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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.473
学校法人の在り方G
設置校の独自性と法人の一体性 運営における連帯・協働の確立

研究員 増田貴治(学校法人東邦学園愛知東邦大学理事・法人事務局長)

 人口減少と公的助成の切り下げが続く中で、学校法人はあらゆる力を有機的に結びつけて、経営力の強化を図っているだろうか。
一、競争的環境を捉えなおす
 18歳人口は2020年頃から下降し、2050年には中位推計で67万7000人とされる(国立社会保障・人口問題研究所推計)。若年人口の減少が顕著となるこの先、学校法人は今まで通りの発想や姿勢で経営し続ければ恐らく行き詰まる。1000兆円もの国の借金に加え、東日本大震災の復興費用ものしかかり、私学への公的補助増額を期待するのは難しい。政府の「中期財政フレーム」(2011年8月閣議決定)は義務的経費を抑え込み、「新成長戦略」実現のため、重点経費ですら一旦は10%削減するよう求めている。経常費補助金も見直され、特色ある教育づくりを支えてきた競争的資金までが改廃・削減の対象である。
 いくつかの学校法人がこの数年、分離や統廃合を余儀なくされた。経営環境がさらに悪化する現在、これらの事例は、大学や高校という設置校単体だけの問題ではなく、学校法人全体の経営力の問題として捉えるべきである。理事会のガバナンスが問われている。2004年の私立学校法改正により、学校法人の最終的な意思決定機関は理事会であると明確化された。理事会がステークホルダーに対して果たす経営責任は、従前に比して重要なものとなった。その意味でも、理事会が様々な機能を拡充・強化し、全設置校を統括する学校法人として万全な経営体制を整える必要がある。
二、私立学校の設置者としての学校法人の機能
 1975年の私立学校振興助成法成立で、補助対象法人は学校法人会計基準に則って経理処理することとなった。学校法人は計算書類で学園全体の収支を取りまとめるが、決算における法人全体の収支バランスが経営状況を表わす。学校法人の永続性を担保する教育活動へ資金を投じるため、赤字部門へ黒字部門から絶えず補うとすれば、妥当性や節度が問われる。保護者らの納付金が「他校」に費やされるからだ。ある高校では、人件費の対帰属収入比率が90%超に達し、大学が億単位で補填し続けているという。大学生の学生や保証人が実態を知ったらどう受け止めるか。私学は独自性や多様性を理由に、同じ法人内でも設置校ごとに給与水準や運営方法が異なる場合がある。それがガバナンスを弱めれば、法人全体の弱体化を招く。学校法人における複数の設置校は、本来親密な連帯関係にあるはずであるが、互いに別法人のような意識で、協力が得にくいケースを耳にする。
 社会から学校に付託された使命や役割への期待が一層大きくなる一方、経営環境が厳しさを増す状況では、学校法人は全体のビジョンづくりやこれを実質化する戦略的な中長期計画の立案など、新たな付加価値を創造する運営を検討する時期にある。理事会は全設置校を包括した全学的視点を持って、学校法人全体をリードすべき存在である。各設置校の教学活動を点検し、それぞれの教育ノウハウや施設などの教育環境を共有財産と捉えれば、連携可能な新たな教育プログラムや教育システムを再構築することができる。教職員の英知を結集すれば、限られたリソースを、最大限に活かす方途となる。
三、学校法人としての連携のあり方
 言うまでもなく、私立学校における入学者の確保は学園経営の生命線である。そのために最も重要な点は「特色ある教育づくり」である。複数の設置校を持つ学校法人であればこそ、個々の設置校が有する特色ある教育プログラムに加えて、キャリア教育や教養・専門教育など設置校間で連携、接続した様々な教育のメニューを設計できるであろう。
 どう取り組むか。最近では、様々な連携先との相互理解をはかる機能としての専門会議や機関を設置するなど、連携教育の研究開発に取り組んでいる事例も多くある。オープンキャンパスや出前授業、大学生を対象とした基礎学力向上のための補習授業などが行われている高大連携の推進などが挙げられる。これらの取組みの満足度がマーケットを広げ、ブランディング化に繋がっている。これからの学校法人は、ブランドを構築するために様々な連携を模索する中で、全てのリソースを有効に活用して、最大の教育サービスをつくり出そうという意識への変革と知恵の勝負である。
 地域連携は、社会貢献の場としての学園全体の力量が試される重要テーマである。とりわけ東日本大震災以降、防災対策を中心とした様々な取り組みが行われ、地域との「絆」を深めるために、より重要視されている。また、いくつかの大学が連携することにより、個別の建学の精神に立脚しながらも、一貫する教育システムを学園としての特色ある教育として打ち出すことができる。設置校それぞれが主体的に役割と責任を果たすという方針のもと、情報を共有して相互の状況や課題を理解し合う。各教育機関が対立する関係ではなく、個々に持つ課題をすり合わせて相互に共通する課題として整理し直し、課題解決にむけて有機的に連携、結合の道を探るのである。リソースを増やすことに限界があっても、パフォーマンスを最大化する新たな工夫の余地が出てくる。学校法人として設置校との一体感をいかに醸成して、親密な連携のあり方を具体化するかが喫緊の課題であろう。
四、連携を実現する教職協働
 学校法人が存在価値を高め、外部から評価されるには、教職員が一体となり協力可能な戦略化した将来計画とあらゆる経営資源を有効に活用して最大の成果を発揮する組織運営が必要であると考える。設置校の主体性を尊重しつつ学校法人全体の目標実現への強い執行統制が求められる。教職協働での戦略経営の確立こそが、改革の持続性を保証し、激変する環境の中で自らのミションを見失うことなく前進することにつながるといえる。教職員が自法人の抱える課題を共有して、この経営と教学における各戦略の一体化による改革ビジョン、学校法人における設置校全体の共通目標を立てる。そうした組織力をより高めるための教職協働に一致して臨んでこそ、はじめて各設置校評価の向上につながる改革が実現可能となる。
 中でも事務組織は、経営と教学のリーダーである理事長や設置学校長をサポートする機能として、設置校との連帯と協働を確立するよう有効に機能しなければならない。これは学校法人の規模や組織風土・文化、ステークホルダーの実態など設置校のおかれた状況にあわせて、より相応しい管理運営のあり方を模索することになる。理事会は経営能力のある理事長を中心とした経営集団として適正なマネジメントとガバナンスを期待され、教学組織もまた学長・校長を中心に経営問題を併せ考え、教学と経営とを一つにした総合判断が求められる。また、学校法人がその目的を有効かつ効率的に達成するためには、IRによる情報の一元化を行い、設置校との調整機能をはたす内部統制の仕組みが必要で、PDCAサイクルを構築し、実行することが「質の保証」に繋がる。自校の強みと弱みをしっかりと分析して補う力を自ら養い、成長し、進化し続ける組織へとその体質を変えなければならない。

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