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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.332
制度や仕組みの充実を 大学教育の国際化にむけて

  私学高等教育研究所研究員 高橋 宏(東京国際大学副学長)

 我が国では現在「大学教育の国際化」が、重要な課題となっている。ここでは、4年制の学士教育課程を念頭に、大学教育の国際化について考えてみたい。

 1.大学教育の国際化の課題
 日本の大学教育の国際化を論じるとき、「ユニバーサル段階」を迎えた大学教育の国際化という視点を前面におくことが重要である。また、日本の国際化にいかに資するかという広い視点からの議論を忘れてはならない。さらに重要なことは、新たな段階の国際化を契機として日本の大学教育のいっそうの質的向上を図ることである。
 日本の大学教育の国際化を現段階で進展させるとき、国際化の課題、すなわち、大きな構造転換を遂げつつあるグローバル社会の中で、我が国が応分の責任と負担を果たし、人類福祉の増進に貢献できる国家としての役割をこれまで以上に担って行くべき時代に我々は立っているとの認識が重要である。
 大学人の使命は、ユニバーサル化した教育の現状の中で、日本の国際化の課題を正しく認識し、的確な行動のできる有為な人材を養成して行くことである。したがって、大学教育自体の新たなあり方を志向する中で、教育の国際化の向かうべき方向や国際化のための教育内容を組み立てていかなくてはならない。
 このとき、「国際化」の追求するものとして「多文化・多元社会」の下での相互交流・相互理解を地球的規模で進めることが益々重要となっている。同じ国家・社会の中でも異なった価値観を持つ人々の間で相互理解を深め、お互いの立場を尊重していくことが不可欠となっている時代に、それをグローバル社会でいかに推進して行くかという課題を解決することが求められている。
 つまり、大学における「教育の国際化」が目指すべきことは、このような時代に活躍する広い視野と高い能力を持った人材を養成するための質の高い教育を展開していくことである。
 
 2.我が国における大学の国際化と教育の国際化
 これまでの日本の大学の国際化は、日本人学生の海外留学者数の増大、海外との提携姉妹校関係の充実、外国人留学生の受け入れ増大、教職員交流の拡大など、多面的な制度作りとその実施において大きく進展してきたことは間違いない。つまり、制度・機構としての「大学の国際化」は大いに進められてきたと判断できる。
 そうした過程で、当初の狙いは「日本からの留学」により「海外から学ぶ」という目的が中心であった。その後、日本への留学生増大や国際共同研究による研究者および教職員の受け入れ拡大などに伴い、相互交流・相互理解が重要となった。そして、現在求められている「大学の国際化」は、留学生受け入れを大幅に増大させ、外国人教職員の充実を図り、我が国大学の教育・研究水準の高度化を実現するというものである。そのためには、大学教育の中で日本人と外国人の境を低くし、国籍・文化・言語などの違いを乗り越え、世界に認められる質の高い教育を展開しなくてはならない。これは、我が国大学教育の競争的優位性をどのように打ち出していくかという局面である。
 ここで真に重要なことは、制度・機構としての「大学の国際化」を通じて「教育の国際化」という実体の変革を進めることである。ここで「教育の国際化」とは、国際的な競争優位性を持つ学修・研究活動を実施し、国際的に通用する成果を挙げることのできる実体を保証する仕組みの下で大学教育を実施することである。また、日本で学ぶ外国人学生そして外国人研究者・教職員が充実した活動を行ない、我が国の大学教育を高く評価することのできるような教育環境を整備していくことも、「教育の国際化」を充実させる上で重要である。
 
 3.教育の国際化に不可欠なもの
 日本の大学の「教育の国際化」を充実させる時に留意すべきことは、次の点である。すなわち、海外から質の高い留学生および優れた研究者・教職員の受け入れ数を増大するために、教育の国際化のベースを広げなくてはならないということである。これは、これまで国際化を様々に進めてきた大学以外にも「大学の国際化」を多くの大学で推進するということである。
 もちろん、教育の国際的な競争優位性を充実させる手段として、「グローバル30」のような国際化拠点大学を設定するなどの施策も有効であろう。実際、英語で授業を受け学位を取得できる制度を構築し、ダブル・ディグリー・プログラム(DDP)を本格化するなどの方策を実行するには、多くの場合は従来のカリキュラムに加えて新たな英語カリキュラムや別枠でのコースを設定する必要が生じる。そのための人的・物的資源を有効に活用するには、重点的に支援を充実することも必要であろう。
 しかし、これを一部の重点化拠点だけで行うことでは、我が国大学の「教育の国際化」を世界に魅力ある形で遂行するためにもう一つ重要な量的拡大、そしてそれを通じた我が国大学教育全体の真の国際化を実現するには十分でない。大学教育国際化のベース拡大も実現できなければ、我が国大学教育の国際化は、偏ったものに終わり、国際化のレベルは限られてしまう。
 ここで強調したい点は、「教育の国際化」を幅広いベースで充実させるには、「教育の国際化」をより広い制度の下で多面的に支え、国際的優位性を持った質の高い教育を実施する制度や仕組みを充実しなくてはならないことである。例えば、カリキュラムの英語化は一部の大学でのみ有効な方法というよりは、たとえ一部の科目にせよ授業を全て英語で実施し、英語だけで学位を取得できる仕組みをその他の大学に広げることにより、真の意味での国際的人材の養成を我が国の広い範囲で可能とする方法でもある。こうした活動により、日本人学生全般の国際化も進展し、外に向けての国際化に加え、「内なる国際化」も促進され、日本の真の国際化を大きく進展させることになる。

 4.国際教育の経験を共有する
 もう一つ重要なことは、これまで教育の国際化を進めてきた大学の経験を、多くの大学で共有し活用して行くことである。これは特に、教育の国際化を充実させる上で重要と思われる分野の経験を多くの大学で共有できる仕組みを作ることである。  例えば、留学生の受け入れにおいては、従来の留学生受け入れに関する問題点と対応策などを共有する仕組みの他に、新たに展開が必要となる英語プログラムの拡充などに関しても同様な仕組みを設けることが、より広いベースでの留学生受け入れに有効であろう。一定の日本語力を要件としない留学生受け入れプログラムを設けることは、従来よりも多様な留学生受け入れを可能とするものであり、そこで日本人学生とともに学ぶことにより、日本人学生の国際化という課題も実現できる。  しかしそのためには、英語カリキュラムをどのように設けるか、従来のカリキュラムとの関係をどうするか、教員の配置をいかに行うか、留学生の学修・生活面の支援をどうするかなど、多くの対応が必要となる。これらへの公的支援とともに、ノウハウ等の共有がきわめて重要となり、一段と異なった対応を我々は求められているのである。

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