アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)
No.394
第2サイクルに向けた新評価基準 大学の主体的な質保証を目指して
認証評価の最初の7年のサイクルが終わろうとしており、各認証評価機関は第2サイクルの開始に向けて認証評価システムの見直しを進めている。日本高等教育評価機構では、評価システム改善検討委員会を設けて大学評価基準の抜本的見直しの検討を続けてきたが、昨年末までに、評価システムの現状の問題点と新しい方向性についての考え方を纏めるとともに、これを基として新しい大学評価基準のおおよそのイメージを描いた大綱案を作成し、理事会、評議員会の了解を得た。この大綱案は未だ中間的な段階であり、今後細部の検討を進めるとともに手直しの必要も出てくると思われるが、改善検討委員会の委員長を承って大綱案の纏めに当たった立場から、本欄を借りて、大綱案の狙い、趣旨などについて説明させて頂き、関係者の参考に供するとともに、ご批判を得たいと思う。
〈新しい大学評価基準の目標〉
大学評価基準を全面的に改訂しようとする理由は何か、その主たる狙いは次の二点に整理できる。
第一に、大学の質保証については、大学自身が主体的に責任を負うべきだという考えに立って、自己点検・評価が、大学の主体的・自律的な活動となるよう、認証評価との関係を再構築することである。そのためには、認証評価の主たる狙いは「自己点検・評価を評価しその質を高めることによって、大学の自律的な自己改善の努力を支援すること」にあると考え、そのような目的に即するよう認証評価のシステムを整える必要がある。
第二に、大学評価基準の項目は基本的、共通的な最小限のものとし、かつ、項目間で記述の重複が生じないように内容を整理するなど、全体として簡素化、合理化を図る。これには評価作業の効率性を高める意味と、大学が定める自己点検・評価項目に、大学としての独自性を充分に盛り込めるようにするという意味とがある。
〈改訂の方向性〉
前述の二つの目標を実現するために、大学評価基準をどのような内容、構成のものにするか、その具体的な方向性について述べる。
一、認証評価の対象の確認:前述第一の目標に関連して最も大事なことは、認証評価を受けるために行なう自己点検・評価は、認証評価のための特別なものではなく、学校教育法によって実施義務がある一般的な自己点検・評価であることを確認することである。認証評価が自己点検・評価の質を高めることを狙いとすると考えるのであれば、このことは当然のことである。したがって、認証評価のための自己点検・評価であっても、一般の自己点検・評価の原則に沿って、次の二点の実行を求める必要がある。
・大学の個性・特色に即した大学独自の自己点検・評価項目を定め、この項目に沿って点検評価を行なうこと。なお、この項目の中には、認証評価機関が基本的、共通的なものとして要求する項目(大学評価基準に定める項目)を含めることが求められる。
・自己点検・評価報告書には、評価の結論として、基準を満たしているか否かの判定を大学の責任において示す。
二、基準の簡素化:現在の大学評価基準は11の基準に細分されているが、その結果これまでの経験では基準間の記述の重複が多く、評価作業の効率を妨げている。組織、学生、教員など大学の「構成要素」による基準の区分をやめ、大学の基本的な「機能」によって区分することにより、基準の項目数は大幅に少なくすることができる。
また、自己点検・評価報告書は、客観性を重視する立場から、「証拠(エビデンス)の提示」を主体とし、文章記述は最小限に制限する。
〈新しい大学評価基準のイメージ〉
一、基準の性格:大学評価基準の性格は、制度としては「認証評価機関が大学を評価するための基準」とされている。新しい大学評価基準も、この点は変わらないが、評価の実態的な仕組みとしては「認証評価を受けるために行なう自己点検・評価の評価項目に含めることを求める項目」であり、「認証評価機関の要求項目」というべきものである。
二、大綱案の概要:大綱案では、このような「要求項目」として次の五つの基準を定めた。
また、各基準の扱う範囲を「領域」として示し、更に領域ごとに判断の基準を「基準項目」として示している。ここでは、基準と領域のみを示した。
基準1.使命・目的等=領域:使命・目的(建学の精神を踏まえた大学の将来象または達成しようとする社会的使命)、教育目的(教育プログラムごとの人材養成に関する目的)
評価の観点としては、使命・目的等の内容の明確性、適切性(法令適合性等)及び有効性(使命・目的等の達成のための諸条件の具備)を挙げた。
基準2.学習と教授=領域:教育内容・方法、学習評価、教員組織、学生受入れと学生、評価、学習及び授業の支援
基準3.経営・管理=領域:理事会、ガバナンス、経営の規律、執行体制
基準4.財務=領域:財政基盤・収支、財務情報の公開、外部資金
基準5.自己点検・評価=領域:自己点検・評価の適切性、誠実性、有効性
自己点検・評価を評価することは「認証評価の目的」と位置づけられていることであり、基準5は認証評価のあり方自体と関連するので、少し説明を加えたい。
まず何を評価するのかを「領域」に示した三点に整理した。「適切性」とは、大学の個性・特質に即した点検評価項目の設定、全学的・恒常的な実施体制の構築、実施の周期の設定等が適切に行なわれていること、「誠実性」とは、充分なデータの収集・分析と証拠に基づいた客観性・透明性の高い評価の実施、評価結果の学内共有と公開など、「有効性」とは評価結果が大学の改革・改善に有効に活用される条件が整っているかということであり、PDCAサイクルの確立などを意味する。
認証評価は自己点検・評価の結果の分析と実地調査によって行なうこととされている。つまり、直接大学に立ち入って調査・点検するのではなく、自己点検・評価の目を通して大学を評価する訳であり、認証評価に当たっては、同時に自己点検・評価が大学の実態を正しく反映しているかどうかの判断をしなくてはならない。自己点検・評価を評価することは認証評価そのものと表裏一体である。
その他の基準=認証評価を受ける大学は、以上の五基準を含め大学の個性・特色に即した独自の自己点検・評価項目を策定し、これによって点検評価を実施することが求められる。したがって大学は、どのような大学としての機能を重点的に発展させ個性化を図ろうとしているのかによって、例示をすれば、国際協力、社会貢献、研究活動、生涯学習、専門職業教育、教養教育などについての基準を設定し、特色ある点検評価項目を策定することが期待される。