Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
教育学術オンライン

平成25年10月 第2540号(10月16日)

消費税増税は教育機関に高負担招く
  永和監査法人会長  日本私立大学協会顧問
  齋藤 力夫


 政府は2013年のGDPの伸びを2.5%と想定し、国際社会におけて日本経済の存在感を高めることを目標にかかげた。しかしながら、わが国は1000兆円を超える世界最大の債務国であり、財政の健全化に至る道のりははるかに遠い。さらに2013年(平成25年度)の国家予算が100兆円を突破する。2007年(平成20年度)の歳出80兆円に比して20兆円が増える。この一因は前政権の票取りマニフェストの責任もある。アベノミクスでは、この最悪の経済を再建するため、デフレ脱出の策として、金融政策、企業の活力再生策等のほか、消費税の大幅増税に踏み切る決断をする予定である。消費税は1%アップで税収増額は、約2兆円との試算であるが、増税による消費の減速、税の転嫁不振が懸念され、当面、実質的には3%の増税による税収は5兆円超とも推定されている。平成27年度に5%増の10%に改正しても合計増税額は10兆円から15兆円程度であろう。
失われた15年
 その要因を遡ると、昭和60年から始まり平成元年をピークとする約15年以上にわたる金融政策の放置である。これは「失われた15年又は20年」といわれている。平成元年株式市場は熱気に燃え、ダウ平均は3万8000円を超え4万円になるとの声も聴かれた。同時に不動産価格も上昇を続け、年10%以上の値上がりとなり、金融機関はこのような物件を担保として無条件貸付競争に走った。
 政府、日銀、大蔵省(財務省)もこのような熱狂的インフレに対し、当初手をつけなかったことは事実である。その間における国の一般会計決算の税収経過をみると、昭和55年度の租税と印紙収入は26兆8000億円であったものが、平成2年度には60兆円まで高騰したが、平成12年度は50兆7000億円、平成21年度では36兆8000万円に急降下した。その間の歳出と国債発行額を検討したが、平成2年に至ってからも依然として国債発行に依存してきた。
 その間、株価と不動産価格は急速に下落し、株価は平成2年では3万5000円、さらに3万円と下降し、じりじりと下落、平成20年度前後では8000円台まで落ち込んだ。このデフレによる損失は、私見で推察すれば、200兆円を超える損失が経済低迷に拍車をかけた。まさに異常なバブル現象である「失われた15年」は、東アジア新興国に日本を抜く絶好の機会を与えた。特に中国、韓国、シンガポール、香港、台湾などは著しく発展し、一部の産業分野では日本企業を超える存在となった。
教育や生活などに配慮した軽減措置導入を求む
 平成26年、3%アップとなる消費税8%増税がほぼ内閣で合意する方向で決まりつつある。その具体的な軽減、法施行の内容は一切報道されていない。
 消費税は、欧州の付加価値税と同様に課税ベースが広く、消費に課される間接税として、@水平的公平性、A世代間公平性、B中立性、C税収の安定性というメリットがある反面、所得水準に対して逆進的税というデメリットがある。主としてOECD加盟国(経済協力開発機構)20ヵ国の税制は、アメリカのような小売税を課している国を除き、大部分の国では付加価値税であった。その後、日本、韓国が加盟し、現在30ヵ国がOECDに参加している。消費税は広義の付加価値税の一方式と言えよう。
 今回の平成26年4月の3%アップ、平成27年10月の2%アップによって、10%の消費税を予定しているが、国民生活に影響する食料品、水道光熱費、旅客輸送、新聞などについての軽減が示されていない。さらに、教育に係る費用、医療福祉に係る費用は特段の配慮が必要である。イギリスでは、水道光熱費、新聞、旅客輸送、医薬品などはゼロ税率とされているが、EC指令ではゼロ税率は好ましくないと述べている。
 EC統一指令では、標準税率15%以上、軽減税率は5%以上を指針としている。
 イギリスでは、標準税率17.5%であるが、家庭用の燃力と電力は5%としている。フランスでも、標準税率19.6%であるが食料品、水道、旅客輸送などは5%としている。カナダの税率は5%であるか、食料品、医療機器などはゼロ税率を維持している。
 EU諸国の付加価値税は、税の累積を排除するため、前段階の仕入税額控除(インボイス・すべての発注書、領収書等に本体と付加価値税を記載し、収入の税額から支払等の税額を控除する仕組み)方式を採用している。
 今回の消費税増税については、GDPの上昇からみて当然との意見を述べている学者や経済団体も多いが、学校法人や医療機関に及ぼす負担は多大である。カナダでは医療機関の医療機器に対しゼロ税率を課している。
 日本の学校法人は、私学に占める割合が他国に比して極めて高い。特に私立の大学、短大、専修学校、高校、幼稚園は、私学に依存している。アメリカのように公立学校の依存率が高い点から考えれば、わが国の私学依存率からみて、消費税の負担増は経営に多大な影響を与える。政府は他国の付加価値に比し、わが国の消費税率が低率過ぎるため財政再建の財源としたい意向であるが、現在、私学をはじめ250万企業のうち大部分が経営危機に直面している現状を直視してもらいたいと考える。
 今回の増税に当たって、少なくとも教育機関の施設設備支出及び経費については、軽減税率を適用するか、または補助金の増額などの措置を望む次第である。
  
 (注)平成25年、日本郵便では平成26年4月より郵便料金を手紙82円、はがき51円に値上げすると発表した。消費税導入に便乗ともいえるが、経営努力が必要。


Page Top