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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.95
評価関連法案の問題点―学校教育法一部改正について

私学高等教育研究所主幹  喜多村 和之

 中央教育審議会は、去る8月5日の答申「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」において、大学に対する第三者による評価制度の導入等の提言を行った。文科省はただちにこれを法案化し、10月中旬から始まった臨時国会に提出した。この「学校教育法の一部を改正する法律案」は、その他に学部等の設置認可制度の見直し、違法状態の大学に対する是正措置、専門職大学院制度の創設など、今後の高等教育に重大な影響を及ぼす一連の諸変革とセットになった変革を意図したものである。同省は平成15年4月1日からの施行(但し第三者評価制度の導入は同16年4月)をめざしており、臨時国会審議の期間は12月中旬までのわずかにしか過ぎない。同省が急ぐのはそれなりの意図があってのことだろうが、筆者はこの法案はいくつかの点で重大な問題を孕んでいると考えるので、ここでは特に大学評価の問題にしぼって問題を提起したい。
 第1の問題は、これまで省令に規定されていた大学評価の問題を法律レベルに上げて規定し、大学による自己評価を学校教育法上に位置付け、さらに第三者による評価を国公私大に共通かつ画一的に義務化していることである。法律化によって評価の義務付けが正当化され、これを怠れば違法となり、したがって届け出の義務、文科相への報告の義務、認証の取消等々の罰則や制裁等が規定されることにつながる。評価以外にも大学の法令違反に対する罰則などを規定する一連の法律案が同時にまとまって提出された所以であろう。中教審答申でもなぜすべての大学に第三者評価が義務付けられるのか、かならずしも明確ではなかったが、法案は大学に一律的に自己評価と第三者評価を求めている。もし第三者評価が納税者への説明責任の履行を果たすための義務化であるならば、税金に大きく依存している国・公立大学と、学生納付金に大きく依存している私学とを、一部公費援助を受けているということで、一律・画一的に第三者評価を義務付けるのはどうかという疑問が残るが、いずれにしても私学にも第三者評価が義務付けられ、受けなければ法に触れることになるのである。
 第2に、法案では、大学は文部科学大臣の認証を受けた評価機関(「認証評価機関」)による評価(「認証評価」)を受けるものとするとある。しかし第三者評価がなぜ国の認証した評価機関に限られなければならないのかの理由が明らかでない。おそらく野放図にどんな評価機関でもよいとするのでは評価機関の質を維持できないという理由かと思われるが、事実上これは国が評価機関の認証権を握るということであって、多様で多元的な評価機関をよしとする考え方とは対立するものではないか。また、国の認証するもの以外の評価機関の評価を受けた場合は、国は行政上どのような扱いにするのかも不明である。
 第3に認証評価機関による評価は「認証評価」というとあるが、その場合、「認証評価」の内容をどう解すべきかという問題である。一般に「認証評価」という行為の内容には、A「認証」と「評価」を異質な行為と解して区分し、それぞれ異質な役割や権限があるとする場合。たとえば「認証」は基準を満たしているか否かの二者択一的判定や設置認可などの場合。「評価」は一定の基準または目的をどこまで達成しているかの程度や水準の測定、または改善の必要度の提示など。B「認証」と「評価」という行為は特に区別せず、「認証評価」という統合的ないし一体的な役割や権限をもつとする場合。C「認証」と「評価」のいずれでも可とする場合。D「認証評価」の内容はいっさい行政として関与しないとする場合、など、さまざまな解釈が可能である。この法案においてはどのような解釈をとるべきなのか明らかでない。もし、どのようにでも解釈できる玉虫色の用語であれば、今後に重大な問題を残すことになるのではないか。
 第4に、法案によれば、認証評価機関の認証権は同省大臣にあり、評価基準、評価方法、評価体制、異議申し立て制度、法人格の所有、等々の条件が具備されていることが必要で、その細目は同省大臣が定めるとある。このことは政府が第三者評価機関の許認可権を実質的に握っていることを意味しており、少なくとも細目が発表されるまではどのような条件が要求されるのか不明であり、細目が決められたあとはすべてそれに従わなければ「認証評価機関」になれないことにもなる。これでは設置認可という事前規制を緩和して事後評価を重視するというこれまでの流れとは、第三者評価機関に限っては逆行していることにならないのだろうか。そもそもなぜ同省大臣が評価機関の認証条件にまで介入してくる必要があるのだろうか。また認証条件の細目たる「機関認証基準」はいつごろ決められるのかわからないが、その内容を見極めるまでは認証評価機関に申請を予定している団体は、十分慎重な態度で臨むべきであろう。
 第5に「認証評価機関」は一定の事項の変更(大学評価基準の変更等)を行う場合、あらかじめ、同省大臣に届け出るものとするとある。しかし新設の第三者評価機関においては、基準や手続き等をたえず改定し、あるいは試行実験を行うことが必要となり、基準の変更等は頻繁に行われる可能性が高いと予想される。諸外国の評価の事例でも数年から数十年の経験や試行を経て漸進的に評価システムが形成されるのが普通である。したがって、この場合の「基準の変更」とは、どの程度の変更を言うのか、たとえば軽微な改訂をも含めるのか。さらにこの場合の「届け出」とは具体的にどのような手続きを要するのか、あるいは同省大臣の承認を必要とするものなのだろうか。
 第6に、「文部科学大臣が、認証評価機関が機関認証機関に適合しなくなったと認めるとき等」には、改善を求め、あるいは認証を取り消すことが出来ると法案にはある。それは具体的にどのような場合を想定されているのか不明であるが、認証評価機関は常に政府の監督ないし評価を意識せざるを得なくなるだろうし、政府は最終的な解散権を保持しているということにもなろう。
 第7に 認証評価機関が行った評価結果について、もし事後に問題が生じた場合(例えば、認証評価機関が認証評価した学校の質にクレーム等がついた場合)、その責任は誰が、どのようにとることになるのか。直接的には認証評価機関が負うべきものであるが、行政側の責任はどうなるのだろうか。これは行政は実質的な評価の行為や結果の責任を負わず、もっぱら評価機関の自己責任に委ねるが、その評価機関の設置と廃止の権限は政府が確保するという構造ではないだろうか。
 いずれにしても、この法案は幾多の問題点や曖昧な面があり、場合によっては、天野郁夫氏が指摘しているように「認証評価機関を通じた国家による教育統制につながる恐れ」(朝日新聞平成14年10月21日付)もある。こうした疑問点は法案審議の過程で明らかにされるべきである。また認証評価機関に申請を考えている大学団体や高等教育関係者は、後に問題を残さないように、十分慎重にこの法案を検討すべきであると考える。

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