平成25年10月 第2540号(10月16日)
■大学は往く
新しい学園像を求めて 〈83〉
改革で社会的な存在に
「変わる」「見せる」 教育の質高め、環境整備
横浜商科大学
建学の精神は、『安んじてことを託さるゝ人となれ』。横浜商科大学(柴田悟一学長、神奈川県横浜市鶴見区)は、ビジネスの世界で活躍できる、意欲あふれる人材を「横浜」で育てる。商学科、貿易・観光学科、経営情報学科の3学科からなる商科の単科大学。商学の基礎と実際を幅広く学び、専門的な知識・技能だけではなく、人としての責任感、倫理観を養う。未来のマーケター、ホテルスタッフ、公認会計士を目指す。特長は、きめ細かな少人数制と、横浜の歴史ある野毛地区や中華街から活きたビジネスを学ぶフィールドワーク。少子高齢化、大学全入時代を迎え、大学経営は厳しさに晒されている。横浜商大もまた、その渦の中にいる。「いまこそ改革の時である。今を逃したら改革はできない。生き残りのための改革を行う」と大学改革に示す意欲は半端ではない。そんな学長に、改革の中身を中心に、大学の歩み、教育研究、地域貢献などについて聞いた。
(文中敬称略)
ビジネス人材横浜で育てる 実用的学び重視
学長の柴田が建学の精神を説明する。「実学を重視している本学にとっては、改めて全教職員、学生諸君が肝に銘じるべき理念です。実学とは、“実用的な学び”のことですが、その背景には高度な概念的枠組みがあります。そういうものを一緒に学ぶことによって、真に『安んじてことを託さるゝ人』となれるのです」
横浜商科大学は、1941年に設立された横浜第一商業学校(現・横浜商科大学高等学校)が淵源である。66年、横浜商科短期大学が開学(4年制大学移行後に閉学)した。
横浜商科大学は、1968年、商学部商学科の単科大学で開学した。開学時は、貿易コース、経営コース、会計情報コース、商学コースのコース制をとっていた。74年にコース制を廃止、新たに貿易・観光学科、経営情報学科を設置した。現在、3学科に1200人の学生が学ぶ。
柴田の話は、大学改革から始まった。「74年のコース制の廃止、学科制導入以来、大きな改革はなされませんでした。学生募集が順調に推移したこともありますが、他の大学が学部学科の新設・再編などの改革を続けるなか現状に安住していたきらいがあります」
少子高齢化、大学全入という大学にとって冬の時代。ご多聞にもれず、横浜商大も受験生の減少など厳しい事態を迎えた。柴田は、同大に来る前は、横浜市立大学副学長として、当時の横浜市長の命じる公立大学改革の矢面に立ち、改革を成し遂げた。ガバナンス力は実証済み。
改革のキーワードは、「変わる」と「見(魅)せる」。熱弁をふるった。「変わるは、教育の質の向上と学内環境の整備で大学を新しく変える、ということです。見(魅)せる、は、これまでも他の大学にない立派なことをやってきているが、それが学外に伝わらない。広報力を強化したい」
「変わる」に向けて、二つのプロジェクトを立ち上げた。「メンバーは、40歳台の教職員を中心に、若い感覚でアイデアを出して改革につなげたいという狙いからです」
教育を「変える」。「2015年度に、学科の見直しを行います。時代のニーズに合わせた学科にしたいと考えています。当然ながら、カリキュラムも改革します。現在、プロジェクトメンバーが日夜、検討を重ねているところです」
学内環境を「変える」。「既に、アクティブラーニングの導入に伴い、これに使える教室をリニューアルしました。次のテーマとしてキャンパスの中庭を整備したい。一つのアイデアとしてあがっているのが、ウッドデッキを備えたアメリカ風のキャンパスです。これによって居心地のいいキャンパスにしたい」
大学を「見(魅)せる」。「大学にとっての顧客は受験生、保護者、高校の先生、塾の先生らです。大学は、顧客に魅力ある大学像を知ってもらう必要があります。広報力を強化するなどして、本学の魅力を学内外に伝えていきたい。大学のブランド力アップにもつながります」
改革論議はひとまず置いて、各学科の学び。商学科は、マーケティングに加え、それに付随する金融・物流・保険まで含めた商学系科目を中心に、商取引に必要な法学系科目も履修できるカリキュラム。「商社・メーカー・銀行・保険会社・運送機関など実業界のさまざまな分野に進出できる能力の育成に努めています」
貿易・観光学科は、国際都市横浜に相応しい学科で、学問的アプローチと実際的教育とを調和させ、バラエティに富んだカリキュラムを編成。「国境を越えたビジネスにおいて貿易商社や商事会社や、観光事業分野に従事する有能な人材を育成しています」
経営情報学科は、経営・会計・情報処理に関する理論と技術を修得。「経営専門、会計専門、情報処理の三つの専門分野から専攻します。それぞれの専攻に応じて、企業の経営幹部、税理士、公認会計士、中小企業診断士、情報処理技術者等として、ビジネス社会の第一線で活躍を目指します」
きめ細かな少人数制。「小規模だからアットホームな雰囲気で学べます。今年から初年次教育の一部を変え、海外経験豊かな英語教員6名を採用し、7名の教員が1クラス40人の学生を担当、さまざまな相談にも乗り、活気が出てきました」
実学主義。教員には、実業の世界で活躍した方が多いのが特長。「流通業やホテル支配人経験者や、日銀の元支店長や文部大臣経験者もいます。実業の現場を知り、仕事に直結した知識を習得することができます」
実学主義、講義に反映
実学主義はさまざまな講義に反映。「中華街まちなかキャンパス」は、華僑の方々から中華街の歴史・文化を学ぶ。「中華街の過去・現在・未来を学びます。中華料理を食べ食文化を学び、中国舞踊を習うなどして中国を体感しています」
「野毛まちなかキャンパス」。野毛商店街は約500の店が集まる。商店街の経営者の成功談や苦労話など聞いて、「野毛オフィシャルガイドブック」をまとめた。「学生が企画から取材・編集まで手がけました。広報誌を一から作るという貴重な経験をしました」
また、群馬県北部の沼田市と連携協定を結んだ。「観光分野で幅広く連携を図り、沼田市の観光振興に寄与し、活力と賑わいのある沼田市の実現を目指すとともに、大学における観光教育・研究の更なる発展に資するのが目的です」
資格取得を強く支援
就職では、学生の資格取得を強力にバックアップする。「学生一人ひとりの進路目標を明確にし、その目標に近づくための資格取得について、対策講座を行うなどサポートしています。指定の資格を取得した学生には奨励奨学金給付など学習意欲を高める制度もあります」
充実の奨学金制度
奨学金制度は充実している。従来の奨学金制度に加え、今年度は高校時代に英検2級以上といった資格を取得した学生や、センター試験の成績上位者(合格者上位10%の入学者)を対象とした経済支援制度を導入した。
大学のこれから。「現在行っている改革は、2016年の開学50周年までに実現させたい。この開学50年を機会に、さらなる改革を行い、横浜商大を、もう一歩前に進めたい」。永続改革を力を込めて語った。
柴田は、神戸大学大学院経営学研究博士課程修了、横浜市大で教鞭をとり、専門は経営学。経営学者のピーター・ドラッカーを尊敬する。大好きなドラッカーの言葉がある「組織とは肉体でもなければ機械でもない。優れて人間的な存在であり、社会的な存在である」
このドラッカーの言葉が、大学改革に邁進する柴田の心の支えになっているのではないだろうか。柴田は、心の中で、こう言っているように受け止めた。「改革をすることで、大学という組織を、優れて人間的な存在、社会的な存在に持っていきたい」