アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)
No.360
大学特性で異なる有効な支援 就職活動の実態調査等から
景気が急激に悪化する中で、就職内定率は昨年同期の水準を割り込み(2月1日時点で、86.3%と2.4%減)、また内定取り消しを受けた学生は1280人に達したという。こうした厳しい状況を受けて、学生の就職支援は大学にとって最重要課題の一つとなっていよう。
どのような就職支援が有効であるか、それぞれの大学で検討されているところであろうが、私たちの研究チームが多くの大学と学生のご協力のもとに行った調査(「大学就職部/キャリアセンター調査」2005年・医歯学等の単科大学を除く4年制大学対象、有効回収票数510票・回収率82.7%、「大学生のキャリア展望と就職活動に関する実態調査」2005年11月・276校の4年生を対象。調査票配布数は約4万9000票・有効回収票数は1万6486票・回収率33.6%、他にWEB調査2023票)からは、大学それぞれの状況によって学生に効果を及ぼす支援の内容は異なることが明らかになった。
【就職部活用度が高い非銘柄大学学生】
大学生の進路も就職プロセスも、また内定状況も学部や専攻による違いが大きい。ここでは、主に民間企業の事務・営業系の職種に就くことが多い、文系の学生に焦点を当てる。
民間企業への就職において、大企業内定率などには大学の選抜性が強く影響していることが知られている。大学入学難易度によって大まかに私立大学を3段階に分類して、この類型ごとに学生の就職活動の状況を見ると、高難易度大学(私立A+国立T(旧帝大))の学生ほど早くから多くの企業に接触する就職活動をしており、一方、難易度の低い大学(私立C)では活動量の多い学生もいるものの、受験した企業が数社にとどまる学生も半数程度を占めていた。大学の就職部等の支援については、近年多くの大学でその充実が図られており、大学職員と教員が協力してこれにあたることが目指されていた。
学生が実際に受けた支援についてまとめたのが下表である。どの大学類型の学生でも、正社員内定をもらっている者の方が、これらの就職支援を活用している。また、類型によって活用度には違いがあり、「OB・OGの名簿や紹介」を除いては、選抜性の低い大学の学生の方がより多く利用している。
こうした傾向は筆者らが1995年の大卒者に対して行った調査においても共通に見られた。すなわち、大学の就職部や就職相談室を利用した者は選抜性の低い大学で多く、また結果として正社員になった者の方が、こうした大学の資源の利用者が多かった。ただし、その利用の水準は現在の方が高い。大学の努力で支援を充実させてきたこともあるだろうし、また、大学進学層が拡大する中で学生の「生徒化」が進展しており、支援を必要とする学生が増えているということでもあろう。
【学生の就職活動の自己評価を高める支援】
ではこれらの支援は有効なのか。効果を測る基準としては、例えば大企業就職率とか、内定獲得率なども考えられるが、ここでは、就職活動をするのは学生本人であるので、学生の就職活動への満足度を高めることにつながれば、その支援の有効性が高いと考えることにする。
そこで、「就職活動を振り返ってみると何点ぐらいだと自己採点するか」という問いへの答えを目的変数として、就職活動、就職指導、及び大学生活にかかわる次の変数を独立変数として投入する重回帰分析を試みた。これを大学類型別に行うと、それぞれにこの評価を高める変数の構造に違いがあることがわかった。
「私立C」の場合、表に挙げた大学による支援の効果は有意ではなかった。大学の支援を利用する学生は多いもののそれが就職活動の自己評価を高めることにはつながっていないとうことである。この類型で効果があったのは、「大学の成績」と「先輩との相談」であり、また評点を低める方向の効果を示したのは「学内の友人との相談」であった。このほか、就職活動の開始時期が遅いことや面接を受けた企業が少ないこともマイナスに働いていた。これらの特徴から、この類型の大学での就職活動の自己評価を高めるための取り組みを考えると、例えば@成績を高めるために学習への関心を持たせる教育的工夫、A就職活動に関して先輩に相談できる環境をつくり、B学内の友人からの情報に偏らない広がりを持たせる、C人事面接を受けられるまで応募活動を続けるよう個別のフォローをするなどが考えられる。
「私立B」の場合、就職活動の時期・量、ツールとしての就職手帳、相談相手としての大学教員・職員、保護者、先輩がいずれも有意に自己評価を高めていた。一方、「国立T+私立A」の場合、「OB・OGの名簿・紹介」と「アルバイト」「保護者との相談」の効果が認められ、ここから、幅広い経験や学外の先輩などとの接触が自己評価を高めるのではないかと推測される。
まとめると、学生の就職活動の自己評点を高めることにつながる大学の対応は、大学によって異なる。就職市場で有利な選抜性の高い大学では、OB・OG名簿の整理や紹介が有効であり、また中位の大学では、就職手帳などのツールの作成や教員や職員との相談が有効である。また中位以下の大学では、先輩との接点を持たせる環境づくりや就職にむけて意識を喚起し、活動継続を支える個別支援が重要だろう。そして、大学の成績がどの類型でも有意に関連していた。普段の学校生活での取り組みの充実が、就職活動の自己評価にもつながると思われ、これを高めるための教育上の工夫が重要だろう。
【引用文献】
小杉礼子 2008「大学生の進路選択と就職活動」日本高等教育学会『高等教育研究』第11集。
労働政策研究・研修機構
2007『大学生と就職―職業への移行支援と人材育成の視点からの検討』労働政策研究報告書No.78.