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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.361
獲得GPで教育を特色化 定員割れ克服へ果敢な挑戦

私学高等教育研究所研究員 篠田 道夫(日本福祉大学常任理事)

 【開学当初からの危機】
 中越学園(長岡大学)の歴史は、明治38年の私塾、齋藤女学館に始まる。昭和19年に長岡女子商業学校(後の中越高校)、昭和46年に長岡女子短大を設置し、大学開学は平成13年となる。経済経営学部単科の収容定員640人、教員数26人、職員数14人の地方、小規模大学である。開設時より定員割れが続き、現在の在学生数は382人で、直面する最大の課題だが、教育改革の進展とともに入学者は平成17年度をボトムに着実に増加してきている。
 大学改革の取組みは開学直後から始まる。初年度からの定員割れに危機感を持った理事会は、その打開のため、翌14年に学生募集に関する検討小委員会を設置する。年度末には報告書を取りまとめ「中越地区での減少が著しい…教育力と地域密着度の早急な再構築が不可欠である」と提起した。これが今日まで続く長岡大学の改革のメインテーマとなっており、その先見性は際立っている。法人にオーナーはすでに存在せず、理事会は地元の産業界や教育界の有力者で構成されている。大学は地元の財産であり、これを潰してはならないという強い責任感があった。
 【迅速な改革への着手】
 理事会は直ちに行動を起こし、全教職員を対象に危機打開のための理事長懇談会を設置、直接対話を始めた。理事長、学長を軸に緊急対策委員会を設置、また常任理事会体制を敷き、教授会の主要委員長を刷新するなど改革推進体制を急速に整えた。理事長名で「長岡大学緊急アクションプラン」を提示、学長の下に基本構想委員会、教育プログラム刷新のためのカリキュラム検討委員会を作り、教員に目標管理制度を導入するなど矢継ぎ早に改革を推進した。平成16年3月、経営経験のある原陽一郎氏を学長に任命した。就任後直ちにこれまでの改革の取組みや方向を踏まえた学長基本方針を提起し、具体的な改革に着手する。改革のスタートに当たって、まず改革推進を計るための体制刷新を果断に実行した点は特筆すべきである。
 【大学理念の再設定―充実感、達成感、満足感】
 最も重視したのが長岡大学はどこに向かうのか、何を個性化するのか、この目標・ビジョンの再構築だった。そのための大学改革宣言の策定に着手したが、企業出身の原学長は、まず高等教育関係の60冊を超える文献を短時間で読破した。注目したものの一つは98年の大学審答申「競争的な環境の中で個性輝く大学」の四つの基本理念や2005年の中教審の答申である。大学の目指すべき七つの機能の中で長岡大学は何を目指すのか、経済産業省や内閣府が示す「社会人基礎力」や「人間力」、産業界や現場が求める人材養成に応える教育とは何かという点であった。他大学との差別化、際立った特色を設定すると同時に、地域のニーズに合った学生を育てることで、存在価値を作り出そうとした。その際長岡大学の立地の強み、産業集積がある中堅都市にあり、産業界との繋がりが深く地域の教育力を活用できる、また小規模・単科で小回りが利くなどの利点を徹底して生かした。
 平成16年10月、こうした検討を経て建学の精神を再吟味した基本理念「長岡大学は、ビジネスを発展させる能力と人間力を鍛える大学です」、基本目標「毎日の学生生活で充実感を、能力アップを確かめて達成感を、4年間を振り返って満足感を実感させます」を定めた。人材育成目標を「地域、企業と連携して、ニーズに直結したビジネス能力開発プログラムを展開し、知識より職業人としての実践能力と人間力を鍛え、就職率100%を目指す」とした。そしてこれを内外に明らかにする大学改革の基本方針、大学改革宣言を発した。
 【徹底的に面倒を見る大学】
 翌平成17年度から方針を具現化するため、集中的なFD研究会を開くなど教職員をこの理念、目標の実現に徹底して組織した。経済経営学部に置かれた二つの学科、環境経済、人間経営に計9のコース、情報ビジネス、経営戦略、事務会計、マーケティング、まちづくり、医療福祉などを置き、その中から二つを選択できるダブルコース制を採用した。教育の特徴を「徹底的に面倒を見る大学」とし、「行動して得る充実感、挑戦して得る達成感、実現して得る満足感」をキャッチフレーズに、一年次からの少人数ゼミナール(8人以内)でマンツーマン指導を徹底して行った。経営の現場を知るインターンシップや地元の企業経営者を招いた企業家塾等の科目の充実、資格試験対応型の授業編成など大幅な改革を進めた。
 特に教育の特色化と地域連携、この二大テーマの飛躍的な発展を目指し、三つの目標、@内部改革を強力に推進し、A資金を確保し、B社会的評価を獲得する、を同時達成すべく、現代GP(文科省選定・現代的教育ニーズ取組み支援プログラム)を獲得する戦略を立てた。
 【GPの連続採択を柱に】
 平成18年、19年連続採択された二つの現代GPは、長岡大学の教育目標の柱を見事に具現化し、社会的評価を得るものとなった。一つは「産学融合型専門人材開発プログラム・長岡方式」で、地元サポート企業の支援のもと産学連携の実践型キャリア開発プログラムと資格対応型の専門教育を連結させた。そこに全学生の4年間一貫した目標マネジメント、個々の学生の目標設定と評価、「自己発展チェックシート」「マンツーマン指導カルテ」に基づく徹底した個人面談、相談による能力開発プログラムを結合した画期的なものであった。もう一つは「学生による地域活性化提案プログラム―政策対応型専門人材の育成」で、長岡市総合計画の分野別政策課題をそのままゼミのテーマとして取り上げた。地域で実際にこれに携わっている職員などをアドバイザーに、資料収集・フィールド調査・アンケート調査を行う。最終的に調査研究報告書として地域活性化策を取りまとめる体験型学習の中で、学生の社会人基礎力、企画・提案力の育成を図ると同時に、地域貢献も実現しようとする優れたシステムである。また平成19年にはこれらの成果を基にして、「定員割れの改善に取り組んでいる大学等に対する支援補助金」に応募、他のモデルとなる優れた取組みだと評価され、採択された。
 【変革を可能とした力】
 こうした取組みを可能とした原動力とは何か。まず第一には理事会、理事長の開設当初からの危機認識と先見的な改革方針の提起、その推進のための組織改革や体制作りを断行するなどのリーダーシップの発揮が挙げられる。
 第二には学長の現実に適合した改革のビジョン作りとその実行指導力である。新任で長岡大学勤務も短かったことが、かえって厳しい客観的な自己評価を可能にし、また斬新なビジョン、前例に拘らない実行システムを作り出し、職場風土を一変させていった。また原氏が長年東レの技術開発の先端分野で、プロジェクトリーダーや戦略コーディネーターを勤めた専門家であり、チームを困難な目的に向かって結集させ、成果を上げるプロであったことも幸運であった。
 第三には進行する現実を背景に危機意識を共有する教職員の情熱ある献身的な協力、特に改革の先頭に立つ何人かの優れたリーダーがいたこと、また改革の抵抗勢力が少なかったことも挙げられる。
 第四は教授会などの行政組織より、実質教育改革を推進するFD研究会や現代GP推進本部を中心とした改革推進型の組織運営で全教職員の力を集中した。
 都市部とは比較にならない厳しい環境の中にある地方大学の定員割れの克服には、なお大きな壁を乗り越えねばならないが、先進大学に並ぶ優れたマネジメントと教職員一丸となった取組みによって、必ず未来を切り開くことができると思われる。

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