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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.339
デンマーク高等教育の資金配分 タクシーメーター制の導入

  私学高等教育研究所研究員 丸山 文裕(国立大学財務・経営センター研究部教授)

 2008年6月にデンマーク教育省およびデンマーク第2の規模を誇るオーフス大学を訪問調査する機会に恵まれた。ここではあまり紹介されることがない同国の高等教育財政と大学の管理について報告したい。
 デンマークは人口550万人の小国である。8つの大学にフルタイム換算で7万人の学生および5000人のPh.D.学生が学んでいる。さらに10万人以上の学生がカレッジに在籍している。ここ数年、大学やカレッジは統合を繰り返し、現在の数になった。統合の理由は、財務経営の効率化というより、教育研究の国際競争力の強化である。よって統合は、教職員一人の解雇者も出さないという前提で行われているという。
 授業料は、他のスカンディナビア諸国と同様、自国学生およびEU出身学生は無料である。それ以外の外国人学生に対しては、授業料を2006年から徴収している。自国学生に対して、さらに生活費補助として国の学生ローンも用意されている。
 1.高等教育制度
 デンマークの高等教育課程は4つに分けられる。そのひとつである短期課程は、中等教育終了後、1年半から2年半までの課程で、ビジネス、技術者教育、教員養成、社会福祉などの職業教育が行われる。この課程は主にカレッジセクターで提供される。中期課程は日本の学部教育に当たり、3〜4年の教育で学士号が授与される。学士号授与は1980年代終わりに始まった。この課程は、カレッジセクターと大学セクターの双方で行われる。長期課程は学士課程の上にさらに2年の教育であり、修士号に当たるキャンディダスが授与される。そしてさらにPh.D.課程もある。長期課程とPh.D.課程は大学セクターで提供される。
 高等教育進学率は約50%で、短期課程に1割、中期課程に4割、長期課程に5割、Ph.D.課程に数%の学生が学んでいる。高等教育進学希望者のうち、約2分の2が入学を許可される。入学者選抜は共通入試センターが行っていたが、現在はそれぞれの機関が独自の方法と判断で行っている。高等教育機関の入学定員は、教育省の管理するところである。
 デンマークでは各課程の退学率が、教育の効率上長い間、問題となっていた。2000年時に中期(学士)課程で40%以上、その他の課程でも30%以上の学生が退学する。そこで学士号が、修士課程退学者に何らかの資格を付与しようと便宜上の理由で設置された。当初大学は、学位としてあいまいな学士号授与に積極的ではなかったという。しかし分野によっては、学士号を持った卒業生の就職が好調で、学士号を付与する中期課程の存在が大きい。また大学の意向に反して、そこでの学生数の伸びが最も高い。
 デンマークは、高等教育の質保証に早くから取り組んだ国のひとつである。質保証に関する国立センターを1992年に設立し、高等教育システムの監視、最低基準の保証、教育課程の改善勧告を行ってきた。1999年からはデンマーク評価機構が、評価とともに、評価情報の管理、国内外の評価情報収集を行っている。教育についての評価は、教育改善が目的で、イギリスのように評価結果と資源配分の直接の関連はない。研究に関する評価は、今のところ行われていない。しかしいくつかの研究カウンシルが、競争的な研究費配分を通じて、申請時に間接的に行っている。
 2.財政:タクシーメーター制
 高等教育機関はほとんどが国立機関とみなされ、政府から交付金を受ける。私立機関もあるが、経営の自由が保障されているだけで、財政的には政府に依存している。公的資金は、研究費、基盤経費、教育費の3つに分けられる。デンマークの教育資金配分で特徴的なのは、1990年から始まったタクシーメーター制である。これは効率化を目的とした一種の業績による資金配分方式である。この方法は、中等教育や病院への補助金にも適用されている。
 大学は学生の実際の活動結果によって、大学が受け取る資金の30〜50%を配分される。具体的な業績指標は、課程試験に合格した学生数である。試験を受けない学生や合格しない学生には、公的資金配分がされない。よってタクシーメーター制は、成果主義の資金配分と捕らえられている。
 これによって大学はより教育に力を入れ、学生が学習する動機付けを与えられ易い課程を組織し、効率的な教育を促進すると考えられている。また大学に、試験に合格する確率の高い、優秀な学生を入学させる努力を促すともいわれる。しかし同時に配分額を大きくするために、試験の合格水準を低くする大学が出てくるという危惧が指摘された。しかし評価機構は、タクシーメーター制によって、教育の質が低下した事実はないと結論付けている。
 学生の試験の結果を基礎として、専攻分野の調整を受けて、配分額が決定される。配分は渡しきりのブロックグラントであり、大学は使途を自由に決定できる。政府の考えでは、自由裁量のほうが、大学はより労働市場のニーズにあった教育改善を行うという。教育省の評価では、資金配分に関して、これ以上の成果を期待できる配分方法はないとしている。しかし同時に専攻分野の調整をめぐって、調整の方法の根拠と額について、関係者からタクシーメーター制への疑問が出されている。
 3.管理経営
 政府は大学の効率性を向上させようと意図して、一連の高等教育改革を実施してきた。1993年に施行された大学法によって、国から大学へ権限の大幅な委譲が行われ、大学の管理は大学に任されることになった。具体的には、学長の役割が強化され、権限と責任が大きくなった。また教育と研究に経営の手法が導入された。さらに評議会などの管理組織に外部識者が加わり、管理組織数とその成員数の削減がなされた。
 さらに2003年施行された大学法によって、ワールドクラスの大学を目指して、改革がさらに進行した。それまでは学長は教授の選挙で選ばれ、最高の議決機関は、学長、教職員、学生という学内者で構成される評議会であった。しかし大学の最高決定機関として、理事会が設置された。理事会には外部識者が中心となり、教職員学生代表も加わる。理事会は学長を任命し、学長は学部長を任命する。学生の管理経営への参加は、大学法以前からもなされていた。改革の過程で学生の権利が拡大し、管理経営への参加が変わらない点は、諸外国の方向とはやや異なるといえる。
 理事会の最大の課題は、予算案と大学の諸活動の戦略的目標や年次計画の作成である。学長はそれに沿って大学の管理経営を遂行しなければならない。大学は経営の自立性が拡大し、政府との関係は一種の契約の考えが導入されている。大学は政府に対して3〜4年の戦略的目標を達成する契約を交わす。目標の内容は、教育、研究、社会貢献などである。大学は毎年、業績について政府に報告する。これは単なる資源の消費状況報告ではなく、目標と結果の管理を強調したものである。契約の結果によって、次期予算配分が影響されることはないなど、いまのところ政府の目標管理は緩やかなものである。
 2001年にデンマーク工科大学が、キャンパスの不動産を所有し、理事会が管理する独立した大学として認められた。ただし教育省の管理下にあるというから日本の私立大学とは若干異なる。他の大学も一層の経営の自立性が付与され、行政機関の一部ではなく、特別な行政法人として位置づけられる予定である。

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