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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.574
第61回公開研究会の議論から
大学の地域連携活動とマネジメントを考える  (上)

研究員  鶴田 弘樹(名城大学MS-15推進室課長・経営本部総合政策部課長)

大学が地域と連携し、貢献することの意義
 人口減少と少子高齢化の急速な進展を受け、安倍政権は、「地方創生」を最重要課題の1つに掲げている。これに伴い、現在、地方の活性化について、各所で活発な議論が行われ、高等教育機関もその牽引役としての期待は大きい。
 2012年6月、文部科学省は大学改革の方向性を示した「大学改革実行プラン」の中で、地域と大学との連携強化等を謳う「地域再生の核となる大学づくり(COC構想)」の推進を打ち出した。2013年度からは、「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」が国の補助事業としてスタート。高等教育機関における地域連携の在り方が問われる一方、社会連携(貢献)を使命として掲げ、それぞれの地域におけるプレゼンスを高めるための取り組みを行っている大学も多数存在する。
 昨年の11月26日に開催された公開研究会では、このような社会背景をもとに、大学の地域連携活動とそれを支えるマネジメントに焦点をあてた報告が行われた。
 本研究会では、まず地(知)の拠点整備事業選定委員長を務めた明治大学学事顧問(前明治大学学長)の納谷廣美氏から、「地(知)の拠点大学と地域(方)創生」をテーマにご講演いただいた。そして、日本私立大学協会附置私学高等教育研究所の私大マネジメント改革プロジェクトチームで実施した「特色ある地域連携(貢献)活動とそのマネジメントに関する実態調査(以下、本調査)」について、篠田道夫氏(桜美林大学大学院教授・本プロジェクト研究代表)ならびに増田貴治氏(愛知東邦大学理事・事務局長)、筆者の3名がそれぞれ報告を行った。以下、研究会で報告された内容及び議論の概要について紹介したい。
地(知)の拠点大学と地域(方)創生/納谷廣美氏
 今わが国では、教育の質的転換が強く求められている。明治維新以降の近代化路線が行き詰まりを見せていることに加えて、人口構成の変化は深刻である。2014年の高齢者人口は3296万人と、ますますその比重を高めている。世界に目を転じれば、米国主導の一極化から多様化の時代、更には後進国の経済力成長など、大きく変化してきている。こうした社会の変化を踏まえれば、大学における教育もこれまで通りの前例主義の延長では立ち行かなくなるのも時間の問題であり、今こそ社会連携の視点を持って大学改革に着手すべきである。このように、高等教育を取り巻く社会の環境が大きく変化する中、各大学は社会のニーズを吸い上げ、当該の課題に対して大学の知的財産を活用して課題解決していくことが強く求められる。これは一方で、課題解決で得た知見の研究への反映および学生の学修意欲の向上等、各大学の教育・研究活動とも緊密な結びつきがある。大学が地(知)の拠点となるということは、大学の教育や研究の在り方そのものが問われることに等しいのである。
 様々な大学改革を推し進める上で、マネジメントの問題は欠かせない。国の補助政策は、全学的な教学マネジメント体制の下、改革を推し進めている大学を積極的に支援する方針に向かっている。学長がリーダーシップを発揮する上で、意思決定と執行の明確化、機構改革を含めた教学マネジメントの見直しは、非常に重要度の高いもので、とりわけ教育の内部質保証におけるPDCAサイクルにおいては、第三者の視点を入れることが不可欠であると言える。これらのことは、明治大学の学長を務めた経験から、強く実感するところである。
 各大学が地(知)の拠点となる上で、今一度、創設者が地域のニーズを踏まえて大学を設置した際の建学の理念を振り返るとともに、それぞれの大学の特色を更に強くしていくことが必要である。そのためにも、大学執行部には、「志を高め、強め、そして実現する」という決意と実行が問われることとなる。
地域連携活動とマネジメントの関係/篠田道夫氏
 本調査の目的は、地域連携事業が教育、学生生活並びに地域の活性化に果たす役割・効果とその推進のためのマネジメントに共通する優れた特性を明らかにすることにある。
 調査によると、迅速な意思決定やトップのリーダーシップが発揮されているのは、選挙型よりも非選挙型で学長を選出している大学である。ところが、地域連携で成果を上げているのは「皆で議論し総意で決める風土」「自由に意見や提案が出来る風土」など、ボトムアップ型の運営を行う大学が多いことが分かった。これは地域連携事業が、教育や研究のように大学に必須の、制度的に求められるものでない上に、地域との実際の連携活動を、下から現場の知恵を集めて作り出さない限り、上からのトップダウンでは動かない性質によるものと思われる。しかし、その上で成果を上げているのは、やはり地域連携を明確に大学の政策・方針に位置付け、推進体制が構築され、目標と評価を重視して取り組んでいる所である。
 本プロジェクトの10年に及ぶ調査・研究活動で明らかになったのは、中長期計画の策定とその教育や業務への具体化、企画・推進組織の整備、PDCAサイクルの確実な実行などが改革推進に極めて有効性を持つという点である。この点は、今回の地域連携事業の効果的な推進にも共通して求められる原理だと言える。
大学COC事業申請大学へのアンケート調査結果/増田貴治氏
 本調査において、「地域連携(貢献)に取り組む意義」(複数回答)を尋ねたところ、回答136校(回収率69.9%)中、「地域再生・活性化」(96.3%)と回答した大学が最も多く、次いで「学生への教育的効果」(94.9%)という結果となった。その中で最も重視するものを尋ねると、「学生への教育的効果」53.7%と半数以上を占めた。具体的な成果について自由記述を求めたところ、「学生への教育的効果と教育面の制度化」に係る記述が多く、次いで「地域との良好なパートナーシップが築けた点」が続いた。
 次に、「地域連携(貢献)を進める体制」については、77.2%の大学が専門部署を設置しており、設置予定の16.2%と合わせれば、実に全体の93.4%に上る。更にこうした専門部署の業務内容について調査したところ、地域からのニーズ把握の窓口、具体的な事業の実行、事業の企画立案、学内事業の把握等を主な業務としていることが明らかとなった。
 最後に、地域連携(貢献)を進める上での課題について尋ねたところ、多くの大学は財政的負担を一番に挙げ、学内構成員の意識改革、組織体制の構築、専門人材の確保と育成と続いた。地域連携(貢献)の成果が不鮮明であることも、こうした課題を生み出す要因となっているものと思われる。
訪問調査に見る地域連携の特徴と組織能力/鶴田弘樹
 本調査の趣旨に基づき、大学COC事業に採択された大学の内、次に示す10大学(東北学院大学、東北工業大学、杏林大学、芝浦工業大学、松本大学、中部大学、名古屋学院大学、皇學館大学、四日市大学、四国大学)を対象として訪問調査を実施した。
 各大学が特徴ある地域連携活動として挙げた事業の多くは、教育効果を求めるのと同時に、地域の活性化にも貢献する活動である点において共通している。また、こうした様々な優れた取り組みを進め、大学COC事業にも採択された実績を持つ大学に対して、組織能力(capability)の視点でアプローチした結果、以下の点で強みを持っていることが明らかとなった。▽地域と大学とをコーディネートする専門人材の存在▽地域をフィールドに教育・研究活動を行っている教育職員の存在▽部署の壁を超えて協働して教育・研究活動が行える文化▽教職協働が日常的に行える組織▽様々なアイディアを発想し、展開する▽大学の方針(中長期目標・計画等)を構成員と分かち合う学長のリーダーシップ▽副学長若しくはミドル層のリーダーシップ▽大学の理念、中長期目標・計画等の全学での共有▽経営トップ、ミドルリーダー、現場担当者において、新しいことにチャレンジするマインドを持つ
 これらは、地域連携の成果に結びつく共通する組織能力と言える。
第3の使命としての社会貢献の意味付け
 今回のアンケート調査結果から、地域連携(貢献)に係る定量的な成果指標の有無を問う質問項目に対して、定量的指標を設定している大学は22.1%に留まり、半数以上の55.9%の大学は、成果指標を明確に設定していない。
 前者の大学についても、定量的指標の細目を見てみると、地域志向科目数や地域活動に参加する学生数など、大学中心の視点による指標が多くを占めているのが実態である。当然のことながら、地域連携(貢献)を評価する際に、実施主体である大学側の視点は重要ではあるが、その一方で地域再生や活性化のために、大学側のリソースを活用したいと考える地域側の視点も忘れてはならない。
 2005年の中央教育審議会答申『我が国の高等教育の将来像』では、社会貢献の役割を「第3の使命」として位置付け、より直接的な貢献が求められているとしている。従来から大学がその使命としてきた教育と研究それ自体が社会貢献という考え方があった。しかし、社会貢献を敢えて別のドメイン(事業領域)として、国が位置付けている意味を改めて深慮すべき必要がある。大学が社会、或いは地域と連携し、貢献することの意義は何なのか、改めて大学の教育と研究を社会や地域からの視点で見つめ直す必要があるのではないだろうか。
(つづく)

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