乱ャ績(二単位)認定という一連のフローに沿って行われる。四年間で、受入れ企業は延べ一二〇社、参加学生は約一〇〇名。問題は、参加学生のインターンシップ参加の評価は高く(役に立った)、就職実績も良好にもかかわらず、参加希望学生がまだ少ないことだ(就職希望学生数の二〇%にも達しない)。これは、学生の職業意識の希薄さもさることながら、日常の授業が座学中心で、実践型・体験型・参加型教育がなされていないことがインターンシップ意識の低さ・逡巡の大きな要因になっているためとみられる。昨年度から試行し、今年度から本格化させた産学連携科目は、この反省に立っている。インターンシップについては、学生の参加率を一〇〇%にまで近づけることが今後の目標となるが、他方で、企業側の特色あるインターンシップ・プログラムの整備も大きな課題であると思われる。

十、産学連携授業の実際―企業研究授業の現状―
  さて、開始したいくつかの産学連携科目(今年度は二〇科目、長岡方式の最終年度の平成二十年度は三九科目が対象)の実際を紹介しよう。
  まず、昨年度から先行して実施している「企業経営研究」(二年次以上対象、四単位、選択科目、九〇分)。この科目は、A担当教員による事前授業・ポイント指摘(一限分)頼驪ニ講師の講義(六〇分)・質疑応答(三〇分)・授業アンケート(一限分)頼w生のレポート提出・まとめ(一限分)というフローで三時限分活用、B企業講師=経営者による〈創業・経歴莱社の理念乱略卵g織洛o営者・従業員の仕事と条件〉の五項目の講義、C企業講師は多様な業種の企業に依頼(製造業、流通業、金融業、サービス業等)、という方式で進めた。
  昨年度は前後期で九名、今年度前期は三名の企業講師を招聘したが、学生のアンケート評価はほぼ良好であった(「ためになった」、「楽しかった」が七〇〜八〇%)。学生に人気が高いのは、経営者のドラマチックな創業・経営体験(例えば、大学四年の時に父親が倒れ、若くして経営を引き継ぎ会社を建て直し、成長させた体験等)、授業のなかでの新商品づくりの実演と学生への試用依頼(現在販売している「消臭プレート」)などで、教員側の意図(経営理念から仕事までの実践的なトータルな認識獲得)は必ずしも成功しているとは言えないが。
  今年度は、こうした教室での実践的講義(産学連携科目B群)だけでなく、企業に出かけた現場での体験学習(産学連携科目A群)も「マーケティング」等の科目で始まり、大学の教室と企業の現場での参加型授業が本格稼働している。

十一、起業家塾の実際―参加型授業で学生は活性化―
  参加型授業としてインパクトの強い科目として、「起業家塾」(産学連携科目A群)をあげなければならない。「企業経営研究」と同様、昨年度から先行して実施しているこの科目(夏休み中の集中講義科目、四日間、二単位)は、外部の起業教育プログラム((株)セルフウィング)を導入した担当教員との協同の「起業体験講座」として行われた。また、この講座は、地域の三大学連携プロジェクトとして計画されながら新潟県中越地震で中止されたものを引き継いで開講された復興プロジェクトの性格をもつ。したがって、この講座は高校生も含む、地域連携講座として実施された(長岡技術大学四名、長岡造形大学五名、長岡大学一〇名、長岡高校一名)。
  この講座のプログラムは、A四〜五名のチーム(会社)をつくり役割分担(社長等)を行い、B前半の二日間で、ある一定の条件下で(資金:一〇〇〇円/社)、商品づくり―事業計画書―販売―決算の一連の事業活動を行い(起業体験編)、C後半の二日間で、新チームづくり―事業計画書づくり―事業計画発表―表彰の活動を行い(ビジネスプラン編)、D最初と最後に効果測定テストを行う、というもの。
  この起業ビジネスゲームは、大きな成果をあげた。参加学生のアンケートでは、全員が「楽しかった」、「ためになった」と評価しており、「起業しビジネスをやっていく濃厚な体験ができた」や「将来会社に入っても高いモチベーションで仕事ができそう」などの感想がよせられた。今年八月の第二回の講座も同様であったが、九月に後期授業が始まり、他の授業ではほとんど話せなかった女子学生が「参加して、すごく楽しかった」と明るく積極的なり、また、ある男子学生は「おもしろかった。何で、普通の授業でやらないのですか。普通の授業でもやりましょうよ」と担当教員に話しかけてもきた。がやがや議論しながら、ああでもないこうでもないとアイディアを出し合い一つの商品を創る、あるいはビジネスプアランをつくりあげる、その過程での参加意識の高揚と達成感、そして満足感―参加学生が得たのはこれだ。学生参加型教育の有効性、重要性を端的に示したと言えそうだ。

十二、参加型教育の地域プラットフォームづくりへ
  われわれのキャリア教育プログラムは始まったばかりだが、今年二月に経済産業省が発表した「社会人基礎力」に関する提言は、このプログラムの追い風となるものであった。七月の本学の第三回文化講演会では、「ニート・フリーターを出さない若者教育を考える」をテーマに、社会人基礎力研究会座長の諏訪康雄氏(法政大学大学院政策科学研究科教授)の講演をもとに、「社会人基礎力」について二〇〇名の市民・教育関係者の参加を得て、議論することができた。また、上記の社会人基礎力の形成をめざした「若者キャリア育成事業」(経済産業省から受託)では、長岡地域の学生・若者(大学、高専、専門学校、高校等)の体験型参加型教育のプラットフォームづくりへと進み始めている。現場体験講座(十一月)と若者起業家塾(十二月)をそれぞれ一〇〇名規模で行うことになっている。
  こうした具体的取組を通して、本学の学生参加型キャリア教育の充実を図ると同時に、地域における参加型教育のプラットフォームの形成に進みたい。
(つづく)

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