平成26年10月 第2584号(10月22日)
■改革の現場
ミドルのリーダーシップ <71>
徹底した少人数教育で満足度向上
職員参画の小回りの利く経営
びわこ学院大学
びわこ学院大学は、1933年、森はな女史が和服裁縫研究所を開設したことに始まる。その後、専門学校、高等学校、短期大学を開き、2009年に教育福祉学部子ども学科の単科大学を設置。2013年には大学附属のこども園を開園した。2014年度からはスポーツ教育学科を新設して地域のニーズに応える。大学の現状について、森美和子理事長、森 亘学園長、賀川昌明学長に聞いた。
滋賀県や東近江市(旧・八日市市)から、「八日市市近辺には高等教育機関がないので、是非設置してほしい」との要請を受け、1990年に滋賀文化短期大学生活文化学科(単科)を新設した。滋賀県は福祉先進県と言いながらも社会福祉士等の養成施設がなかったことに注目し、1994年に介護福祉士の養成と社会福祉士受験資格取得のための人間福祉学科(人間福祉専攻・介護福祉専攻)を増設。ちなみに、この「人間福祉学科」という名称を短期大学として使用したのは日本初だった。1998年には児童福祉専攻を設置するも、今後の保育士養成等の重要性を見通し、「子ども学科」として新設した大学に改組転換。将来的には短大の学科を全て4大に移行することを検討している。
珍しい「スポーツ教育学科」のねらいについて。系列高等学校ではスポーツコースがあり、野球部は2009年に甲子園、陸上部は県代表、そして、円盤投げでは全国1位と活発である。その高校から「生徒が東京ばかりを向いてしまうのは困る」との要請もあり、スポーツ系学科設置が検討される。一方、滋賀県にはアスリート養成の大学があることから、保健体育、特別支援学校の教員免許が取得できるスポーツ教育学科として差別化する方針が取られた。「近隣大学では珍しい、特別支援学校教員の一種免許が取得できます。1つの特別支援学校には200名程の教員が必要になるので就職先も見込めます。また、健康運動指導士や障害者スポーツ指導員、日本スポーツクラブ協会の介護予防運動指導員の資格も取得でき、教員以外も目指せます」と森事務局長。3年次のキャリアデザイン授業で、具体的に教員志望と民間志望に分かれるようになる。
小規模大学の特徴でもある、教員、職員、学生の距離が近いアットホームな大学。関係者全員の共通理解が図りやすく、きめ細かな個別学習支援が行える。賀川学長は、「短大時代からの文化ですが、教職員は学生を名前で呼び、全員に面接をするので、何を勉強して何か問題を抱えていないかなど全て把握しています。職員も教員と一緒になって2年次からキャリアデザイン科目を置くなど教職支援や進路指導を丁寧に行っています」と説明する。
例えば、1年次から公務員試験の対策講座を実施、4年次には面接、討論、模擬事業なども加わり、カリキュラム外の指導も積極的に行う。学生の就職活動スケジュールも大学側で管理。資格試験受験に後ろ向きの学生は、大学から電話を掛けたり廊下で待っていたりと、少人数であるがゆえにきめ細かくできることを行っていく。このため、就職率は希望者に対して100%を誇る。
また、学習支援の特徴の一つである学修の「カルテ」と「自己分析」は、大学独自にアレンジして使用している。仁木幸男教授が取り組んでいたものを大学全体に広げ、入学から卒業まで、学生自身が自分の学びと成長の軌跡をまとめて、4年間を振り返るツールとした。作文、数値化、グラフ化等で自己分析を行う。教職実践演習では、この学習の記録が履修条件となる。今後、スポーツ教育学科は、これを土台に運動履歴を加えて利用していく。
森美和子理事長は、学内外の情報をいち早くキャッチし、自ら先頭に立って学園を切り盛りする。とはいえ、現場は森理事長にモノを申しやすい雰囲気でもあり、森理事長もそれを歓迎している。月に1度、役職のある教職員が出席する企画運営委員会が様々な企画立案の出発点となり、各委員会で検討されたのち、教授会で最終的に合意がなされ、理事会で決定される。職員は経営の至るところに関わり、実行に移してゆく。
学園祭は地域の子どもや保護者向けに開催する。短大時から地域の親子連れを中心に約3000人が参加。子どもが多いのが、こうした地域の学園祭の特徴でもある。
地方、小規模、新設…と悪条件が全て当てはまる。しかし、「地域ニーズに応え高い就職率」、「学生への手厚い支援」、「柔軟で小回りの利く経営」という強みでこれからの厳しい市場を乗り切ろうとしている。
学習の記録、カルテ・自己分析で成長を可視化
桜美林大教授/日本福祉大学園参与 篠田道夫
大学は2009年の開学だが、学校法人滋賀学園の歴史は80年余。裁縫研究所からスタートし、これが短大の生活文化に引き継がれ、全国初の人間福祉、そして大学の教育福祉学部へと発展してきた。子ども学科は2期生を輩出、就職率100%を達成した。しかも就職希望率96.2%、教育、保育、福祉等の学科の目指す専門職に就いた卒業生の割合76.5%と優れた実績である。
2014年、併設する高校にスポーツコースがあることからスポーツ教育学科を増設した。
大学・短大合わせても教員30名、職員18名、学科増設前までは収容定員340人という小規模で、大学案内でも「1人ひとりの夢に寄り添って―ここにしかない少人数教育」をアピール、1クラス平均10名、クラス・ゼミ担任制で行き届いた教育を行う。
その特徴を整理すると、第1は、少人数から来るアットホームな環境、分からないことはすぐ聞ける、親身に話を聞いてくれる、教員との距離が近いなどから学生満足度が高く、退学率の低さは県内ナンバーワンで、『読売新聞』2013年7月9日「大学の実力」でも紹介される。また、「カレッジマネジメント188号(リクルート発行)」において、感性的価値“のんびり”の部門で全国14位に上げられている。地域の環境から、学生たちが感じている良い意味での雰囲気のある大学でもある。
第2は、就職実績を生み出すきめ細かな進路指導。ここでも基本は少人数の強みを生かした個別指導で、じっくり時間をかけて相談にのる。エントリーシートや履歴書を丁寧に添削し、教職員相手の模擬面接を何度も繰り返す。ゼミ担任とも緊密に連携し、学生が来るのを待つのでなく大学の方から常に学生と連絡を取り、試験や就職活動のスケジュール管理までサポートする。全学生の名前を憶えているので、顔を出さない学生は廊下で捕まえる。大規模大学ではまねのできない親身な指導が抜群の就職実績を生み出す。一方、地元事業所の社長や幹部職員にも協力を得て、実践さながらの面接の予行演習なども積極的に取り入れ、功を奏している。
第3は、学修の記録。カルテでは、目標は何か、そのために何をしたか、取得予定の資格、それに必要な単位と成績等をリスト化する。自己分析では、大学独自のオリジナルな質問に答えることで、長所や短所、改善点を見つけ数値化、定期面談で担任に相談する。自己分析を折れ線グラフやレーダーチャートで可視化することで、自分の強みや課題、努力が必要なところ、進化が一目瞭然で、担任も現状を踏まえたアドバイスが可能となる。自分を客観視でき、成長度合いも、次は何をすべきかもわかると学生から高く評判されている。
第4に、体験型学習で実践力を付ける教育を重視、附属こども園、自然体験指導力養成研修、教育ボランティアなどで学生を積極的に教室の外に出す。それをテーマに少人数・対話・討論型授業を徹底する。
第5は、教員相互の授業参観を中軸とした活発なFD活動。全教員が参観に供する授業を提出し、時間割を組み、相互に授業を参観、これを素材に授業方法改善についての演習形式の研究会を行う。
こうした努力の成果もあり、2010年以降志願者は徐々に増え、一昨年定員充足を果たした。しかし昨年は、スポーツ教育学科の新設認可の遅れから募集期間が不十分で、定員を完全には確保できなかったが、今年は出足が順調で定員確保はほぼ確実な見通しだ。これに従って財政改善も着実に前進、数値目標を掲げた取り組みで、安定財政へと進んでいる。
これらを推進するのが、森美和子理事長を先頭とした教職員の取組である。この大学の改革推進の基本方針の出発点は、理事長、事務局長(学園長兼務)、学長のトップ三者で構成される三役連絡会議である。ここであらゆる経営・教学の基本方針が練られ、それを教学の役職者や事務局の課長クラスまで含んだ企画運営委員会に諮り、ここでよく検討・審議・調整し、現実案に仕上げたうえで教授会や理事会に諮って意思決定する仕組みだ。理事長と学長が直接統括し、リーダーシップを発揮するとともに、職員幹部も素案段階から検討に参画することで教職協同を進め、かつ方針に実効性を持たせている。機関決定の前に実質的な政策の共有を図ることで、全学を挙げた迅速な取り組みを可能としている。
地方に立地する小規模大学は、今後も厳しい環境に立ち向かわなければならないが、特色を鮮明に、就職実績をはじめ学生の成長の実際の成果を作り出す教育こそが未来の展望を切り開くことは間違いない。