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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.405
評価生かした堅実な改革推進 ニーズに応えるきめ細かな教育

研究員 篠田道夫(日本福祉大学常任理事)

 私学高等教育研究所「私大マネジメント改革」研究プロジェクトとして、引き続き新潟県の二つの大学を訪問調査した。
 【新潟薬科大学】
 新潟薬科大学は、薬学部と応用生命科学部の2学部を置く。併設する短期大学は自動車工学やシステムデザインを、専門学校は臨床検査技師、視能訓練士、救急救命士をそれぞれ養成、各学校とも全く違う分野で特色ある運営を行っている。
 初めての中期目標
 開学以来初めて中期目標を制定、10年度から3カ年計画で実行に移される。この計画は、07年の「大学基準協会の認証評価結果」と08年「外部評価委員による自己点検・評価」を踏まえ、外部の目による客観的な課題設定を改革につなげていこうとしている。
 ここでは、教員個人の業績目標を設定し評価すること、事務組織も達成目標を立て、その実現に努力することを定めている。6年制薬学教育の完成に向け、入学前教育や初年次教育を重視、下級生学習支援制度の創設検討やFDを強化している。またICTを活用したサイバーキャンパスシステムの構築(文科省整備事業に採択)により、ホームページから講義の音声や資料、演習問題にアクセスでき、Pod Castingという配信方法によって、パソコンや携帯電話から講義の予習・復習、他学部授業の聴講を行える先進的なシステムを導入した。これにより携帯を使って学生応答・理解度把握など双方向型授業ができるようになる。
 これらの特色を生かした積極的な広報、単位認定授業を含む高大連携講座の展開、受験生一人ひとりを大切にした学生募集活動などにより学生の安定的な確保を目指している。
 優れた外部評価
 外部評価員による点検評価とその結果公表も優れている。この評価は、教員個人と委員会活動の二つの領域に分かれている。教員に対しては、教育と研究の両面について、評価員一人一人から具体的なコメントが記述される。努力を励ますとともに問題点、改善すべき点も率直かつ具体的事例で指摘されている。こうした内容を全て公表するのは勇気のいることであり、改善への強い決意が感じられる。
 委員会評価は、各評価員が5点満点で点数も付ける。理事も参加する将来計画委員会や予算委員会から始まり、薬学部、応用生命科学部とも24の委員会とプロジェクトが評価の対象となっている。各組織の目標に対して、実際の活動実態や成果はどうか、各委員がふさわしい役割を果たしているか厳しいチェックが行われる。こうした評価は、まだ大学では例が少なく、組織活動改善に大きな役割を果たすものと期待される。
 特色ある理事会運営
 この法人の理事長は、大学学長、短大学長、専門学校校長が持ち回りで務めるという特徴ある方式をとっている。こうした運営は、各学校が対等な形で、しかも利益代表ではなく、常に法人全体を視野に置いて一致協力して経営を支える風土を醸成してきた。しかし、平穏な時代には有効に機能したこの制度も、迅速な意思決定、法人としての責任体制の確立や強力なリーダーシップの発揮などの点で課題を抱え、次のステップへの模索が続いている。
 職員チーム力の形成
 従来より職員育成を重視してきたが、08年度より「事務組織向上目標管理実施要綱」を定め、チームとしての力量を高める取組みを始めた。チーム名、チームカラーを自ら定め、「目標管理シート」でチーム目標、実行アクションプランを計画する。その前提として事務局長が事務組織全体の目標を定め、部目標が設定され、それに基づきチーム目標が立てられる。この目標は@顧客の視点(学生に継続的に満足のいくサービスの提供)、Aコスト・財務の視点(財政改善への貢献)、B業務プロセスの視点(業務の効率的改善)、C組織人材の視点(人材の変革能力や学習能力の向上)の4本柱に基づいて設定される。終了後4段階で評価され、優秀チームは表彰される。個人の評価システムにチームによる目標達成行動を加える意欲的なもので、今後の成果が期待される。
 【新潟経営大学】
 新潟経営大学は、経営情報学部経営情報学科と競技スポーツマネジメント学科の1学部2学科で構成する単科大学である。法人には、加茂暁星高等学校、新潟中央短期大学、新潟中央福祉専門学校が設置されている。
 センターを拠点に
 経営情報学科では、地元企業の需要に対応した企業経営、企業会計、情報に通じる人材の育成を目指している。08年度より3コース(マネジメント・ナレッジ、アカウンティング・ファイナンス、コミュニケーション・デザイン)を設けたが、高校生に解り易くすることと、学生自身の興味・関心・得意分野を活かして進むべき道を発見しやすくするため経営、会計、情報、英語の4コースに再編した。
 競技スポーツマネジメント学科では、スポーツ指導、スポーツビジネス、健康づくり運動の指導等の専門能力の育成、スポーツによる地域振興を企画運営できる人材の育成を目指している。実技指導者の能力に加え、ビジネスとして展開するための企業経営、事業運営、地域経済等についての知識と技能を養成するカリキュラムとなっている。
 新潟経営大学の経営学は、実践性を特徴としており、販売士1級や日商簿記1級の合格者数、ベースボールビジネスアワード(読売新聞東京本社主催・読売巨人軍協力)全国優勝など「資格の経営大」の実績を作り出している。資格取得の指導強化のため専門学校と提携、さらに学内に資格取得の専門施設「簿記学習センター」「教職課程センター」を設けている。簿記学習センターでは、専任教員を複数配置し、個々の進度と目標に沿った指導体制がつくられた。教職課程センターも、教員採用試験受験指導の専用施設として、図書やビデオ教材などを備え、求人の掲示や都道府県の動向など情報発信の場ともなっている。徹底した少人数教育、教員と学生の距離の近さ、親切な教職員の存在がこの大学の強みだ。
 ニーズの変化に対応
 大学設立以降、学生確保が難しくなる中で、理事会が決断したのは、06年に競技スポーツマネジメント学科を増設、08年度に経営情報学科の定員を170人から150人へ減員して規模の適正化を図ったことである。06年からは学生募集、入試広報の抜本的な見直しを実施し、高校訪問や入試説明会の拡充、認知度を高めるテレビCM、パンフレット等のデザインの一新、Webページの刷新とネット広報の強化などを行い、教職員一体で徹底した広報活動を展開している。
 新学科開設を契機に様々な教育システムの改善を実施、重点的な教育分野にはその支援のための「センター」を設置して教育サービスの質的向上を行った。小規模な大学であればこそ、特化すべき教育活動をしぼり、資源を集中投下した事例だといえる。同一法人に高校、専門学校、短大、大学と設置していることから、学校連携、教育連携、地域連携、教職員の連帯と協働など「重層的教育システム」と言われる新潟経営大学独自の連携教育体制を作り出し、地方・小規模大学ならではの特色ある取組みで成果を作り出している。 
                     〔新潟経営大学は、愛知東邦大学増田貴治氏の調査報告書に基づき作成〕

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