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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.404
認証評価2.0 2サイクル目の課題

研究員 川嶋太津夫(神戸大学大学教育推進機構教授)

 米国では、前共和党政権下の後半、スペリングス連邦教育省長官のイニシアティブの下で設置された「高等教育将来構想委員会」で、アクレディテーションの在り方をめぐって激しいやり取りが行われたことは、本欄でも既報のところである。長官や委員長を務めたテキサス州立大学システム理事会元議長は、アクレディテーションが「仲間内」で行われており、不適格をほとんど出していないこと。また、アカウンタビリティの観点から、教育の質をインプットではなく、アウトカムで測定し、大学間での比較可能な評価基準を採用すること。そのために地域別ではなく、全国的なアクレディテーション機関設置の必要性に言及するなど、連邦政府が高等教育に影響を及ぼすことができる唯一の手段、アクレディテーション団体の「認証」を盾に、アクレディテーション機関への圧力を強めた。しかし、08年、5年ごとに改正される「高等教育法」の連邦議会両院での審議を通じて、連邦教育省長官が行政法を公布し、アクレディテーション基準において各大学に学習成果の測定を求めるような規制をアクレディテーション団体に行うことは禁じられた。
 連邦教育省長官が、アクレディテーション団体の認証を行うのは、各種連邦奨学金を給付・貸与された学生が就学する大学の教育の質が、税金を投入する価値があることを確認し、税金が正しく使われていることを保証するためである。大学からみれば、大学あるいは個別のプログラムが適格判定を受けることが、極めて重要な意味を持つ。
 高等教育法に定められたアクレディテーション団体の「認証基準」の規定によれば、連邦教育省の中等後教育局が事務局となり事前審査を行い、その結果に基づき、連邦教育省長官の諮問機関である「高等教育機関の質と健全性に関する諮問委員会」に認証(あるいは認証の更新)の可否を提言し、審議の結果を教育長官に答申することとなっている。
 しかし、この事前審査の過程で、法律の条文の解釈に行政当局の恣意性の余地があることが、認証基準の1つである「学生の達成における成功」の定義をめぐり、共通の学習成果の測定を義務付けるのか、大学の自律性を認めるのかで連邦教育省とアクレディテーション団体と大学団体の間での対立で顕在化し、結局、08年の改正で、連邦教育省長官の権限が限定されたことは、先に述べたとおりである。
 その後、大学やアクレディテーション団体に、いうならば「敵対的」であった共和党政権から、09年に民主党のオバマ政権に移行した。オバマ政権は、コミュニティ・カレッジに莫大な予算を投入するなど、高等教育を重視した政策運営を取り始めた。大学やアクレディテーション団体を信頼していなかったゆえに、厳しい態度と詳細にわたる介入を試みた前政権とは180度異なり、大学に経済再興や社会改革の旗手として高い期待を抱いているがゆえに、オバマ政権は、大学教育の質とそれを保証するアクレディテーションの在り方に積極的な関心を示し、新たな論争を引き起こそうとしている。それは、連邦教育省が2月に関係者に公表した、「アクレディテーション団体の認証に関するガイド案」と題する文書である。
 このガイド案は、従来のアクレディテーション団体の認証と認証の更新にまつわる曖昧性を排除するために、「連邦規則集」に定める「連邦教育省長官によるアクレディテーション団体の認証」の条項に関して詳細な説明を加えたものである。従来の担当官の恣意性を排除するものとして歓迎する意見も聞かれるが、多くの大学関係者は、このガイド案が余りにも詳細かつ具体的で、法律が定める連邦教育省長官の権限を逸脱するものであると批判している(Inside Higher Ed., 2010.3.9)。
 その典型が、教員の資格に関する解説である。ガイド案は、アクレディテーション基準において、「受審する大学の教員は、教員が担当する学位プログラムの少なくとも一段階上位の学位を有していなければならない」ことを明示することを求めている。学士課程を担当する教員は修士号保持者、修士課程を担当する教員は博士号保持者でなければならないことを明示している文書を、認証の際に添付するようアクレディテーション団体に求めようとしているのである。しかし、教員の雇用はそれぞれの大学の教学のまさに核心事項であり、大学の自律性の本質にかかわる問題である。また、それぞれの条項の解説と例示が、「すべきである」と示され、余りにも「処方箋的」すぎると批判されている。もっとも、これは「案」として示されたものであり、今後、連邦教育省と関係者の間で調整が行われる予定である。
 ところで、現在、中教審大学分科会質保証システム部会において、我が国の高等教育の質保証の充実に向けて審議が行われており、筆者も専門委員として審議に参加している。大学設置基準、設置審査、認証評価を、高等教育の公的質保証システムを構成する中核的要素として位置づけ、今後の充実の方策が審議されている。これまでのところ、審議の多くは大学設置基準の審議に割かれ、社会的自立・職業的自立に関する指導や情報公開に関連する大学設置基準あるいは関連省令等の改正が行われることとなっている。一方、設置審査の在り方や認証評価の在り方に関する審議は、必ずしも十分に行われていないのが現状である。
 大学設置審査の規制緩和と、それを補完するために事後チェックとして導入された認証評価の在り方に関する議論は極めて重要である。国際的に質保証の仕組みとして第三者評価機関によるアクレディテーションが主流となりつつあること、設置形態にかかわらず国費が投入されているためにアカウンタビリティが求められることなどから、認証評価の重要性はこれまで以上に高まる。言い換えれば、我が国の高等教育が国際的な信認を得るためには、第三者評価が大学教育の質を保証する仕組みとなっているのと同様に、認証評価機関の評価の質を保証する透明性の高い体系的な仕組みが不可欠である。
 先ほど述べたように、米国のアクレディテーションには、論争が絶えないが、我が国が学ぶところも多い。そこで、米国の仕組みを参考にしながら、2つに限定して改善策を提言したい。
 1つは、認証評価機関の評価の質を定期的に点検する仕組みの導入である。現在、機関別及び分野別の評価機関の認証に関しては、「学校教育法」と「学校教育法第110条第2項に規定する基準を適用するに際して必要な細目を定める省令」で規定されている。しかし、これらの法律条項は、文部科学大臣から新たに認証を得ようとする評価機関の要件や審査にかかる規定が中心で、認証を取り消す条項はあるものの、認証後の評価機関の評価の質の点検や維持、向上に関する規定は明示されていない。認証評価の質を高めていくためには、それぞれの評価機関と大学のさらなる努力とともに、評価機関の評価の質の確認・点検を定期的に行う仕組みの導入が必要と思われる。ちなみに、米国では連邦教育省長官の認証の更新は五年ごと、Council for Higher Education Accreditationのそれは10年ごとになっている。
 2つ目は、認証評価機関の組織の在り方である。現行の規定では、認証評価機関の組織要件は「経理的基礎を有する法人」であることとされている。7年(専門職大学院は五年)ごとの認証評価の目的が「教育研究水準の向上」であれば、評価結果が教育研究の質向上や改善に結びついているかどうか、7年後の次回の認証評価の際に確認することが不可欠であるが、現在の仕組みでは、認証評価を受審するたびに評価機関を変更することも可能である。米国では、原則としてアクレディテーション団体は、「任意の会員制団体」とされている。高等教育将来構想委員会では、会員制のデメリットも指摘されたが(例えば、会費を支払う会員大学に厳しい評価が下せるか)、会員制組織の利点を生かして、10年に一度の「ワンショット」評価ではなく、継続的な改善を可能にする「プロセス」評価への転換が試みられている。7年に一回限りの関係ではなく、継続的な関係が必要で、米国のように認証評価機関は会員制の組織であることを要件とするか、少なくとも機関間で評価結果を共有する仕組みの構築が必要である。
 認証評価制度をめぐっては、様々な課題が指摘されている。例えば、法科大学院の評価においては、評価機関ごとの判定のばらつきが問題と指摘され、改善の措置がとられた。高等教育の質保証の最終的な責任は各大学にあるものの、認証評価は大学の教育の質と改善の努力に正統性を付与するものであり、高等教育の質の「門番」あるいは「守護者」である。しかし、その認証評価の質を保証する制度そのものに疑義が抱かれるようでは、我が国の高等教育の国際的な信認や通用性の低下は避けられない。質保証システム部会と大学分科会において、認証評価の在り方に関する審議が今後活発化することを期待したい。

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