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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.432
認証評価第二サイクルの課題 
学生の学習成果をどうするか ―上―

研究員 羽田 積男(日本大学文理学部教授)


 筆者は、昨年7月7日号の本欄に、「学習成果を大学に求めるか―米国の認証評価に学ぶ―」という記事を寄稿した。第1サイクルの7年間すべての年に評価員として加わった経験からすると、本年は認証評価の第2サイクルに入る年であり、実に感慨深い。そこに時代の変化を感じるからである。
 わが国の機関別の認証評価機関には4つの代表的な機関があり、それぞれの機関が第1サイクルを振り返り、反省点を踏まえ、時代の方向性を見据えながら、いま第2サイクルの評価基準を設定し、評価法に改善を加え、より迅速で効果的な評価法を構築しているに相違ない。筆者もまた7年の評価員の他に、日本高等教育評価機構において評価基準の改善や評価員の養成方法などについての検討委員会の末席に列なってきた。
 こうしたなかで、わが国の代表的な認証評価機関の第2サイクルの評価基準を読むと、第1サイクルにおいてはあまり問われなかった基準があることが分かる。それが、昨年も本欄で取上げ、また今回も取上げようとする学生の学習成果をどうするかということである。学生の学習成果(Learning Outcomes)とは、アメリカのアクレディテーション過程でも求められている、大学が示すべき教育の成果であり、学生の学習の成果である。外部の教育調査機関などもこれに参加して外部から調査や標準テストなど用いて測定評価する。学生の学習成果をエビデンスとして示すことは、大学の最も重要な責務である。
 わが国の認証評価機関は、第2サイクルの評価基準の中で、次のように学習成果を求めている。もちろん、まだ修正が施される余地は残っているが、基本的にはこの評価基準を向こう7年間にすべての大学・短期大学に求めることになっている。
 【大学基準協会】平成22年3月改正
 基準4:教育内容・方法・成果について
 〔基準の解説4:成果〕大学は、学習成果を的確に評価するために、その評価方法や評価指数の開発に努めなければならない。
 【大学評価・学位授与機構】平成20年2月改正
 基準6:教育の成果
 6-1:教育の目的において意図している、学生が身に付ける学力、資質・能力や養成しようとする人材像に照らして、教育の成果や効果が上がっていること。
 〔趣旨〕教育の成果を、適切な情報をもとに正確に把握しなければなりません。
 【日本高等教育評価機構】平成22年12月現在改正中
 基準2:学修と教授
 2-6 教育目的の達成状況の評価とフィードバック
 @教育目的の達成状況を点検・評価するための工夫
 【短期大学基準協会】平成22年7月改正
 基準T:建学の精神と教育の効果
 B教育の効果
 教育の効果は、学習成果を量的・質的データとして収集し、そのデータを分析・解釈して顕在化することで判定できる。
 B-2-(3)学科・専攻課程の学習成果を量的・質的データとして測定する仕組をもっている。
 基準U 教育課程と学生支援
 A 教育課程
 A-4 学習成果の査定(アセスメント)は明確である。 
 (1)学科・専攻課程の教育課程の学習成果に具体性がある。
 (2)学科・専攻課程の教育課程の学習成果は達成可能である。
 (3)学科・専攻課程の教育課程の学習成果は一定期間内で獲得可能である。
 (4)学科・専攻課程の教育課程の学習成果に実際的な価値がある。
 (5)学科・専攻課程の教育課程の学習成果は測定可能である。
 ここに示したように、わが国の新年度から始まる認証評価の基準には、学習成果を求める基準や項目が溢れている。過ぎし7年の間に起きた認証評価の基準や内容にこのような大きな変化をもたらしたのは、わが国の認証評価が追尾しているアメリカのアクレディテーションの方法や基準の見直しなどの変化があろう。
 もともとわが国において、認証評価の制度設計がなされる契機には、大学の中身が見えないという、社会からの批判的な声があったように思う。その中身を具体的に目に見えるように示すには、各認証評価機関が示しているような評価基準が必要とされるようになったのである。ましてや大学設置認可の大綱化に伴って、大学を事後チェックによって厳しく見張るという事態も周知のことになろう。
 主要な認証評価機関のなかで、特に短期大学基準協会が詳細な基準・項目を設定しておりいささか異彩を放っている。短期大学がたった2年か3年のうちにその教育成果を上げ、それを社会に説明することは必ずしも容易でない。
 例えば、入学後まもない5月には早くも保育実習などが始まり、大学でのノートのとり方もままならないうちに大学での学習が急ピッチで進む。2年目には教育実習も待っている。まさに忙しいのである。大学がその学習成果をエビデンス付きで証明することも容易ではなかろう。しかし、学習成果に対する評価機関の要求もある種の自信に満ちているように感じられる。そこには、職業選択などに密着した具体的な教育課程があり、忙しい教育によって、学習の成果を目に見えやすくすることができることもあろうか。
 各評価機構の基準に対して、評価を受ける大学側は学生の学習成果についてエビデンスをもって応えことになったが、どのようなエビデンスや資料が必要かは、評価機関も大学側双方も現時点ではあまり明らかにしていない。いずれにしても教育の内容や質を保証するのは、当然のこと大学個々の課題ではあるが、これを外部から支援するシステムの構築もまた緊要なように思われる。
 例えば、A大学の外国語学部の英語クラスBの期末試験の平均点77点は、どのような意味があるのか。学生も真面目に学び、担当講師の努力も推し量られるが、平均点77点は、例えば海外留学に十分な実力を保証しているであろうか。それにはやはりTOEFLのスコアの方が国際的な通用性や説得力においてはるかに確かであろうと、誰もが言うであろう。ここに外部の教育調査や標準的試験などの効用があろう。外部の教育調査機関の出番である。
 昨年の本欄で、わが国に育ちつつあるこれらの調査機関や学生調査について触れたが、やはりアメリカの先進的な例について学んでおくことは重要なことではなかろうか。アメリカでは、大学と学生との中間に位置して、教育の効果や学習の成果を調査する機関は多様に存在する。ここでは、中間的教育機関と呼んでおきたいが、これらの機関の存在意義は大きいものがある。
 これらの機関は、大学外部から学生にアンケートや満足度調査などを実施して、学生の知的・人間的な成長を測ろうとする、いわば間接的な調査である。他方、学生の英語力や文章の分析力あるいは数学の実力をテストによって測定し、学習の成果をより厳密に測ろうとするより直接的な調査がある。一般教育・教養教育ではそうしたことが可能であろう。
 UCLAで開発されたCIRP(Cooperative Institutional Research Program)は、前者の代表的なひとつであり、その日本版JCIRPは、わが国の大学でも次第に受け入れられつつある。昨年も紹介したNSSE(National Survey of Student Engagement)もこれと同様な間接的な調査であり、UCUES(University of California Undergraduate Experience Survey)なども同じカテゴリーに整理できる。
(続く)

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