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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.520
改正労働契約法への対応 有期雇用の在り方をどう位置づけるか

上杉 道世(慶應義塾大学信濃町キャンパス事務長)

1、労働契約に関する法律
 労働契約に関する規定を含む法律には労働基準法と労働契約法がある。
 労働基準法は、労働条件に関する基本的な法令であり、労働条件の最低基準を定めている。労働基準法の規定に違反した場合には、労働基準監督署の監督指導の対象となり、罰則が適用される場合もある。
 これに対し労働契約法は、労働契約に関し、労働者と使用者が守るべき民事的なルールを定める法律であり、紛争があった場合は最終的には民事上の裁判で判断されることになる。労働契約法は平成20年から施行されている新しい法律であり、労働関係を安定させるため、労働契約の基本的な理念、労働契約に共通する原則、判例の積み重ねに沿った民事的なルールなどを定めている。具体的には、労働契約の成立、労働契約の内容の変更、就業規則と労働契約の関係、労働契約の継続及び終了、期間の定めのある労働契約等について定めている。
2、平成24年8月の労働契約法の改正
 有期労働契約は、パート労働、派遣労働をはじめ、いわゆる正社員以外の労働形態に見られる労働契約のタイプであり、有期労働契約で働く人は全国で約1200万人と推計されている。
 有期労働契約で働く人の約3割が、通算5年を超えて有期労働契約を繰り返し更新している実態にあり、その下で生じる雇い止めの不安の解消が課題となっていた。また、有期労働契約であることを理由として不合理な労働条件が定められることのないようにしていく必要もある。労働契約法の改正は、こうした問題に対処し、働く人が安心して働き続けることができるようにするためのものである。
 平成24年8月の労働契約法の改正は、次の三つのルールを定めたものである。
 (1)無期労働契約への転換。有期労働契約が繰り返し更新されて通算五年を超えたときは、労働者の申し込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールである。
 (2)「雇い止め法理」の法定化。最高裁判例で確立した「雇い止め法理」が、そのままの内容で法律に規定された。一定の場合、使用者による雇い止めが認められないことになるルールである。
 (3)不合理な労働条件の禁止。有期契約労働者と無期契約労働者の間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることを禁止するルールである。
 (2)は平成24年8月10日から、(1)と(3)は平成25年4月1日から施行された。
3、無期労働契約への転換のポイント
 ここでは、特に学校現場への影響が大きい無期労働契約への転換について見ていきたい。
 〔対象となる労働者の範囲〕労働を提供することに対し、報酬(賃金)が与えられるすべての労働契約が対象となる。契約職員やパートタイム職員はもちろん、非常勤講師、学生のTA/RA、研究プロジェクトで期限付き雇用した研究者などもすべて含まれる。特定の仕事を注文してその完成に対して報酬が支払われる業務委託(委任、請負)は対象外だが、実質的な雇用だとみなされないよう注意が必要。派遣労働者は派遣会社が雇用主である。
 〔通算五年を超えての更新〕1年契約であれば、4回の更新でちょうど5年となり、6年目の更新期間が開始された日に無期雇用への転換の申し込みができる権利が発生する。3年契約であれば2回目の更新をして3年目に入ったところとなる。同一の使用者との間の契約であるので、同一法人内で所属、身分、業務等が変更されても5年の通算にカウントされる。改正法は平成25年4月1日以降開始された契約に適用されるので、最も早く適用となるのは平成30年4月1日である。
 〔無期転換の申し込み〕有期雇用労働者は、現在の有期労働契約期間中に通算契約期間が5年を超える場合、その契約の末日までの間に無期転換の申し込みをすることができる。申し込みをすると、使用者が申し込みを承諾したものと法律でみなされ、その時点で無期雇用労働契約が成立する。申し込みの形式は自由である。申し込みは労働者の権利であり、申し込みするかしないかは労働者の自由である。
 〔無期転換後の労働条件〕無期転換をした場合の労働条件(職務、勤務地、賃金、労働時間など)は、別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一となる。つまり、期限の定めがなくなるだけで、労働条件が従来その組織で正社員とされている人々と同一になるわけではない。無期転換後の労働条件は、あらかじめ就業規則、労働契約等で明確にしておくことが望ましい。労働条件を労働者の不利益に変更しようとする場合は、不利益変更の合理性が問われる。
 〔クーリング〕有期雇用とその次の有期雇用との間に、契約のない期間(空白期間)が6ヶ月あるときは、空白期間より前の有期雇用期間は通算契約期間には含めない。これをクーリング期間と言う。カウントの対象となる契約期間が1年未満の場合は、その期間の長さに応じた短いクーリング期間が定められている。
4、「雇い止め法理」の法定化
 有期労働契約の契約期間が満了する時、使用者が更新を拒否することを「雇い止め」という。労働者保護の観点から、一定の場合にこれを無効とする判例上のルール(「雇い止めの法理」という)が確立しており、このたびの法改正により労働契約法に条文化された。
 過去に反復更新された有期雇用でその雇い止めが無期雇用の解雇と社会通念上同視できるもの、及び、労働者が有期雇用の更新を期待することについて合理的な理由があると認められるものが対象である。雇い止めの有効無効の判断要素は、業務内容の恒常性、労働条件についての正社員との同一性、雇用の継続を期待させる当事者の言動、契約更新の手続き・実態、他の労働者の更新状況等であり、これらを総合的に判断されることが判例上確立している。その結果、使用者の「雇い止め」が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は従前の労働条件と同一の労働条件で労働者からの更新の申し込みを承諾したものとみなされる。
5、不合理な労働条件の禁止
 賃金や労働時間などの狭義の労働条件だけでなく、災害補償、服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生など労働者に対する一切の待遇について、有期契約労働者と無期契約労働者の間で、期間の定めがあることにより不合理に労働条件を相違させることを禁止するルールである。不合理かどうかは職務の内容、変更の範囲などを考慮して個々に判断される。
6、今後の課題
 以上が改正労働契約法の要点であり、本年4月1日の改正法施行に向けて各大学では、5年後の無期転換を防止するために新たに結ばれる有期雇用について更新の上限を明確にするなどの制度改正をしたと思われる。
 しかし、より長期的な課題としては、有期雇用は今や大学にとっては欠かせない役割を果たしているのだし、今後ともこの傾向は続くのだから、有期雇用のあり方をどうしていくのか各大学できちんと位置づける必要があると思われる。改正労働契約法の新しいルールを踏まえた上で、有期雇用職員であっても、優れた方々を確保し、能力を発揮して業務に貢献してもらうあり方を模索していく必要があるのではないか。
 参考資料:「労働契約法改正のあらまし」(厚生労働省HPより)


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