アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)
No.413
税制改革に見直しを求む
国際競争力の強化を ― 下 ―
法人税制に関する問題と国際競争力の強化
近年、法人税率引き下げ論がにわかに浮上している。経済不況とわが国の国際競争力の低下に伴うGDPの低落に起因している。特にアジア諸国の急速な成長が世界第2位の日本を追い越すことは目に見えている。その要因は国際的に高負担の法人税率である。
企業の法人税率は、課税所得に対し30%(所得800万円以下の部分は22%・平成20年度、21年度に限り18%・資本金1億円超の法人は一律30%)で、地方税を含め課税所得に対する実効税率は40.69%である。それに比べ、イギリス29.0%、フランス33.3%、ドイツ29.83%、中国25%、韓国24.2%、台湾では25%を17%に引き下げた。アメリカは州により異なるが、カリフォルニア州では40.75%(基本税率35%で段階的に15%、25%、34%とされている)で、日本の高率さは顕著である。また、シンガポール、香港などでは17%以下で企業の競争力強化を図っている。
学校法人の所得は原則非課税であるが、収益事業の所得に対して法人税等が課税される。ただし、収益事業の課税所得の50%または200万円のいずれか多い額を教育事業に組み入れた場合、損金として費用に算入できる。結果的には収益事業の所得の2分の1は控除できるので、課税所得は大幅に減少する。法人税率は22%(平成20年度、21年度に限り年800万円以下18%)で、そのほか事業税は2.7%〜5.3%、地方法人特別税は事業税の81%、住民税は法人税額に対し17.3%で、実質法人税率は22%×みなし寄附金50%であるから11%の負担で、地方税を加えても実効税率17%程度となる。企業の実効税率40.69%と比べ、はるかに低率で税負担は軽い。
しかしながら、学校法人の行う事業のうち、法人税法上の収益事業に該当する所得については、その所得が教育研究に充てるものであれば、本来非課税と改正すべきである。また、学校法人の主たる目的は教育業であるから、法人税法の収益事業に含まれる技芸教授業を除外すべきである。
先進諸国の非営利法人の課税
アメリカにおいては、公益団体又は非営利団体(Exempt Organization又はNonprofit Organization)に対する収益事業課税について、1950年から全国的に統一した。同年、連邦議会に提出された租税教書(Taxmessage)に端を発したものである。内国歳入法(Revenue Act,1950)によれば、同法501条(C)に該当する場合は、内国歳入庁(IRS:International Revenue Service)に非課税団体認可申請を提出し、その許可を受けなければならないこととされている。IRS501条においては、第1号から第23号にわたってその範囲を規定しているが、わが国の公益法人のような制度はなく、各州での法制によっているため、全米統一ルールに基づいて、その内容ごとに非課税団体承認条件に該当するかどうかをチェックされる。IRSの許可を受ければ、寄附金の非課税措置が受けられる。なお、年度許可団体は80〜90万団体である。
その要件は厳しく、特にわが国の公益事業に類似する法人は(C)3号に該当し、非課税団体の承認を受けなければならない。なお、別に501条(C)第1号は、いわゆる公共機関(独立行政法人的なもの)が該当する。
(C)第3号は、宗教、教育、慈善、科学、文学、公共安全性向上、児童又は動物の虐待防止、全国又は国際アマチュアスポーツの促進など主たる目的とする法人である。
公益団体の本来の活動は、わが国と同様に非課税であるが、収益事業に係る所得課税については、わが国の法人税施行令第五条のように、収益事業を列挙する方式ではなく、非関連事業所得(unrelated business income)であるかどうかによって免税資格に与える仕組みになっているのが特徴である。本来の公益目的に実質的な関連性(relatedness)を有する場合の事業所得は非課税となる。要はその事業が本来の公益活動と直接関連であり、かつ、501条の所定の要件を満たすことである。反面、非関連所得に対して課税所得となるものは、@本来の事業目的と実質的関連がない、A事業又は取引を営んでいる、B継続して営まれていること、いずれの要件を有するものとされている。ちなみに、ボランティア活動の一環として団体のために営まれる事業に関して、原則として無報酬で労務を提出している場合は、関連事業として免税扱いされている(IRS財務省規則等で定められている)。要は、わが国のように収益事業の範囲を列挙するというより、本来の教育活動などのために関連する事業であるかどうかによって判断するものであり、今後の収益事業活動のあり方の論点になろう。IRS許可団体に対する寄附金は、個人の場合は原則として課税所得の最高50%までを確定申告で控除、法人は課税所得の10%まで控除できる。
イギリスでは、政府の登録チャリティ(Charitable Corporation)制度により、公益目的事業を審査し非課税承認を与えている。現在約20万団体超と推定される。ドイツでは、民法に基づき、その目的により経済法人(wirts-chaftliche vereine)と非経済法人(ideale vereine)とに区分されており、社団法人が原則である。ただし、財団についてはバイエルン財団法人法がある。財団といっても営利目的のものもあるので公益的財団法人については、その点を寄附行為規則等で示さなければならない。欧米においては、公益活動は古く、特にイギリスにおける教会法(1604年)の制定以来、宗教、教育、公益信託等の活動は古い歴史を有している。1900年代まで公益法人という存在はなかったが、類似するものとして慈善法人(Charitable Corporation)がある。その形態はさまざまで、特に宗教法人については1836年の教育委員会法に基づくものもあるが、広くは慈善信託制度が社会的に根強く存在している。1960年のCharities actは日本の公益法人に類似した社団法人制度で私的公益法人とみることができる。
税制改正の要望
以上の海外先進国と比べ、わが国の非営利法人課税がいかに遅れているかがわかる。わが国の平成22年度の税収が38兆円にも達しないにも拘らず、アメリカでは2008年の寄附金は32兆円となり、第3セクターとして公益の役割を果たしている。
そのため次の施策について実現されるよう要望する。
一、今後の消費税率アップに伴い、学校法人の施設設備、諸経費の負担増については、補助金交付に当たって負担軽減の措置を講ずるべきである。
二、寄附金の募集等において、募金を受けやすいよう所得税の寄附金控除について課税所得の50%まで控除額を引き上げるか、それに代わる税額控除を創設すべきである。法人税においては、特定公益増進法人に該当する場合は、企業等の課税所得の10%まで損金算入を認めるべきである。
三、法人税法の収益事業に該当する場合、その所得について教育研究の費用に充てる場合は、非課税とされたい。また、学校法人が行う教育事業のうち収益事業としての技芸教授業等は全て非課税とするべきである。
四、勤労学生控除枠を拡大するべきである。
(おわり)