アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)
No.424
大学情報の公開は自信の表れ
同志社大データ集に学ぶ
大学の基本情報公開が義務化される
2011年度の春から、大学の基本情報をホームページ上などで公開することが義務化される。誰でも大学に行く今日、大学が778校、短期大学が395校あるその中から、受験生が進学先を決定する場合の重要な情報とするため、とされる。だが、その情報は、受験生以上に、大学の教職員自身に必要である。大学に何年も勤めていると、大体のことは知っていると思うものである。これが実は落とし穴となる。いざ具体的な数字を聞くと簡単な基本情報を意外と知らない、あるいは、知らされていない。教職員が自大学の基本情報すなわち自己の大学の立つ位置がわからなければ第3者に説明できない。聞かれても答えられない。担当じゃないからわからない、とたらい回しをするそんな大学に、だれが受験させるものか、とよく卒業生に言われたものである。
大学設置基準の大綱化後、自己点検・評価にかかわる基礎データが必要になったが、整理されていなくてわかりにくいとか、大学の経営情報は併設する学校等の法人情報と重なってわかりにくい、あるいはホームページ上に公表していてもマイナス情報はあえてわかり難くしているのではないか、とも言われたことがある。
国立大学は、法人化後、ずいぶんと実態がわかりやすくなった。「○○大学」「概要」で検索すれば、だいたい大学基本情報にアクセスできる。だが、私学の場合は、その「概要」の説明内容に幅がある。力点は、受験生獲得のための入試情報にあるため、学費と並んで目玉となる奨学金、それに楽しい写真入りの学園生活がいわば定番である。大学組織については、組織図程度で、どのような仕事をしているかは、組織の名称で推測する以外にない。ましてやだれが何を担当しているかはわからない。
大学情報の公開は大学の自信と誇りの表れ
大学運営の現状を知りたくて外国の大学のホームページによくアクセスする。といっても、英語圏の大学に限られるが、日本の大学よりもはるかにおもしろい。各組織のミッションや、大学の諸組織の活動についても、その存在理由を高らかにうたっている。しかも誰がその仕事を担当しているかはもとより、各組織の全員のメール・アドレスまでが公開されている。これが常識なのかといつも驚く。
専門職とされる担当者にアクセスすると、学歴、職歴、現在の職務内容はもとより、顔写真も掲載している人が多い。第3者の私でも容易にアクセスすることができるのだから、変な奴からのアクセス対応はどうしているか、と人ごとながら心配にもなる。どうしてそうしているのか。たぶん大学にあるひと全員が大学の基本情報を共有して働くことを前提としているのであろう。そうであれば、担当者の転出・転入等の異動があっても、常時、情報を公開しておけば、質を落とさず、すぐに仕事ができるからにちがいない。
公開情報からわかったことがある。クラーク(一般事務担当者)が非常に少なくなっている。セクレタリーも上級管理職である部長職以上に限定されている。ただ昔にはなかったコーディネイター職が増えている。全学の情報化で、仕事の内容が高度化し、その仕事の方法が変わる。それに伴い組織が見直され、組織の統廃合がおこる。新しい組織となれば、そのミッションは詳しく説明されている。
大学の基本情報は学外にも世界にも公開されている。そう考えると、内容の面で日本の大学の国際化力は勝負にならない。はじめからアクセスの対象外となっている可能性が高い。
同志社大学の「大学基礎データ集」はすばらしい
とはいえ、日本の大学の現状を数字で知りたくなるものである。どこか基礎データを公開していないか、思いつくままに日本の大学50校程度を検索してみた。なんと同志社大学の「概要欄」に「大学基礎データ集」が2007年度から公開されていた。そのことを知らず、恥じ入るばかりだが、その公開内容は驚嘆に値する。
各大学とも財務の公開は進んできたが、基本情報のデータ公開はまだ限定的である。その内容にもバラつきが大きい。ところが同志社大学のそれは徹底している。各組織が、1年間の活動状況を、データを加工せず、事実を、すべて発表しているように思われる。いわば、各年度の『学事・経営年報』のデータ編というべきで、経年の数字を追えば事業の推移がよくわかる資料集となっている。一度、検索してみてほしい。
その目次を章立てにして紹介しよう。第一章:沿革(大学・大学院)。第二章:組織図(学部・大学院/事務組織)。以下はデータ集で、第三章:学生数(収用定員・学生現員表等12項目)。以下、括弧内は項目の数のみ掲げる。第四章:入学試験(17)。第五章:学籍異動(4)。第六章:卒業・修了(4)。第七章:学生生活(10)。第八章:学生支援(5)。第九章:就職(7)。第一〇章:開講・登録状況(4)。第一一章:授業状況(16)。第一二章:研究(22)。第一三章:学術情報(7)。第一四章:国際交流(7)。第一五章:教職員(7)。第一六章:施設・設備(11)。第一七章:財政(19)。第一八章:広報(3)。第一九章:参考資料(12)に分類され、項目数の合計は約170もある。
同志社大学財務部長の吉田由紀雄氏によれば、このデータ集は、1991年の大学設置基準大綱化による自己点検・評価に必要なデータを一元化し、学内で共有し、学外で大学の概要について語る際のデータ・ブックにしよう、と1995年から作成されたという。
その作成には企画部企画課の係長一名と係員1名が担当し、各項目は所管の課に作成を依頼しているが、実作業工数は企画係1人以下の作業量という。これほどの仕事であっても1人以下の作業工数とは、この大学の実力を証明するものである。しかも公表するかどうかは各大学の判断によろうが、その差は大きい。自分の仕事をデータで報告することは大学職員の基本的な仕事ではないのか。それをさせないのであれば、仕事の信頼をそぐ。各人・各部署が、担当する仕事を、毎年、基礎データを作成する。そしてそれをある箇所で取りまとめる。それを経年分析しておけば、経営陣の交代があっても経営判断に資することは間違いない。教育・研究の改革・向上にも指標として活用できる。実態を表わす数字ほど説得力あるものはないからだ。
ともあれ、これほどの詳細なデータをどこの大学にも先んじて公開しえたのは、同志社大学の矜持のなせる業であろう。これを同志社モデルとしてデータ・ブックを作成し、活用して、より優れた大学を目指したいものである。