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平成25年9月 第2535号(9月4日)

ソーシャルメディアを活用した大学広報の実践 ―上―


聖学院大学  広報局長 山下研一

 LINE、TwitterやFacebookなど、ソーシャルメディアは大学生に限らず高校生にも普及し、大学広報戦略上、無視できないものになっていると言える。これらをうまく活用し、広報につなげているのが聖学院大学である。同大学大学広報部長の山下研一氏に取組内容、また大学を超えた展開事例を紹介してもらった。

 埼玉県にある入学定員800名以下の小規模大学の広報を担当して15年になる。広報から見た小規模大学の悩みは知名度が低いことと広報費が少ないことに尽きる。新聞の連合広告など出したいが、大きな大学と同じように出していてはすぐに予算がなくなってしまう。何とか小規模大学の募集広報を成功に導く方法はないかをスタッフとともに終業後ブレーンストーミングしながら考え続けた。インターネット広報という光明を見出すまでは苦闘の日々が続いた。
 他の大学と同じことをしていてもうまくいかない、限られたスペース、文字数の中でどのようにメッセージを伝えられるかを模索している中で見出したのが当時始まったばかりのインターネットを使った広報であった。これは小規模大学にとってまたとないチャンスに思えた。大学のホームページを作り、そこから情報を発信するという広報は、広告という手段に頼らずにダイレクトにメッセージを届けることができる可能性を示していた。そこでこのインターネット・WEBという新しい広報のチャンネルに積極的に取り組んでいくことにした。今回はそのインターネット大学広報、特にソーシャルメディア広報について本学の取り組みを報告する。
インターネットの歴史と大学広報
これまでのインターネット広報は大きく3期に分けて考えることができる。
 第1期はブラウザを搭載したWindows 95が発売された1995年からブロードバンドが普及する2002年くらいまで、インターネット広報の草創期にあたる。この時期に多くの大学の公式サイトが誕生している。まだ検索エンジン技術は発達しておらず、カテゴリ検索が中心だった。その他はバナー広告を出してサイトに誘導するという手法がとられていた。
 第2期は検索エンジンとしてのGoogleが登場し、インターネット上のあらゆる情報が収集され、インデックス化するということが進んだ。これはGoogle革命とも呼ばれ、生活に一気にインターネットの利用が入ってきた。一方、amazonのネット書籍販売(いまでは書籍以外のすべての商品を扱う)が成功し、ロングテールというこれまでにない商品の売れる仕組みが生まれたのもこの時期である。すなわちキーワード検索やレコメンドによってブランドでない商品も売れるという仕組みが出来上がった。キーワードによっては小さな大学もインターネット上では検索の上位にくるということであり、ここにインターネット大学広報の醍醐味がある。このことは詳しく紹介したいが、紙幅の関係で省く。
 またWEBといわれる技術革新で情報を発信するだけのホームページから、いろいろな情報を相互に受発信する仕組みを持ったマッシュアップサイトが登場するようになる。ブログ、Youtubeなどの初期のソーシャルメディアも登場した。
 第3期は世界的には2010年12月に起こったチュニジアの「アラブの春」、日本では2011年3月11日の東日本大震災で急速に広がったTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアの興隆の流れである。日常を140字でつぶやくという目的で作られたTwitterは短文で情報を瞬時に伝えることができるということでカリフォルニア州の山火事(2007年10月)でニュース報道を補完するものとして使われた。あとで使い方が発明されたようなもので、これが世界を変えるソーシャルメディアとなった。日本では震災時に緊急の情報の発信、共有に使われ、その後も手軽にすばやく情報を得る手段として使われている。またFacebookは震災後の「つながり」「共感」を求める機運から急速に広まった。Facebookの実名制というルールがネットの世界に実生活(リアル)の「信用」という考え方を持ち込み、現実世界との距離を縮めたのは特筆すべきことである。
 本学は最初に述べたように第一期から積極的にWEBに取り組み、その都度、新しいことにチャレンジしてきた。特にWEB期に「イソギンチャク型ネット戦略」と名づけて展開したWEB戦略は本学のホームページを見るとわかるのでぜひ見てもらいたい。
聖学院大学のソーシャルメディア広報の展開
 本学がソーシャルメディア広報に取り組むようになったのは、一つのきっかけがあった。広告代理店の本学担当が、ふと「ソーシャルメディアはビジネスにはなりませんよね」とつぶやいたのを受けてあるひらめきを得た。ビジネスにならないからこそ、本来の大学広報が展開できるのではないかと考えたのである。それから TwitterやFacebookなど第二世代のソーシャルメディアについて話を聞いたり本を読んだりしてみるとこれまでとは違うフェイズがネットで進行中であることがわかった。そこで、さっそく2011年の6月に「聖学院大学ソーシャルメディア広報宣言」をした。これは広報の軸を情報誌を含めたマスメディアからソーシャルメディアを軸にした広報に切り替えるというもの。宣言することで広報を担当する職員の意識を変えるという意図があった。それまでにすでに聖学院大学公式Facebookページと聖学院大学広報公式Twitterを運用していたが、その宣言をきっかけにガイドラインを決めて本格運用を始めた。
 具体的には「息をするように記事を書き、まばたきするように画像を撮る」ということを基本方針に学内で毎日行なわれている活動を会議録で事前に拾い、スマートフォンを片手にキャンパス内を駆け回った。ソーシャルメディアは「いいね!」や「コメント」「シェア」などで情報を受けた人からの反応が得られやすいという特長を持っている。本学のことがどのようにステークホルダーに届いているか今までわからなかったレスポンスを毎日感じられるようになって広報課は活気あるものになった。
 ステークホルダーと書いたが、実際にTwitterやFacebookで発信を始めてみてようやくステークホルダーということが実感できたというのが本音である。特に地域の中にある大学であること。卒業生たちが大学からの情報を取りにきていること。在学生からの声を広報のチャンネルでも受けることができること。高校の先生とは入試・進学というだけでないさまざまな接点があり、そのチャンネルがソーシャルメディアを通じて開かれること。その年の募集広報をいかに成功させるかという狭い戦略ではなく、中長期のビジョンに基づいたブレのない広報を展開することがキーになってくることがわかったきた。 (つづく)


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