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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.140
第三者評価は機能するか―教育・充実研究会の議論から

桜美林大学新宿キャンパス長 船戸 高樹

 「私立大学における建学の精神と第三者評価のあり方」をテーマにした私立大学の教育・研究充実に関する研究会(主催:私学研修福祉会、協力:日本私立大学団体連合会)が10月29日〜30日の2日間にわたって開催された。来年4月からの第三者評価制度の導入を前に、全国各地から300人近い出席者が詰め掛け、会場は満員の盛況であった。

 《問われる大学の自浄・自律能力》
 基調講演の講師は、佐藤東洋士日本私立大学協会大学基準問題検討委員会委員(桜美林大学理事長・学長)と清成忠男大学基準協会長(法政大学総長)の2人。まず佐藤学長は、国公立大学の独立行政法人化や設置規制の緩和などに代表される高等教育政策の転換について、従来の「国公立と私立」、「四大と短大」といった垣根が取り払われ、すみわけ構造が変化して設置形態の「液状化」が進行していると指摘。「教育の質を担保し、社会との間で信頼関係を築くため大学自身に自浄・自律能力が問われている。そのための手段として自己点検や外部評価に取り組む必要性がある」と強調した。
 その上で、新たに導入される第三者評価制度は、地域性や規模、歴史、学部構成など多様な形態の私立大学に配慮した評価システムの構築が不可欠との基本的な考え方に立って、日本私立大学協会が設立を計画している「財団法人日本私立大学評価機構(仮称)」に関する解説を行った。この中で、評価を機能させる課題として、@実地調査を担当する評価員の養成が急務であり、有能な人材を育てるための機関、組織、プログラム等を確立すること。A米国では、実地調査の前に地区基準協会と大学との間で、緊密なコミュニケーションが取られている。日本私立大学評価機構も私大協の支部を積極的に活用して研修会、相談会等を開催し、十分な理解と協力を得ること等をあげた。また、このあと補足説明に立った原野幸康私大協常務理事は同機構が文部科学大臣の認証を受けるかどうかについて「文科省から基準の細目が発表されるのを待って決めるが、評価機構は来年に財団法人として設立する。多くの問題を抱えているが、まず立ち上げ、改善しながら進化させていきたい」と述べた。

 《第三者評価機関の役割》
 次に基調講演を行った清成総長は、設置規制の緩和により、この10年間で私立大学が141校も増加している現状を「設置バブル」と位置づけ、明確なコンセプトを抜きにした設置の実態に触れて「大学とは何か、学位とは何かが、今まさに問われている」と問題を提起した。
 その上で、評価制度の導入について、実地審査に当たる評価員を大学関係者等のボランティアに依存している米国で、いわゆる「評価疲れ」が問題となっていることを例に「評価員の数も不十分なわが国で、(規制緩和で)増え続ける大学を評価することが、果たして可能か?国が想定した仕組みは、的確に機能するのか?」と疑念を投げかけた。さらに、「評価にかかる膨大なコストを誰が負担するのかを明確にせずに評価を義務付けたのは問題である」と指摘した。
 一方、100年に及ぶ評価先進国の米国に続き、90年代に入ってからヨーロッパ諸国や韓国、中国等のアジア諸国も相次いで評価制度を導入しており、またWTOにおける高等教育サービスの自由化問題やe―ラーニング等の進展が、高等教育の質の国際的通用性、国境を越えた標準化を迫っていることについて、「世界は評価基準の国際的な統一化の方向に進んでいる。したがって、わが国の大学も教育の質に対して国際的な通用性を持たざるを得ない。これには問題もあるが、メリットの方がはるかに大きい」と、わが国の第三者評価も国際標準への接近が必要であるとの考え方を示した。
 さらに、評価制度の意義について「大学は、これまで市場である受験生、保護者などに情報を十分公開してこなかった。あるいは、開示しても(法人会計のように)理解できないものもある。このような『情報の非対称性』のもとでは、市場の判断に限界があり、ここに第三者評価の役割がある」と述べ、第三者評価を行うことで「専門家による判断が市場の判断を助け、大学は自らの改善の手がかりを得ることができる」ことを最大の効果にあげた。

 《誰のための第三者評価か》
 両氏の共通した意見は「評価は必要である。しかし、わが国の評価制度には多くの問題がある」につきる。確かに、国の認証を得るという点での評価機関の独立性、評価のコスト、評価機関の財政的な裏づけ、ボランティアの評価員養成等解決すべき課題は、数え上げればきりがない。しかし、これらの問題はすでに以前から本欄で喜多村和之私学高等教育研究所主幹が指摘してきたことである。残念ながら、それに対する私立大学側の反応は、決して強いものではなかったと思われる。法律が施行され、実施が目前に迫って、初めて事態の深刻さに気づいたとしか思えない。
 ただ、評価機関やシステムに関する課題は、今後評価機関自身や大学団体等が評価活動の実態を検証しながら改善していくことができるが、自らの大学の課題は、自ら解決する以外に方法はない。個々の大学が教育の質を維持・向上させていくために不断の努力をすることは、社会的な存在意義を明らかにし、また社会に対する責任を果たすためにも、当然のことではないかと思う。民間企業では当たり前のことになっている「組織の目標と評価」が大学にも求められている。
 つまり、「法律で決められようが、決められまいが」、また「評価機関が認証を受けようが、受けまいが」、強い意志を持って自己点検に取り組み、堂々と第三者評価を受けることのできる大学だけが、新しい時代のステージに上がることができるのである。
 今、私立大学に求められているのは、第三者評価の理念、意義を十分理解し、押し寄せる国際化の波の中で、この制度を飛躍のきっかけとする強い決意である。そのためには、「大切なことは、セルフ・スタディーをきちんとやること」(佐藤学長)、「自己点検が最重要」(清成総長)と両氏が述べたように、自己点検の「再点検」に取り掛かることが緊急の課題である。建学の精神に沿って、教育の方法や顧客である学生の満足度等を一つ一つ点検し、将来への展望につながる報告書を作成することである。第三者評価は、その結果に対して客観的な担保を与えるものであるから、両者の信頼関係なしには成り立たない。そうすることによってのみ、評価機関が仲間内の“ナァナァ団体”でなく、真に高等教育発展の担い手として社会の信頼を得ることができるからである。
 第三者評価が機能するかどうかは、文科省の手を離れ、私立大学自身の手に委ねられている。大学人の信念と勇気が試されているといえよう。

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