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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.423
職員の力量を高めよ
大学マネジメント人材育成の展望

上杉 道世(慶應義塾 塾監局 参事)

一、大学マネジメント向上への期待
 私は、東京大学が国立大学法人となる時期の前後4年間に事務局長そして理事(人事労務・事務組織担当)を務め、行政組織から法人組織へ、公務員から非公務員への切り替えのため、様々な取り組みを行ってきた。そして現在は、大規模私立大学を経験しつつある。同時に、国立大学マネジメント研究会副会長や筑波大学大学研究センター客員研究員その他の活動を行い、国公私立大学のマネジメント向上と職員の能力向上のための活動を行っている。幸い様々な講演等の機会を通して、各大学の幹部や若手職員と意見交換する機会があり、各大学でも大学マネジメント向上への期待が高まっていることを感じている。
 国立大学の法人化は、単なる制度改正ではなく、各大学がマネジメントを自ら向上させる仕掛けと能力を持つという点が重要なポイントであっただろう。組織も個人も誰かからの指示を待って動くのではなく、自ら問題を設定し、解決していくようにしなければならない。国立大学の体質改善への道はまだ始まったばかりだが、教育・研究を活性化させそれを支えるマネジメントを向上させなければ国民の期待に応えたことにならない。
 私立大学においては、18歳人口の減少と大学選択の視点が厳しくなっていることを通して、各大学がどのように教育の魅力を発揮していくかが問われている。私立大学は自主自律の精神で様々な活性化戦略を展開してきているが、今後予想される更に困難な環境を乗り切っていくために質の高いマネジメントの展開が期待されている。
 このようにマネジメントの向上は設置形態を問わず各大学の課題となっているが、それでは誰がそれを担っていくのか。
二、大学マネジメントを担うのは誰か 
 誰が担うかといっても現実には教員と職員しかいないわけで、それぞれのマネジメント能力を高めつつ、更に必要な人材は大学の外部から獲得するしかない。
 教員については、本来の仕事はあくまで教育・研究であり、平素から教育・研究に全力で打ち込み優れた仕事を実現してもらうことを第一に考えるべきであろう。しかし一方で多くの大学で運営業務も教員が中心に担ってきた。今日の大学の業務は、たとえば財務運営も人事制度も学内外の情報を総合しての企画立案も絶えず改善し、よりよいあり方を追及する必要があり、とても片手間にできるものではなく、それなりの経験と学習の積み上げが必要である。したがってマネジメントに適性のある教員に早い時期から経験してもらい、力量を高めるといった工夫が必要であろう。
 また、外部からの人材は、うまく適合すれば能力を発揮することができるが、特に大学以外の世界から人材を迎える場合には注意深い工夫が必要である。個々の教員の考えを尊重し意思決定に時間がかかるなどの大学特有の特性を理解してもらいつつ、現状をよりよく変える方向での力量の発揮が期待される。また有能な人材を得るためにはそれなりの処遇が必要であり、ポイントを絞って少数精鋭を迎えるということになろう。
 結局、学内にそれなりの人数がいる職員について、その力量を高め、かなり重要なマネジメントの業務を担当してもらうことが必要である。教員と職員と外部人材がそれぞれの多様な能力を発揮し、協力して組織全体としての力を高めなければならない。これまで多くの大学では、職員は定型的業務に従事し、責任ある立場に立つことも少なかったかもしれない(もちろん職員が活躍している大学もある)。今後は、大学の業務に継続して従事する職員が、力量を高め、責任ある役割を果たすことが期待される。
三、職員の能力をどのように高めるか 
 最近SDという言葉が使われているが、私はこれを非日常的な研修と捉えるべきではないと考える。むしろ日常的な仕事の遂行そのものの中に職員が成長する仕掛けを組み入れ、よりよい仕事をすることがよりよい能力の獲得につながるようにするべきだと考えている。研修はうまく使えばよいきっかけになるが、あくまで補助的なものである。
 その成長する仕掛けの組み入れはどのようにして可能なのか。私は東大の時、多くの教員、職員、民間企業経験者とディスカッションを重ねて、「事務職員の人事・組織・業務の改善プラン」を作成し、実践した。
 このプランの特徴は、職員の採用、人事、評価、組織の改善、業務の改善、情報の共有、などの考えられる改善策を全部列挙し、現状でどこまでできているか、今年何をやるか、中長期的にどうしていくのかをできるだけ具体的に描いたことである。そして毎年実施状況を見ながら改定した。
 そして冒頭に、あるべき職員像を描いた。私から職員へのメッセージとして、組織と個人の両立、雇用の安定と能力向上の追求、高い専門性と幅広い視野の獲得など数項目を列挙した。同時に若手職員のプロジェクトにより職員ミッションを作成した。
 個々の取り組みとしては、職員独自採用による東大生をはじめとした優秀な職員の採用の実現、人事異動のガイドラインの策定と職員各自のキャリアプランの作成、目標設定方式によるコミュニケーションを重視した評価の実施、組織のフラット化、毎年の業務改善の提案募集と総長表彰による自律的改善の促進、理事と職員の直接ディスカッション方式による情報共有の促進などを行い、変化への一定の基礎作りはできたのではないかと思っている。これらの多くは企業でも試みられているものであり、大学という職場でもよい方法は応用するべきだ。
 そして研修は、学内も学外も、偉い人の話を受身で聞くのではなく、参加者の問題意識を持ち寄り、議論し、調べ、提案し、実践してみる方法を重視したい。学生への授業においても、一方的な講義は身につかず、対話型、参加型、調べ発表型、実践型学習が好評であり、大学職員の研修も同じであろう。
 ここ数年、国立も私立も職員採用に質の高い希望者が多数応募してくる。同時に職員が担わなければならない仕事も多様化・高度化している。職員の力を高め、その力の発揮により質の高いマネジメントを実現する大学が将来性のある大学であると考える。

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