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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.76
第三者評価とは何か―中教審の中間報告への疑問

私学高等教育研究所主幹  喜多村和之

 中央教育審議会は「大学の質の保証に係わる新たなシステムの構築について」(平成14年4月18日)の中間報告で、「国の関与は謙抑的としつつ」第三者評価機関を可能な限り活用し得る新たな評価システムの整備を提唱した。
 その第三者評価機関とは「国の認証を受けた機関(認証評価機関)」であって、それは「自ら定める一定の基準を基に定期的に評価し、その基準に達しているものに対して適格認定を行い、評価結果を踏まえて大学が自ら改善を図ることを促す制度」で、この第三者評価を各大学が受ける方向を検討するとしている。ここで打ち出された方向が法令化されれば、各高等教育機関に第三者評価が義務化され、近い将来において、私立大学も「国の認証を受けた」第三者評価機関の評価の対象とされることになり得るのである。
 第三者評価機関の必要性や正当性については、殆ど疑う余地のない前提として語られているが、「第三者評価」とは何か、本当に客観性や透明性が確保できるのか、なぜ大学自身による自己評価にかわって必要とされるのか、といった基本的な問題は、必ずしも自明のことではなく、議論が尽くされたわけではないように思われる。
 そもそも「第三者」とは一般に「当事者」に対する語であり、ある事柄について直接関与する者を当事者といい、それ以外の者を指す。ISO(国際標準化機構)の用語によれば、製品・サービスの供給者が第一者、購入者が第二者、そのどちらからも財政的・商業的に独立しているのが第三者である。だから基準の認証とか試験検査などは第三者が行うことが国際的に同意されているという。
 これを大学の場合に当てはめれば、教育サービスを提供する側の学校(教職員)を第一者とすれば、教育サービスの受容者である学生及び保護者は第二者にあたり、第三者は両当事者とは利害関係になく、独立している存在ということになる。
 大学を評価する主体として第三者機関が登場してきたのは、当事者である大学の自己評価路線に対する不信とともに、総合規制改革会議等の政治・産業界からの第三者的認証制度の推進の方針の影響もあるとも考えられる。しかし上記のような意味で、当事者の利害や立場から独立しているという点では、既存の評価機関が純粋に第三者機関に該当するか否かは、理論的には疑問の余地があり得るのではないか。
 例えば、他の大学の者なら第三者と言えるのか、あるいは大学関係者は同業者として互いに利害関係にあるのだから、客観的かつ公正な立場をとり得ないのではないかという疑問も起こり得るだろう。
 また、大学評価・学位授与機構は国立の大学共同利用機関と同等の機関として位置付けられてはいるが、疑いもなく官の機関であり、国の下部機構である。そこで行われる評価結果は直接・間接に、政府の予算配分の参考にされ得る。資源配分その他の権限をもつ官僚の影響力を受ける立場にある機関が、はたして、当事者の利害から独立した第三者機関に該当するか否かも疑問の残るところである。
 国立大学が国の機関により評価を受けることは法令上は妥当だとしても、国からの一定の独立を建て前としている私立大学までも、国の評価機関の評価を受けることは、高等教育の画一化を排し、私学の自由や特性を維持するという観点からも疑問視される所以である。
 ここでは第三者評価について検討されるべき主要な問題点のみを指摘しておきたい。
 第1は、中間報告は「国による事前規制(=設置認可行為)を最小限のものとし、事後チェック体制(=認証評価)を整備する」という方向性を打ち出しながら、第三者評価機関を「国の認証を受けた」ものに限っている。これはその方向性とは矛盾する「事前規制」にあたるのではないだろうか。
 そもそもここで「国」とは何であり、どのような機関を指すのか、どのようにして認証という仕事を行うのかは明確でない。これでは、国が評価において何らかの影響力を行使しようとする意図があるのではないかという疑いも抱かれるのではないか。もちろん第三者評価機関はその名に値する条件を備えるべきではあるが、認証の主体がなぜ「国」に限られるのかは議論の余地があるだろう。大学自治や学問の自由の観点からは、認証する主体は官僚統制になりがちな国の機関であるよりは、民間、非政府、非営利機関や専門職団体とするほうが望ましいという主張もあり得るであろう。また国が認証する第三者評価機関には何らかの援助措置を検討するという指摘もあるが、これまた私学の自由の見地からは気になるところである。
 第2に、第三者評価機関はその基準に達している大学のみを「適格認定」とし、改善を促す制度とするという。しかし適格と判定されなかった学校については、今後の検討に委ねられるようである。
 しかしながら、こうした事例をどのように扱うのか、例えば、「設置認可」をされながら「適格認定」を得られなかった大学は、場合によっては設置認可を取り消されることがあるのか、それとも何度でも再申請が認められるのだろうか。こうした点が曖昧なままだと、大学評価制度の全体における設置認可と適格認定の意義や位置付けも明確にならないのではないだろうか。
 第3に第三者評価機関の「認証基準」として、基準、評価実施体制、定期的評価、評価結果の公表、不服申し立て制度の整備等の4項目をもつことが条件として挙げられている。これらは一般に合意される妥当な条件であろう。しかし、何が「適切な基準」であり「適切な実施体制」なのか、といった内容については明らかではない。この点も非常に気になる部分である。
 中教審はこの中間報告に対して早急な意見表明を求めている。しかし少なくとも以上のような疑問に対して明確な方向が示されていない状況では、にわかに賛否を明らかに表明しにくい。私学関係団体は今後の文科省や中教審におけるヒアリング等の機会を通じて、こうした疑問点を明らかにするよう働きかけてもらいたいと考える。

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