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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.15
大学ランキング時代の到来

主幹 喜多村和之

 前号でもふれたように外国の大学事情を観察してひしひしと感じるのは、これからの大学はその教育・研究の質がますます内外から問われる時代、すなわち本当の意味で大学・高等教育の中身が、国内のみならず国際社会にむき出しにさらされる評価の時代になるということである。
 たとえば日本の大学のほとんどは、一部の分野を除いては、これまで直接的には国際競争にさらされずにきた。学生はもっぱら国内需要で調達できていたし、教員も国際市場に開放されずに採用され、外国の大学の日本進出も瀬戸際で食い止められてきた。21世紀までに外国人留学生10万人受け入れ計画は挫折したが、日本ではそれは「先進国」の開発途上国への「国際貢献」と捉えられていたため、大学の存続にかかわるような深刻な問題とは受け取られずにきた。しかし国内の少子化で、ひとりでも学生の欲しい21世紀の多くの日本の大学にとっては、外国人学生は無視しがたい巨大な潜在能力をもつ市場となる。
 学生募集の国際競争がはじまれば、その成否の鍵を握るのは、日本の大学が諸外国の大学に比してどんな魅力があり、違いや個性はどこにあるか、教育研究の質的水準が国際的な競争力をもち、単位や学位の価値は国際互換性をもつかといったことの国際評価であろう。日本の大学はこうした評価についての正確な情報を公開して、世界の学生を惹き付けなければならない。なにしろ隣のアジアだけでも高等教育を求める潜在的留学志望者が何万人もいるのである。地理的にも近く、文化的にも親近性のある日本には、優れた頭脳の若者たちが、条件さえ整えば、大挙して大学をめざしてくる筈である。その目的のために、インターネットは情報開示に強力なメディアとして機能するだろう。
 しかしながら、外国人学生が他国ではなくて、日本の大学を留学ないし進学先として選んでくる決め手とは、何といってもその大学の質であろう。大学の教育・研究上の質を測るということは不可能で、ましてや大学を序列化したり、ランキング化することに対する疑問や不信は根強い。しかしそれにもかかわらず、毎年のようにメディアや各種の評価機関は大学の格付けを発表する。それはなんらかの形で大学の優劣を判断したいという巨大な抑えがたい需要が存在し、それが商売になるからであろう。大学ランキングの本家であるアメリカのみならず、イギリス、ドイツのような公立高等教育中心の国や開発途上国にも例外でなく広まってきている。日本でも情報産業、マスコミ、受験産業、評価機関がさまざまなランキングを出していることは周知の事実である。
 こうしたランキングには内容・方法ともに信頼性が乏しく、専門研究者からは眉唾物と断罪されているものも多い。たとえば「ゴーマンレポート」と言う名の大学評価本は世界約百校のランキングを発表し、そこには日本からは東大だけが入っている。これなどは世界の著名大学をどのようなデータでどのような方法で序列化したのかも根拠が不明な代物だが、いったん世に出ると根拠を問わずに盲信する者がいて、隠然たる影響力を及ぼしている。一部の日本の学者やジャーナリストはことあるごとにこれを引用して日本の大学の質の低下の証明に利用しているのは困った現象である。
 これのアジア版とでもいうべきものとして「アジアウィーク」という週刊誌はアジア諸国の総合大学のランキングを毎年発表しており、2000年版では11校の日本の国立・私立の総合大学がベスト77校のなかに、また5校がベスト39校の科学技術系大学に入っているが、ビジネススクールの分野では全部で50校のベスト校のうち日本の大学が顔を出しているのは5校だけである。
 こうした市場評価の多くは内容・方法ともに信頼性の面で問題が少なくないのだが、いったん発表されれば一人歩きをはじめ、多くの人や団体によって利用される可能性があり、しかもこれを何人もとどめる手立てがない。これまで偏差値という名の大学ランキングが日本中を横行し、単に受験生の入学時の受験学力の表現にすぎないものが、いつの間にか大学の質の評価と受け取られるという弊害をもたらした。偏差値ランキングは受験生にとって、自分の学力がある大学への入学可能性を予想させるという利点があった。しかし入学難易度という基準が次第に意味をもたなくなりつつある今日、これからは新しい評価指標が必要になってこよう。それは大学の入り口だけでなく中身、すなわち質をはかり、その結果を序列化しようという要求である。
 かくして大学評価の新時代が到来する。大学を評価するのは、大学自身だけではなく、学外者や第三者機関が加わってくるだろう。買い手市場の時代の進学先の決定の評価には、金の卵の受験生だけでなく、学費を負担する親も積極的に口をはさんでくるだろう。その学校選択の情報を提供するために、マスメディアや受験産業は、ますます多彩で微細にわたる格付けやランキングの作成に務めるだろう。しかも評価機関は国内のみならず海外からもくるであろう。そして評価情報は単に印刷された雑誌や新聞だけではなく、インターネットにのって全地球を駆け巡るであろう。インターネットショッピングに慣れた青年にとって、大学はもはや国内だけでなく世界も視野に入ってくる可能性が開けるのである。
 こうした事態が到来するとしたら、世界の学生はあり余る評価情報のなかから、どこの国のどの大学を進学先として選ぶのか。日本の青少年は相変わらず日本の大学を優先するのか、それとも広く世界の大学を選ぼうとするのか。いずれにしても大学が優れた学生によって選ばれる道をとろうとするのならば、市場ランキングに対抗し得るような質の向上と世界に信頼されるような評価システムの開発を、大学自らが創造するほかないだろう。


----- ★冊子「私学高等教育研究所シリーズ No.2」が完成★ ----------------------------

 当研究所が発行するシリーズ冊子の第2巻が、このほど完成しました。当研究所主催の第1回公開研究会(平成12年8月2日開催)で熱心に議論された、“最近の高等教育政策と私学”―私学の立場からみた「独立行政法人化」と「第三者評価機関」についてまとめたものです。さらに、国立大学の独立行政法人化に関する文部省の発表など、私学にとって重大な影響を及ぼすと思われる関連資料を収録。
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