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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.461
認証評価第2期目の課題 第49回公開研究会の議論から

主幹 瀧澤 博三(帝京科学大学顧問)


認証評価見直しの時期
 大学教育のユニバーサル化、グローバル化の進展とともに、教育の質が大学改革の中心的な課題として浮上し、教育の質保証への要請が世界的に高まってきている。そうした中で、わが国では、やや出遅れの感があったが、平成16年に認証評価の制度がようやく発足した。すでに第一期7年の経験を経たところで、第二期を控えて評価システム見直しの議論が盛んであったが、各認証評価機関での真剣な検討を経て、それぞれに概ね同じ方向性を持った評価システムの改定が行われることとなった。今これらの動向を巡って説明会、シンポジウム、研究会等が盛んである。
 私学高等教育研究所では、日本高等教育評価機構での評価システム見直しの検討と並行し、これに協力する形で、認証評価の現状の問題点、諸外国の質保証の動向等の調査・研究等を進めてきたが、昨年3月にはこれらの成果をまとめ、当研究所の研究叢書として発刊したところである。10月11日の公開研究会では、それらの内容を中心として、日本大学文理学部教授の羽田積男先生、大学評価・学位授与機構准教授の森 利枝先生及び私(瀧澤)が発表するとともに、「分野別質保証の在り方」についての日本学術会議における検討の状況について日本大学文理学部教授の広田照幸先生に講演していただいた。これらの発表内容を、紙面の制約もありごく断片的になるが紹介したい。
問題意識と改善の方向
 まず、瀧澤からは、第一期の認証評価の経験を踏まえて、各認証評価機関が抱いた問題意識として、認証評価の基礎となるべき自己点検・評価が、自主的な質保証として本来の機能を充分に果たしておらず、そのことが、認証評価の有効性、効率性にも支障をあたえていることを挙げた。かつ、そのような自己点検・評価の問題は、大学側の責のみに帰するべきではなく、認証評価のシステム自体にも問題があるという認識を示した。そして、この点の改善のためには、自己点検・評価が評価機関に向けての説明に偏ることなく、主体的な質保証として実質的に機能するよう、認証評価と自己点検・評価との関係を再構築すべきだとし、具体的には、@点検評価項目は、大学の特色を生かし主体的に定め得るようにする。A点検評価の結果については、大学が自ら基準への適否の判定を行うとともに、判定理由としてエビデンスを重視するなど、自主的に社会への説明責任を果たしうるようにする必要があるとした。
 また、自己点検・評価のこのような状況を招いた原因は、認証評価制度の導入にあたって、規制改革による市場主義的な原理が大学教育の質保証にも画一的に適用され、この制度の目的・性格を不明確にしたことにもあり、今後、特に「事前規制から事後チェックへ」の原則の質保証への適用については慎重な再検討が必要だとした。
分野別質保証の在り方
 中教審答申「学士課程教育の構築」は、「学士」が如何なる能力を証明するものかを明らかにする必要があるとし、分野共通的な能力として「学士力」を提言したが、分野別の質保証の在り方については日本学術会議に審議を依頼していた。同会議ではこれを受け委員会を設けて審議した結果を昨年七月「回答」として取りまとめた。広田先生はこの委員会の委員として取りまとめに当たられた立場から、「回答」の内容及び今後の課題について解説をして頂いた。
 「回答」は、@分野別質保証の枠組み、A分野別質保証と教養教育との関わり、B大学と職業との接続の問題の三部からなる。質保証の枠組みについては、分野別に教育課程編成上の参照基準(これは英国のSubject Benchmark Statementを参考としている)を策定することを通じて、各大学の自主的な教育改善を支援することを目標としている。したがって、参照基準はコア・カリキュラムの策定や最低水準の設定を意図するものではなく、これが定型化しないような工夫が大事である。この枠組みは、これまでカリキュラムの理念や体系性が不明確で、その履修によって学生が何を学べるのかと言う視点が欠けていた点を改善し、アウトカム像を明確にしたカリキュラム編成を促そうとする意味を持っていると説明した。
諸外国の動向
 1. 学習成果をどう示すか:大学のグローバル化に伴って、質保証システムの検討に当たっても、グローバルな動向をフォローし、その意味を理解することが不可欠になった。その意味から羽田先生は、2007年の米国教育省のスペリングス報告が学習成果の重視を提起して以来の米国内の動向、特にWASK(西部地区大学協会)を例としてアクレディテーション機関の対応等について説明するとともに、中間的機関が学生満足度調査等の間接的な調査や標準試験による直接的調査を実施し、多くの大学がこれらを学修成果の評価に活用している状況などを紹介した。
 振り返って国内の状況については、大学・短大の四評価機関を比較し、いずれも第二期に向けての新しい評価基準では学習成果の評価を導入しているが、四機関の対応には温度差があると指摘した。日本の現状は、学修成果の評価方法についても多くの大学が研究途上であるし、中間的な調査・試験機関が今後どのように展開するかも未知数であり、学習成果の評価について日本が米国と同じ方向をとるか、違う方向に向かうかはこれからの問題だとした。
 2. 認証評価は何を目指すか:森先生は世界の第三者評価を俯瞰しつつ、米国を中心に、高等教育政策と第三者評価の関わりに視点を置いて話を進めた。世界の第三者評価機関は、政府との距離によって便宜的に分類すれば、@政府の一部、A政府系、B政府による認可(日本はここ)、C政府とは原則無関係の四つに分け得る、そして全般的に政府との距離は縮み、政府の影響が強くなる傾向にあるとした。
 米国では、高等教育法に基づくルールを設け、これに基づかない機関の学生は奨学金受給資格を失う可能性がある。評価機関には、単位制等のルール遵守の確認を期待されており、多くの評価機関がこの連邦政府のこの方針をフォローするとしている。こうした政策の動向は、営利大学、遠隔教育大学をターゲットに、高等教育機関を再定義することによって機関数・学生数を絞り込み、過去10年間に50%増大した高等教育予算を削減しようとする連邦政府のねらいがあると思われる。
 翻って、第二サイクルを迎えるわが国の認証評価は何を目標とするのか、大学の利益を代表すべき評価機関として何が実質的な目標かを明確にする必要があると締めくくった。
 以上のように、今回の話題は、分野別質保証の在り方と学習成果の評価というこれからの認証評価にとっての最も大きな課題であり、更に認証評価の目標は何か、政府との関係はいかにあるべきかという、まさに基本の問題に及んだことは、研究会の内容を非常に深いものにしたと思う。時間の制約のため、フロアとの応答による議論の充分な展開を見ることができなかったことは残念であったが、これを契機に関係者の間で更に議論が深められることを期待したい。

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