アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)
No.482
私大は結束し政府に要請を 消費税増税と学校法人の経営
消費税増税について、国会審議が紛糾している。
本年3月30日、政府は消費税率を平成26年に8%、平成27年に10%に引き上げることを主とした消費税増税関連法案を国会に提出した。わが国の財政は少子高齢化に伴う介護、医療、年金の増大、さらには東日本大震災など、歳出超過は極限に達し、1000兆円に迫る国債のほか地方債の負担も重く、EU諸国と同様に、通常の常識であれば財政破綻たるデフォルトとなる危険性が生じている。反面、わが国の国民貯蓄額は、1400兆円超、保有ドルなど外債保有は中国に次いで世界第2位であることが救いである。
この苦境を脱するために、政府は消費税10%を目標にした法案可決を進めている。この起因は世界各国の付加価値税率との比較が法案提出の一因である。例えば、イギリス、イタリアは20%、ドイツは19%、フランスは19.6%、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンは25%などで推移し、アジア諸国でもオーストラリア、中国、韓国では10%であり、5%を維持している国はカナダ、台湾とわが国のみである。これらの世界各国の比較でも、わが国は税率が低いという財務省などの調査で消費税アップに踏み切ったのである。
現行の5%(うち1%が地方税)は国民生活に定着しているが、10%という高負担になれば国民の消費支出に影響し、経済減速になりかねない。
消費税率の引き上げによって租税目的の一端となる所得格差が拡大することが危惧される。低所得者ほど高負担になる逆進性の問題があり、中小企業者にとっても価格転嫁は極めて困難な経済状況となる。例えば、売上高1億円以下の企業では、売上に含めて価格転嫁は困難であるとする統計もある(中小企業庁、日本商工会議所・平成23年9月)。
野田内閣は平成21年改正所得税法附則104条を受けて、本年1月6日に「社会保障税一体改革素案」を公表し、2月17日閣議決定、3月30日に法案提出となった。
国会議論としては、政局に絡んで、逆進税ではないが、経済状況の悪化、マニフェスト違反、歳出削減が思うように進んでいないなどの理由で審議が難航している。
また、平成22年7月国税庁の発表では、国税滞納額6836億円で、そのうち消費税額は3398億円となっており、消費税滞納の割合は49.7%を占めている。仮に10%とした場合の滞納額はかなり増大する恐れが生ずるものと想定する。
学校法人への消費税アップ
消費税の非課税の分野である学校法人、医療法人を含めて病医院、保育や福祉介護を担う社会福祉法人などは、消費税10%が実施された場合は大打撃を受けることは必定である。
学校法人では校舎等の建設や改修、機器備品の購入その他教育研究経費、管理経費などに多大な課税対象の資金支出があるが、その大部分が学納金その他の収入であるため、仕入税額の還付ができず、さらに学納金に価格転嫁することはできない。学納金等のアップも考えられるが、少子化の進行、国公立学校や他の学校法人との競合もあり、現在の経済状況では値上げ困難な法人が大部分である。なお、イギリスのゼロ税率が望ましいが、一か国のみであり、他の国では原則の付加価値税率のほか、軽減税率(食料や新聞、宿泊施設等は2.1%〜7%)の適用による二段階税率が実施されている。
消費税法改正に当たってはその事業体が、公共公益的な性格を有する場合、私学団体は「従前の5%の軽減税率を維持するよう求めることが望ましい」と強く要望すべきである。これによって、校舎建築、施設の修繕や改良、機器備品の取得、教育経費、管理経費の負担は従前と同様になる。
例えば、社団法人日本医療法人協会は平成24年税制改正に関する要望書を政府に提出している。本文は、「医療機関は消費税が上乗せされた医療機器や医薬品、医療材料、消耗品等を購入しているが、医療が非課税であるため仕入税額控除を通じて仕入税額の還付を受けることはできない。他の非課税事業者ならば、この仕入税額分を商品価格に転嫁して回収できるのに対し、医療の対価は法令上、社会保険医療報酬として決定されているという特殊性があり、転嫁することもできない」と主張している。
政府としては、消費税は経済の状況に関係なく安定した財源として確保できると予定している。しかし、課税売上が極めて少ない学校法人等には多大な負担となり、かつ、経済的弱者や中小企業等価格競争の弱い者などは、価格転嫁が困難である。政府はその点を配慮し、「社会保障税一体改革大綱」の実施に当たり、慎重かつ詳細な配慮が必要である。
消費税増税に当たり、私学団体では緊急に結束して、政府に強く要請すべきである。