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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.80
大学評価の新段階―韓国の総合評価認定制に見る

名古屋大学教授  馬越  徹

 最近、筆者の手許に韓国大学教育協議会(以下「協議会」)の機関誌「大学教育」(隔月刊:2002年3―4月号、通巻116号)が送られてきた。この号は協議会創立20周年記念号として編集されたものであり、旧知の李相周氏(現教育人的資源部長官・副総理兼務)が巻頭言を寄せている。その一文のなかで同氏は「…各大学は建学の理念、地域的特性等を考慮し比較優位の分野を中心に、果敢に学科を再構成し資源を集中し、大学の競争力を高めなければならない」と力説している。国立大学及び私立大学(二校)の総長を経験し、協議会の創設にも尽力した同氏の言葉の中に、現在協議会が主導している大学評価のエッセンスが表現されているように思われる。つまり大学の競争力を高めるための戦略的評価こそが、新しい世紀における韓国の大学評価のキーワードとなっているのである。

〈何のための大学評価か〉
 韓国の大学評価については、以前3回にわたって本紙(2001年11月)に連載したので詳細はそれに譲るとして、いまから20年前(1982年)に創設された協議会(4年制の全国公私立大学からなる連合体)は、当初から大学評価研究に積極的に取り組み、1990年代に入ってからは実質的な大学評価事業に着手した。
 周到な準備段階を経て1994年から実施に移された「大学総合評価認定制(以下「評価認定制」)」はアメリカのアクレディテーション(適格認定制)をモデルに構想されたものであり、@評価申請(対象大学選定)⇒A自己評価報告書作成(韓国では「自体評価研究」)⇒B書面評価・現地訪問評価実施⇒C認定可否の判定と結果公表、の手順で実施されている。評価結果は、「認定」、「非認定」、「条件付認定」のいずれかの形で公表され、ランキング表示はしていない(各大学には、評価項目ごとに詳細な結果が伝えられる)。
 この評価認定制は学部(学士課程)と大学院(研究科)別に7年周期で行われることとされ、第一期評価事業(1994―2000年)が完了した現時点で、全国の163大学、110大学院が「認定」を受けた。
 韓国の大学評価事業を見て感じるのは、評価主体が一元的(「協議会」主導)で、その目的が明確であることである。第一期評価事業の目的は、同年齢人口の80%以上が高等教育機関に進学するまさにユニバーサル段階に到達した韓国高等教育(大学)の教育条件を改善し、あわせて大学教育改革を競争的に誘導するところに置かれてきたといえる。その目論見は、教育・研究条件(ハード面)の著しい改善や教授採用率の飛躍的増加(約20%)等に見られるように、所期の成果をある程度あげてきたといえる。
 ところがこうした協議会の評価方式に対して、特に行政サイド(教育人的資源部)からは、@認定基準が低すぎる、A評価項目別結果の公表が必要、B7年周期では長すぎて国際競争に対応できない、C評価結果を高等教育行政(財政とのリンク)に使えない、等の批判がされてきた。2000年1月には、行政主導で協議会の評価認定制とは別の評価システム、すなわち国立大学の評価を対象とする評価組織(「大学評価委員会」)を提案したほどである。
 これに対し協議会側は、総合評価認定制は維持しながら学科別評価を同時並行的に行い、後者については評価結果を等級化(ランキング化)して実名表示(最優秀、優秀、普通、改善要求)を行う等の対案を出し、直ちに実施に移すことにより協議会方式の評価を守ってきた。
 また2001年からは、評価認定制の周期を5年に短縮すると同時に、評価の重点を大学の国際競争力確保に置いた第2期評価事業に着手したのである。以上のような協議会が主導する大学評価の新動向を、最近改訂された評価マニュアル「大学総合評価要覧」(2001年版、以下「要覧」)によって見てみよう。

〈戦略的大学評価の展開〉
 協議会が開発した評価認定制の第1期の目的が「条件整備のための評価」であったとすれば、第2期のそれは「品質管理のための評価」であるといえる。しかも国際的等価性・互換性を担保できるような大学教育の品質保証を、評価の戦略的目的として打ち出している。
 学部(学士課程)評価についてみると、総点(各項目の加重値の総計=500点)は変わらないが、評価領域の精選と評価項目の削減(99項目から55項目へ)が大胆に行われている。
 第一期の評価領域が、@教育、A研究、B社会奉仕、C教授、D施設・設備、E財政・経営であったのに対し、第二期のそれは領域数は同じであるが、内容的には@大学経営・財政、A発展戦略・ビジョン、B教育・社会奉仕、C研究・産学協同、D学生・教授・職員、E教育条件・支援体制と大幅に変更されている。
 領域ごとの評価項目は半数に削減されているにもかかわらず、個々の評価項目の内容は一段と充実してきている。全体的に見て、定量的評価指標による評価よりも定性的評価に重点を移してきていると言える。特に新たな評価領域として導入された「A発展戦略・ビジョン」領域では、大学発展計画の適合性・戦略の妥当性・実行計画の具体性等を明確に示すことが求められている。また「C研究・産学協同」領域では、第一期評価でもなされた大学内における研究実績評価に加えて、研究面での産学連合実績、国内大学間協力、産学連合促進体制の整備等の評価が新に加えられている点も、戦略的評価として注目される。
 とりわけ、第二期の評価事業として重視されているのは大学院評価である。
 第一期における大学院評価は学部評価の付属的な位置づけしか与えられていなかったが(5領域20項目、総点100)、第二期評価では領域(@発展戦略・ビジョン、A教育、B学事・論文指導、C研究、D大学院生・教授・職員、E教育条件・支援体制)四五項目にわたって本格的な評価が行われることになった。総点も300点に引き上げられた。
 新しい評価領域となった「@発展戦略・ビジョン」では、大学院の「特性化」(比較優位の分野の重点的育成計画)についての定性的評価が求められている。また新たに導入された「C研究」領域(第一期評価では「教授」領域の一部として扱われていた)では、過去3年間の論文実績、著書実績、学術大会発表実績、学外研究費の獲得額、学内研究費の獲得額等が定量的に厳密に点検され、大学院評価全体に占める比重も格段に大きくなっている。
 以上に見られるように、協議会が主導している大学総合評価認定制による第2期大学評価は、韓国大学の国際的競争力確保を戦略的目標に掲げてスタートを切ったところである。

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