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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.529
私立大学の施設整備を考える 教育の物的基盤への助成充実を

研究員  浦田 広朗(名城大学大学・学校づくり研究科教授)

 本年4月に改正され、大学を設置する学校法人(以下、大学法人)に対しては2015年度から適用される新しい学校法人会計基準では、資金収支計算書の付表として、活動区分資金収支計算書が導入されることになっている。
 活動区分資金収支計算書は、キャッシュフロー計算書に相当するもので、教育活動(企業会計の営業活動に相当)、施設整備等活動(投資活動に相当)、その他の活動(財務活動に相当)の区分ごとに、資金の流れを明らかにするものである。したがって、例えば補助金は、経常費等補助金と施設設備補助金に分けて、前者は教育活動の資金収入、後者は施設整備等活動の資金収入として、それぞれに計上される。
 寄付金についても、使途が施設整備に指定されていないものは教育活動の資金収入、施設整備に指定されているものは施設整備等活動の資金収入として計上される。
 しかし、最大の収入科目である学納金は、一括して教育活動による資金収入として計上されることになっている。この点について、新会計基準を検討する際には「学生生徒等納付金の中味の名目の出し方は学校法人によってまちまちなのが実態」であるので、すべて「教育活動による収入に計上する」と判断されたようである(片山覺ほか「学校法人会計基準改正の意義と実務上の課題について(1)」『学校法人』2013年7月号)。
 確かに、施設費、施設整備費、施設拡充費など、名目は様々である。しかし、ほとんどの私立大学は、施設設備資金であることを明示して家計から徴収している。新旧いずれの会計基準でも、施設設備資金収入は、資金収支計算書の記載科目(小科目)として示され、別表で「施設拡充費その他施設・設備の拡充等のための資金として徴収する収入」と説明されている。
 学納金負担者への説明という観点からも、家計から徴収する施設設備資金は、活動区分資金収支計算書において施設整備等活動による資金収入として計上するようにした方が良かったのではないか。もちろん、会計基準に示された様式に関わらず、別途、学納金の使途を示す資料を作成するなどして、関係者への説明責任を果たすことはできる。
 図は、教育活動と施設整備活動、それぞれの資金収支を把握する目的で、私立大学部門の学納金収入(手数料収入を含み、施設設備資金収入を除く)と補助金収入・事業収入・雑収入の和を教育活動資金収入、施設設備資金収入と寄付金収入の和を施設整備活動資金収入とし、それぞれが経常的支出(人件費支出と教育研究経費支出と管理経費支出の和)と施設設備支出に対応している様子を示したものである。データは、1997年度までは文部省『私立学校の財務状況調査報告書』、1998年度以降は日本私立学校振興・共済事業団『今日の私学財政』による。
 図に示されているように、私立大学は、家計から徴収した施設設備資金と善意の寄付金により、施設設備支出の大部分を賄ってきた。1980年代や90年代のように、施設設備資金と寄付金では不足する場合は、教育活動による資金収支によって補ってきた。
 この状況は現在においても変わらない。例えば、東洋経済新報社「私立大学財政データ」(2013年版、データ年次は2011年度)に収録されている大学法人の資金収支を、前述の区分によって整理してみると、299法人(収録されている法人の59%)は教育活動による資金収支と施設整備活動による資金収支の双方がプラスである。129法人(同25%)は施設整備活動による資金収支はマイナスであるが、教育活動による資金収支のプラスによってカバーすることができている。合わせて84%の法人のキャッシュフローは良好な状態にある。
 問題は、資金収入のほとんどが家計からのものである点だ。私立大学部門全体(2011年度)についてみると、寄付金収入は施設設備支出の17%、補助金収入は経常的支出の13%を賄っているに過ぎない。
 前記「私立大学財政データ」によって個別にみても、施設設備支出の10%以上に相当する寄付金収入を得ている大学法人は48%で、全体の半数に満たない。大学法人には補助金率が高い高校以下の学校が含まれていることが多いので、各法人の経常的支出に対する補助金収入の比率は、大学部門のみの場合よりも高い場合が多い。しかしそれでも、経常的支出の20%以上に相当する補助金収入を得ている大学法人は、全体の34%に過ぎない。寄付金や補助金以外の部分のほとんどは家計負担である。
 仮に、2011年度に家計が負担した施設設備資金(総額3760億円)の2分の1を補助金によって賄うとすれば、家計負担額は学生1人当り年間9万円ほど減少する。現状の私学助成額にもとづく推計によれば、政府が負担した私立大学費用に対する政府便益の倍率は非常に高く、10.1倍である(矢野眞和「費用負担のミステリー」『大学とコスト』岩波書店、同「大衆のための大学政策を考える」『教育学術新聞』2013年7月24日)。施設設備資金の2分の1を政府が負担することにより、この値は7.8倍となる。総額負担であれば、6.4倍である。私立大学が社会に「奉仕」している状態にあることに変わりないが、国立大学の値(1.9倍)に多少なりとも近づく。私立大学の私的収益率と財政的収益率の差も縮小する。
 補助金で整備する施設設備については一定の規格も必要となるだろうし、大学の宗教的施設に対して補助金を交付するわけにはいかない。特有の施設設備は、その趣旨に賛同した寄付金によらなければならない。補助金による施設整備には、当然ながら制限がある。
 私立大学の施設設備が補助金を得て整備される場合は、それだけ公共的役割を果たすことが求められる。こうした施設設備を、地域社会の人々の生涯学習等にも広く利用してもらうことにより、私立大学が地域文化の核になることも期待できる。
 そもそも、大学法人の施設設備(資産)は、法人が存続している間はもちろんであるが、たとえ解散したとしても、他の学校法人等や国庫に帰属し、永続的に教育事業に供されるものである(私立学校法第51条)。この点も踏まえ、私立大学の物的基盤である施設設備に対する助成が充実することが望まれる。


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