Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.593
ラーニングスペースがアクティブラーニングを促す
〜高大接続の有機的な取り組み〜 (3)

客員研究員  土持ゲーリー法一(帝京大学高等教育開発センター長・教授)

  2016年1月17日NHK日曜討論「“18歳選挙権”政治はどう変わるか」にゲスト出席した春香クリスティーン氏はスイスの学校の事例を取りあげながら、日本の教育との比較を紹介した。日本の場合は、教員が最初に知識を授け、板書されたものを書き写す授業が中心であるのに対して、スイスの学校では資料が最初に配られ、それを読んで自らの意見を発表することが求められるとの趣旨を述べた。まさしく、「教育」と「エデュケーション」の考えの違いである。文部科学省がアクティブラーニングの促進から加速にギアをチェンジしたことでアクティブラーニングが活性化するのは間違いない。しかし、現状ではアクティブラーニングが最終目標かのように考えられている。これはあくまでも「ツール」に過ぎない。換言すれば、ツールをどのように活用するかは、教員の教授法や技量にかかっている。
 アクティブラーニング・スペースを活用した授業方法として世界の大学から注目を浴びたカナダのクイーンズ大学エリスホールの責任者アンディ・レガー博士に、2014年12月13日、メディアサイト社でインタビューすることができた。彼によれば、アクティブラーニング・スペースを考えるには、ポジティブなイメージづくりが何よりも重要であるとのことである。すなわち、教育環境が重要ということである。とくに、日本のように伝統的な講義形式の授業形態からアクティブラーニング形態に移行するには、どのようなスペースにするかきわめて重要な課題であると助言している。アクティブラーニングと聞くと、すぐにICTを駆使した機器が備わっているというイメージがあるが、クイーンズ大学エリスホールのアクティブラーニング・スペースの小規模教室にはプロジェクターだけで、それ以外は何もない。このプロジェクターも収納することができ、教室は窓側を除く全側面がホワイトボードで囲まれている。「学生にとってアクティブラーニングとは、椅子から立ち上がり、ホワイトボードに歩いて行って板書することである」と彼は説明している。教室での学生の動きは静止しているのではなく、常に活動の連続でなければならない。学生同士で話し合ったり、ホワイトボードに書いたり、コンピュータで作業したり、多様な活動がアクティブラーニングを促すことにつながるのであって、双方向授業や討論などの活動だけに限定されない。教室は学生にとって自由に動き回れる「スペース(空間)」でなければならない。クイーンズ大学エリスホールがアクティブラーニング・ルームと呼ばないで、「アクティブラーニング・スペース」と呼んでいる意図はここにあると思われる。
 アクティブラーニングではICTの活用もさることながら、学生が活動しやすい「スペース」作りがより重要である。何よりも、動きやすい広さのスペースが重要である。すなわち、狭いスペースではアクティブラーニングは難しくなる。要約すれば、「ホワイトボード」に教室のどこからでも簡単に行き来ができ、動きやすい広さと雰囲気が備わっているということである。
 日本の大学の場合、教室は固定式机や椅子が多いので、すべてをすぐにアクティブラーニング・スペースに変更することは物理的に難しい。たとえ、そのような制約があったとしても、学生同士が相互に話し合うことができるというのがアクティブラーニングの基本である。
 帝京大学では2016年1月9日、今年で3年目を迎えた「入学準備教育(帝京学)」を新棟ソラティオスクエアで開催した。「帝京学」については、リクルート『カレッジマネジメント』(185号、2014年)、そして文部科学省を著者とする全国42大学の大学教育改革の特色ある107の取組として、『大学教育の質的転換に向けた実践ガイドブック』で広く全国に紹介された。
 入学準備教育とは、大学で開講されている「帝京学」15回の授業収録を高校生に視聴してもらい、その中の授業の一つを反転授業にして高校生に八王子キャンパスに集まってもらい、午前と午後の2コマを使ってグループ活動や討論をしてもらうというものである。高校生ははじめての大学での講義、そしてはじめて会う高校生の仲間に午前中は緊張気味であったが、同じグループで一緒に昼食を取った後は、同じグループなのかと思わせるほど打ち解けた雰囲気で活動した。今年から新棟ソラティオスクエア3階にアカデミックラウンジというスペースが学生のために開設されたので、ラウンジの巨大ホワイトボード壁を使って高校生にテーマごとに発表してもらった。
 当日は冲永佳史学長の「帝京学」の講義を視聴して参加した高校生にまじって学長自らも参加するというアクティブラーニングの体験学習であった。また、学長に質問する高校生の真摯な姿が印象的であった。
 入学準備に励んでいる高校生が一堂に集まり、与えられたテーマについて互いに活発な議論を展開し、その結果をホワイトボードに書いて全体で共有する姿を目の当たりにして、これがアクティブラーニングの本来の姿ではないかとの印象をもった。
(おわり)

Page Top