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平成26年4月 第2560号(4月16日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <62>
 日本初、全て英語で授業
 リベラル・アーツ大学外国人教員比率は80%超
 宮崎国際大学


 宮崎国際大学は、学校法人宮崎学園の2代目理事長、大坪久泰氏の理想を追求した、日本初のほぼ全て英語で授業が行われるリベラル・アーツ大学である。大学ランキング2013(朝日出版社)では、外国人教員比率が全国1位、外国人教員比率は80%以上で、大学ランキング創刊以来17年連続で1位となっている。また、外国人教員1人あたりの学生数(ST比)も10.4名で、これも全国1位である。更に全ての学生は2年の後期に半年間の留学が義務付けられている。秋田の国際教養大学や大分の立命館アジア太平洋大学が注目されるより以前の1994年からこうした特色を持つ背景等を、永田雅輝学長、マイケル・トンプソン学部長、ウォーカー・ロイド学部長補佐、西村直樹国際教育部長、山代文雄事務局長に聞いた。

 英語によるリベラル・アーツ大学の構想は、大坪氏が交換研究者としてアメリカに派遣された時に生まれる。日本とは異なり、アメリカのエリートには柔軟な思考、広い視野等が備わっていた。この根本にはクリティカル・シンキングをベースとしたリベラル・アーツ教育があると痛感。ピッツァー大学の副学長・学部長と2日以上にわたり、新大学構想を熱心に話し合い、設立を決意した。帰国後、理事会に構想を諮り承諾、企画チームをアメリカに送った。ビジョンの作成から大学設置の資料作りまで理事長自ら陣頭指揮を執った。
 「構想に慎重だったのは、当時の文部省でした。多くが新しい試みだったので…例えば、入試に何故TOEFLを導入するのかとか、英語の授業の質をどう担保するのか。大坪理事長は、何度も東京に足を運び担当官と協議をしたそうです」。永田学長は説明する。
 当初、外国人教員は、出身大学のサバティカル教員等を含めて、150名の学生定員に対して8カ国から55名の教員を2年間の期限付きで招聘した。現在は、外国人教員採用は、米紙The Chronicles of HigherEducationに求人を出すなど、教科の教員は世界中から雇っている。
 外国人教員は2年単位契約で、再任委員会の審査を経て契約が更新される。教育の継続性を考慮する上で、外国人教員の契約更新条件は柔軟に考えられている。「学部長の最も重要な仕事は、教員採用。本学の特徴を理解し、数ある制約の中で最もパフォーマンスを発揮してもらえる人材を見極めなければなりません」とトンプソン学部長。
 開学当時から、アクティブ・ラーニング、クリティカル・シンキングを全ての教授法、教授内容の柱に据える。こうした取組を支えるのが、冒頭のST比であろう。多くの授業で豊富な教員数を生かしたティームティーチングが行われている。「二人の教員が一つの授業を設計、教材作成を行います。主担当・副担当ではなく、2人とも主担当。英語によるディスカッションが中心ですから、2人体制でキメの細かい授業が展開できるのです」とウォーカー学部長補佐は解説する。また、「教員2人」による授業は、同時に教員相互のFDにもなるし、一人一人の学生の「変化」に気付き易くなることでもある。
 教員によるアドバイザー制度、学生によるアドバイザーアシスタント制度によって、学生への支援体制は更に厚くなる。問題のありそうな学生については、公式・非公式の会議を問わず、教職員間で情報共有され、対策が決められていく。こうした総合的な大学の取組によって、英語でクリティカル・シンキングができる人材へと育成されていく。「なかでも、学生が「見違えるように」変化するのが、半年の海外留学体験です。この体験を境に、学生の授業への姿勢、将来展望、自主性が大きく変わります」と西村部長は述べる。
 これまで学生募集に苦労する側面もあったが、教育を先細りさせないという大坪理事長の強い信念の結果、徐々にメディアにも取り上げられ始め、注目を集め始めているという。何よりも大学の本質は教育の質であることの証左であろう。
 最後に、クリティカル・シンキングが身についたかどうか、どのように評価しているのか、トンプソン学部長に聞いた。「数値で測る試験はあまり意味がなく、教育の専門家である教員が、専門性のある教育法を施すことで質を保証できると考えます。教員がクリティカル・シンキングの獲得をもたらす様々な手法を駆使し、学生が育成されていることを専門家として保証することが重要です。もちろんアウトカムのエビデンスも重要なことは認識をしています」。
 元々ユニークな教育ではあるが、断続的に現場レベルの教育改善活動を上手にトップに吸い上げながら、教職課程の導入や、習熟度別の英語教育等を導入して改革は進められている。

アメリカ型運営で責任、評価を
明確に教育充実
桜美林大教授/日本福祉大学園参与 篠田道夫

 宮崎国際大学は、英語を通じた国際人の育成を掲げ、全ての授業を英語で行い「英語で学び英語で考える」。卒業論文も英語だ。外国人教員が8割と日本一で、国際教養大学47%、立命館アジア太平洋大学46%の倍近い。半数が博士号を持つ。学内会議も基本英語で、職員の多くも英語を使いこなす。基本文書は日英2ヶ国語で表記。取材当日も、同時通訳でのインタビューとなった。
 新入生は「誰でも最初の1ヶ月は分からない」を経験。なぜ、それほど英語が得意でない生徒の英語力を飛躍させることが出来るのか。TOEICスコアの平均で入学時346点だったのが、卒業時には651点に上昇する(2012年『大学案内』)。そこには認証評価機関から「教育方法の独創性は特筆すべき」と言われた優れた教育システムがある。
 その第1は、チームティーチィング。ひとつの科目を2人の教員、教科を教える教員と英語を教える教員で授業。英語教員は通訳ではなく、英語を英語で教える。第2は、徹底した少人数対話型の授業。授業は20人程度で、専任教員は設置基準を大きく上回る。第3は、徹底した主体的学習の重視。20年前から、日本には無かったアクティブ・ラーニング形式のディスカッション、プレゼンテーション主体の参加型授業を行う。クリティカル・シンキングを重視し、グループ学習(協働学習)で、読み、書き、考え、討議する。自分で使いこなすことで自然に英語が身に着く。第4は長期の海外研修。2年次後期に16週の海外研修に参加、英語、自由研究、地域研究の3領域の学習を行う。そして最後、全員が卒業論文を英文で執筆する。
 自在な英会話には通常3000時間の英語学習が必要と言われる。英語での授業が1年1650時間、4年で4950時間、それに4か月以上の海外研修が加わる。英語を使わざるを得ない環境に学生を追い込むことで、飛躍的な英語力のアップを実現する。
 大学のルーツは英語や国際ではない。母体の学校法人宮崎学園は、宮崎女子商業、裁縫女学校からスタート。中・高・短大は、いわば普通の学校だ。出発点は、大学創立の20年前、日本では全く考えられなかった全授業を英語で行うリベラル・アーツ教育を理想の教育と考えた宮崎学園創立者の息子、大坪現理事長の熱い想いだ。ピッツァー大学の副学長などからも強い影響を受け、アメリカ型教育システムを日本に本格導入する。創立時からアクティブ・ラーニングや英語力評価にTOEFLを使うなど、当時としては全く新しい教育方法を採用した。
 これまで1学部1学科の伝統を固く守ってきたが、今年4月から教育学部児童教育学科を新設する。短大初等教育課程の4大化を図るとともに、国際人養成の高い理想と地元ニーズに応える人材養成の両立で志願者の安定確保を目指す。これまで定員を完全に確保することは出来なかった。全国から学生を集めうる強い特色を持つ大学にもかかわらず、立地や目立つ宣伝をしてこなかったことから、県内進学者が6〜7割を占め、県内人口の減少もあって厳しい対応を迫られてきた。入学者増を目指し、県外への高校訪問、3年生の担任にもアポを取り頻繁に面会、プレスリリースやソーシャルメディアを使った広報にも力を入れる。
 教員の教育熱心さは際立っている。外国人教員が多いため教員雇用もアメリカ型で、基本的に2年の有期雇用が大半だ。2年に1度、再任評価を行う。ティーチングや学術・校務活動の自己評価を行い、教員審査委員会が、学部長が毎学期確認している学生の授業評価も加味、教員評価資料として審査の上、再任推薦の可否を決定し、学部長にその結果を報告する。それらを受けた学部長は自らの推薦状を作成し、学長に提出。学長は書面を参考にして最終決定を行い、理事長に再任審査の結果を報告し、承認を得る。こうした厳しい評価で、教育力と熱心さにさらに磨きがかかる。
 大学運営もアメリカ型だ。教授会や委員会で審議は行うが、決定は学長、経営案件は理事長で、トップや幹部の責任と権限が明確だ。日常的には、学長が議長を務める部課長以上の管理職員(含学部長)で構成される「運営委員会」及び学部長が議長を務める、常設の委員長3名、幹部職員5名の計9名で構成される「大学評議会」で行われる。学部長は教員の採用、評価、教員管理に大きな力を発揮する。
 宮崎の地で、創立以来の徹底した英語によるリベラル・アーツ教育の伝統を変えず、強い特色を保持し続けている。



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