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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.201
改革励まし支援する評価―米国大学評価調査から学ぶもの

日本福祉大学常任理事 篠田 道夫

 3月はじめ、(財)日本高等教育評価機構(以下、機構)「米国大学評価調査団」の一員として、ボストンのニューイングランド地区基準協会(NEASC)及びそこに加盟するSouthern New Hampshire大学(SNHU)、Tufts大学を調査した。前号本欄の鋤柄研究員のレポートに続き、今回は基準協会から評価を受ける大学側の取り組みから学ぶべき点や、今後の機構の評価活動の改善検討に繋がる諸課題について報告したい。この二つの大学はいずれも最近、NEASCによる評価を経験しており、学長やリエゾンオフィサー(自己評価責任者)から詳しい説明を伺うことができた。

《評価の基本的流れ》
 アメリカにおける評価は次の3段階、(1)Self Study Report(自己評価報告書)の作成、(2)Site Visit(訪問調査)、(3)Commission Action(判定委員会による評価)で行われる。
 第1段階の自己評価が評価プロセスの中でも最も重視されているのは、課題の自己認識と自立的改善計画の策定こそが評価の要と位置づけられているからだ。学内には自己評価の推進を担うリエゾンオフィサーが任命され、ステアリングコミッティ(評価業務の運営委員会)やライティングコミッティ(自己評価報告書の執筆組織)が組織されると共に、自己評価マニュアルを徹底するための基準協会による研修会(キャンパスビジット)なども計画される。
 第2段階では、基準協会の評価員が自己評価を実地に検証するための3日間の訪問調査が行われ、この結果が評価員の分担執筆によってチームレポート(評価報告書)としてまとめられる。
 そして、第3段階として、このチームレポートを基準協会の判定委員が点検し、審議の上、ファイナルレポート(最終判定書)として取りまとめ、「学長への手紙」(Letter to President)の形で各大学に通知する。
 次に、アメリカにおける、この評価の一連の流れを見聞して、機構において更に検討すべき課題を述べる。

《自己評価の重視》
 まず、自己評価報告書の作成とそのプロセスの一層の重視という点だ。基準協会の自己評価マニュアルは、詳細かつ丁寧で、多くの教職員が評価に豊富な経験を持っているにもかかわらず、評価のたびに研修会を行い、しっかりした運営委員会と経験豊富なリエゾンオフィサーにより1年以上をかけて準備を行う。自己評価報告書は機構と同様、11の基準に従ってDescription(事実の説明、現状)、Appraisal(自己評価)、Projection(改善・向上策、将来計画)の3項に分けて記述されている。当該大学の過去の自己評価報告書からの到達点の分析、他大学の良い自己評価報告書も参考に、記述内容を裏付ける根拠データを如何に分かりやすく示すかを工夫する。問題点を公開するのは抵抗も伴うが、改善の方向をオープンに議論していくことが当該大学の真の改革と強さを作り出す上で最も大切な点だと強調された。
 自己評価報告書の素案は、ネットを通して学内に公開し広く意見を募る。この作成過程を如何に真剣な、全学的な取り組みとするかで、改革に繋がるアクレディテーションとなるか否かが決まるという。機構においても、リエゾンオフィサーの育成、手引きやプログラム、研修会の充実など自己評価過程のサポートシステムの一層の充実が求められる。

《目標の具体化》
 次に、自己評価に係わり今後検討を深めるべき課題として、目標と評価の関係がある。アメリカのアクレディテーションの基本精神は、何か外部に客観的な大学の評価基準があるのではなく、ミッションに沿った大学運営が行われているか、当該大学の目的を実現するプログラムは何かという点にある。機構もまた、私立大学の特性に配慮した評価を実施する立場から、非常に多様な人材育成を担う私学の使命・目的に基づいた画一的でない評価を重視している。
 そのためには、大学全体を貫く建学の精神が周知され、機能しているかというだけでなく、各分野ごとにその実現のための具体的な政策や目標が設定され、その達成に向けた全学的な取り組みがなされることが必須である。当該大学が評価項目ごとにミッションに沿った目標や計画・方針を設定し、これを評価基準の中に適切に位置づけ、その実現に向けた努力や有効な接近方策を、事実と課題に即して検証することが大切だと思われる。これによって初めて当該大学に即した改善点や問題点が明確となり、改革を励ます評価の具体的な内実が作られていく。この視点から自己評価報告書の記述の仕方や評価基準の設定、評価方法の充実が求められる。

《参考意見とアフターケア》
 訪問調査では、自己評価報告書は事前に担当分野ごとにかなり深く読み込み分析され、どこに問題点や評価ポイントがあるか絞り込んでおり、当日何を調査・ヒアリングするか、当該大学と事前に調整されている。大学側から見た評価員の良し悪しは、結局のところ、この事前準備の十分、不十分にあり、評価の精度を高め有益な参考意見を与えられる中味のある評価になるか否かに大きな影響を持つ。従って、機構においても、事前準備を含む評価員業務のあり方の定式化や評価員の育成を重視する必要がある。
 また、予め問題点が想定される大学の評価員には、その分野の専門家を加える点などは参考にすべきだと思われる。SNHUのチームレポートの場合は39ページと大部のもので、Strengths(優れた点)、Areas Concern(改善点)と共に、特にSuggestion(参考意見)の部分が十分に書き込まれており、改革推進に寄与している。機構評価書の「参考意見」欄についても、評価員のこれまでの経験や専門知識に裏打ちされた具体的助言を十分に書き込み、検討・審議を経てまとめ上げることが、当該大学の直面する課題に即したアドバイスをより充実させ、今後の改善に有効に活用できる評価につながる。
 ファイナルレポートで「認定」の判定であっても、抱えている問題点や課題の性格、深刻さの度合いに応じて、「条件付き」(Possible actions include)として、留意事項への中間段階での報告や特定事項の再調査、改善課題の年次を追ったチェックや支援など九段階の対応策を示している。認定の可否だけでなく、問題点の改善を促し大学の充実を支援していく機構の持つもうひとつの役割から考えると、評価終了後も、課題を抱えている大学に対しての継続したアフターケアはきわめて重要で、多様な改革支援プログラムの検討が求められる。

 《判定委員の重視》
 アメリカでは、判定委員は、評価員の選任を行い、チームと当該大学の学長とをつなぎ、何かトラブルが起これば、その調整を行う。担当する大学のチームレポートに目を通し、ファイナルレポートを作成するとともに、チームがバランスのとれた適切な評価を行うよう指導する。判定委員会が、チームレポートを審議・決定するだけでなく、評価の適切な推進のために積極的にイニシアティブを発揮し、一連の評価活動を統括している。
 機構においても、評価チームは当該大学と直接的に対応することになるため、より客観的立場で調整・指導できる判定委員会機能を高めることが、円滑かつ信頼される評価に大きな役割を果たす。判定委員会の設置に当たっては、各委員が担当大学を分担するなど、評価業務の円滑な遂行のための役割や職務について、一層具体化することが課題となると思われる。
 訪米調査で直接見聞した100年の伝統を持つ米国大学のアクレディテーションに、機構が目指す評価はその精神で一致しており、去る2月の試行評価を通じて実践した「私大の特性に配慮した改革を励ます評価」の基本方針に改めて確信を持つことができた。

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