平成25年10月 第2538号(10月2日)
■改革の現場
ミドルのリーダーシップ <52>
目標・評価サイクルの徹底した継続で前進
金城学院大学
金城学院大学は、1889年に女性宣教師アニー・ランドルフによって設立された女子冀望(きぼう)館がその起源となる。1949年に金城学院大学を設置し、当初は英文学部1学部であったが、現在は文学部、生活環境学部、国際情報学部、人間科学部、薬学部を設置する女性総合大学である。改革の経緯について、成瀬正春副学長、青柳 裕教務部長・教授、吉村清明法人事務局長、戸田 保事務局次長、諏訪 徹大学事務部長に聞いた。
1997年に将来構想特別委員会を立ち上げ新学部設置の検討、1999年の学院設立110周年を機にした金城学院長期ビジョン設定委員会を経て、学院の理念を明確にして中長期計画を策定した。実はこのプロセスで同大学の現在の風土を生みだす興味深い試みが行われている。将来構想特別委員会がいわばトップ層で構成されていたのに対して、大学がどうあるべきかは教職員にも意見を述べる場を作りたいということで2007年に総合戦略協議会が設置された。不定期に開催され、役職者が正規メンバーではあるが、全教職員がオープンに参加でき、テーマは自由、誰でもアイデアを発言できる。逆に、執行部の方針を全学に伝える場でもある。
成瀬副学長は、「大学の最終意思決定機関は教授会ですが、新しい改革にあたっては、ある程度納得済みじゃないと改革は成功しないので、反対も含めて意見を言える場が必要です。これまでには、若手教員から新学部の提案があり、実際に採用された改革案もありました。大学の方針に単なる反対ではなく、きちんと準備をして対案という形で出てくるのは非常に良いことですし、「自分の意見が実現される」ということは、教職員のコミットメントやモチベーションの向上に繋がっています」と述べる。
その時のテーマにもよるが、参加者は毎回100名程度。この協議会をきっかけに全学の雰囲気は徐々に変わっていった。
この総合戦略協議会は学長室が主催し、議題の素案も学長室で作成される。「協議会で出された意見は学長室に持ち帰り検討されます。この学長室と協議会の往復により、大学の改革案が全学的にブラッシュアップされていきます。改革の実行段階では、作業部会が発足し、学長室で選定された教職員がメンバーとなります」と吉村事務局長は解説する。学長室自体は1993年の当時の学長が発案して設置されたもので、学長リーダーシップの補佐として諮問機関的な役割を担ってきた。
一方、法人にも理事長室があり、学長室と理事長室の連携がそのまま理事長=学長の情報共有を強めている。法人の中期計画は理事長室が作成し、2009年度〜2014年度が進行中で2012年に中間報告を出したばかりである。
同大学の評価文化は1992年就任の讃岐和家学長時代に取りいれられ、現在では自己評価、授業評価等が定着している。「重要なのは結果ではなく、評価結果を書くときの議論です。この議論により情報共有もなされるし、考え方が深化します。この目標と評価の仕組みを意図的に浸透させ、現在ではそれが定着しつつあります」と青柳教授は強調する。
「事業計画は定性的な目標ですが、学科には全て数値目標を出してもらいます。教育に数値目標は馴染まない、という考えもありますが、数値がないと計画を達成したかどうかの評価ができません。それに目標は、教員間の連帯感を生み、学科を一つにまとめます。ちょっと届きそうで届かないかなというくらいの数値を立てるとまとまっていく。重要なのは事前に話し合って議論を尽くすことです」と諏訪大学事務部長は続ける。
事務組織では、2002年に縦割りを排し情報共有と部局間連携を促進するため、「課」を廃止し、特に学生対応では、同じフロアでワンストップサービスを実現した。職員は各センターに配属されることになるが、部署内の異動は各部の長の責任で行う。「センターのトップは課長級が就任し、学生に対してシームレスな対応を行っています。各種委員会には職員も入っていますが、教職協働は10年以上前から行っています」と戸田事務局次長は述べる。
同大学は職員の動機付け術を心得ている。すなわち、一人一人の経営への参画。自分の意見が全学に反映される場があるということは、職員のモチベーションの活性化に効果的であることを示している。
連続した学部の新設で安定した評価を作る
桜美林大学教授/日本福祉大学学園参事 篠田道夫
金城学院大学は、創立以来、文学部や家政学部など伝統的な人間教育・教養教育が中心であった。2000年を前後する時期から急速に女性に適した専門職業分野に対応する実学教育、薬学部等の資格対応型学部への転換を進めた。この先見性ある改革が今日の安定した評価をつくり出す。
120周年となる2009年度からは金城学院中期計画(2009年〜2014年)を制定、金城学院大学の将来構想(2009年〜2014年)と併せ、教育の充実、経営の改善に計画的に取り組む。六か年計画の4年目にあたる昨年には中期計画の中間報告書も出し、到達状況を確認しながら、学院の中期計画と大学の将来構想一体で目標達成を目指す。
そして、大学の改革推進にはもう一つの強力なバックボーンがある。それは「伝統とはたえざる改革の連続でなくてはならない」という強い信念である。徹底した目標と評価を重視した運営を行う。
そのひとつが学科ごとの教育効果の数値目標制度である。学科は自らの教育目標にあった数値目標とその実現計画、対策を自己評価委員会に提出する。目標は学科が目指す分野への就職率とか資格取得学生数及び何%、国家試験合格者数及び何%、TOEIC何点以上何%などが多いが、学科の特徴にあった目標設定を工夫する。しかし目標はあくまでも数値にこだわる。それは数値でなければ評価が難しく、また数値化することで実践性が高まると見るからだ。PDCAは進化と成果向上に必須と位置付けている。
4月(一部の学科は6月)の自己評価委員会で前年の数値目標に対する達成度を評価、全国平均との比較、未達成の理由等を明らかにし、当該年度の目標を発表、目標達成に向けた学科としての具体的方策、そのための大学への要望を提示する。これによって学科目標の達成責任を明確にするとともに、自己評価委員会が客観性を担保し、評価と改善をつなぐ結節機能を果たす。
目標と評価は学科だけではない。もうひとつ、すべての役職者に対する活動目標、活動報告のシステムがある。学長を筆頭に、学部長、各部門長、委員会の責任者は、年度ごとに1枚の用紙に活動目標とそれを達成するための具体的な計画を書く。そして活動報告では、目標の項目ごとに1年間の取り組みと到達状況を総括、第三者の評価コメントを記載する。幹部自らが率先垂範評価されることで、評価風土を確実に定着化させてきた。
同学院の自己点検評価の歴史は古い。1994年〜2002年まで毎年自己評価報告書を刊行、目標設定と検証の地盤がある。短期・1年サイクルの学内各部署、役職者の活動評価、中期・3〜4年サイクルの学長任期4年、部長任期2年に対応しての自己評価、長期・7年サイクルでの認証評価というシステムを確立、これを自己点検評価の三つのサイクルと呼ぶ。体系的・継続的な評価システムである。
改革を推進するシステムも工夫されている。評価を重視する一方、構成員の意向を大切にし、積極的な意見は取り入れる。総合戦略協議会が置かれ、大学・教学改革の基本方針を議論する。恒常的委員の他に教職員はだれでも参加でき、多い時は100人を超える。大学の基本構想などはまずここで議論され大筋の合意を経て教授会や理事会に諮られる。実際に学部改革構想の提案がここでの議論で大幅に修正されたこともあり、こうした運営が構成員の信頼や協力につながっている。
一方、改革の提案は学長室が担っており、評価事務局を兼務していることから、実態を踏まえつつトップのリーダーシップも貫くことができる。学長室では改革のテーマごとに作業部会を作り、職員も参加することで教職一体での改革を実行する。また理事長のもとに理事長室会が機能し、採用計画や施設計画など財政に絡む案件は全てここで報告協議され、経営との実質的合議で連携した改革を図る。
事務局には課がない。2002年、縦割り業務を打破すべく課を廃止、部編成とした。総務、財務、学生支援、教育研究支援の四部構成だ。このうち学生支援部は学生の入学から卒業、就職まで包括的に支える最大の事務組織で、エンロールメントマネジメントの立場から学生支援を行う。こうした仕組みも教学充実を支える。
目標を掲げ評価を行い改善する、この着実な積み上げの上に、優れた教育実績を作り出している。