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平成25年8月 第2534号(8月28日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <51>
 堅実な改革・拡充で安定した評価
 佛教大学


 佛教大学は、1868年に知恩院内に佛教講究の機関として設置されたことから始まり、1912年に高等学院を設置して開学、1949年、学制改革に伴い現在の大学名となった。現在では、大学院4研究科と仏教学部、歴史学部の特色のある学部、社会福祉学部、保健医療技術学部の実学的な学部、文学部、教育学部、社会学部等幅広い構成、そして大学院の全研究科と保健医療技術学部を除く6学部に通信教育課程を併設する総合大学である。大学改革について、高田忠明企画部長、高井喜成総務部長、山添恭寛総務課長、長谷川順子企画部秘書調査課長に話を聞いた。
 2012年に開学100周年を迎えた。それを機に、「『感謝』から始まる次の百年」をコンセプトに、2013年から10年間の将来ビジョンである「佛大Vision2022」を策定・公表。これまで文学部の学科であった仏教、歴史の領域を学部へと独立させるなど、教育組織の改革や、地域向けの講演会、キャンパス整備等の記念事業を行った。
 「今回策定した「佛大Vision2022」は、総合企画会議を中心として立案されました。同会議は学長を支える機関で、大学全体に関わる中長期計画や戦略課題に関する事項について企画立案を行います。必要に応じて学内からの意見を徴しながら同会議でまとめた原案を大学評議会で審議し、大学全体としての意思決定を行います」と長谷川課長は説明する。
 元々、学部の発言力が強かったが、度重なる改革の中で、学長の下に組織される専門委員会に大学改革の推進力を集約させた。例えば、「質保証検討委員会」の下で、三つのポリシーの方針や枠組みを検討し、各学部教授会にはその中身を確定してもらう形で投げかける。返ってきたものを、更に委員会で検討する、という流れになる。しかしながら、委員会の数が増え、組織的に意思決定が難しくなってきたため、2年ほどの準備期間をおき事務機構の改編を行った。
 これまで学生部・教務部・通信教育部のトップは教員だったが、組織を機能で見た場合の「機構」の機構長は教員、それを支える事務組織は「部」とし、部長は職員が就任することで、役割を分けた。この機構は大きく分けて五つ。入学、学生支援、教育推進、研究推進、生涯学習である。
 特に、学生支援、教育推進、研究推進については、「7学部全ての教務事務を扱う教学部としては膨大になり過ぎた教育・学生支援を整理し、学生にとってワンストップとなるような再編成の狙いもありました。学生生活、教務、就職と、学生の入り口から出口までを扱うエンロールマネジメントを意識しています。これらは、学生支援を学部ごとではなく、全学で一つの部で行ってきたことが生きているといえます。例えば、各学部に教務部を置いていたら、一元化には時間がかかっていたと思います」と高田部長は語る。
 浄土宗から大学に指示があることはないが、学長は浄土宗教師から選出されるため、建学の精神から外れた経営が行われることはない。学部自治は強い方であるが、学長の方針に対して強く反対することはない。「昭和の時代は新しい学部をたくさん作って、平成の時代になって、各学部の上に大学院専攻を作り、現在はそれぞれ改組を含めて検討を行っています」と山添課長は言う。
 同大学で特徴的な教育は、通信教育課程であろう。1953年に始まった通信教育は関西でも初めての試みだった。およそ15年前の最盛期には3万7000人、現在は1万3000人の在籍生がいる。「通信教育は全国的な知名度、そして財政的にも本学の名前を高めました。帰属収入の3分の1は通信教育部課程の学生納付金でした。ただ、通信教育にも時代ごとに流れがあって、30年前は教育で、その後は福祉、そして現在は再び教育に学生が集まり、また西日本の学生が多くなっています。現在は、大学進学率自体が上がっているので、すでに学士号を持っており、社会人となって学士号を取ろうとする人は減少しています。逆に、1度取ったのに2度、3度とリピーターになる方もいて、そういう方をいかに掘り起こしていくかが課題です」と高井部長は語る。
 伝統があり、後述の通り法人合併により規模が大きくなった大学をいかにマネジメントするか。佛教大学は、その改革力を学長の下に集約することで実現しようとしているように見える。

学部新設、教育改善、組織・機構改革に持続的に取り組む
桜美林大学教授/日本福祉大学学園参事 篠田道夫

 佛教大学は長い伝統を持つ。江戸時代、浄土宗の僧侶養成機関に起源をもち、佛教専門学校設立から100年が経つ。1949年、仏教学部仏教学科、定員80人の単科大学からスタート、その後、文学部、社会学部、教育学部と着実に増設を重ねた。2004年に社会福祉学部、2006年保健医療技術学部、2010年には歴史学部を設置するなど2000年に入ってからの増設テンポは早く、現在7学部を持ち、通信を含め学生数2万人を超す総合大学に成長した。強い校風を保持し、あまり流行にとらわれない本格的な学部構成で安定した佛大ブランドを構築、厳しい競争の中でも志願者を確実に増やし、今や2万人を超える。
 また、2002年には学校法人華頂学園、2009年には学校法人東山学園と法人合併、法人規模を拡大した。同一宗門による総合学園づくりの側面とともに、小規模経営が持つ問題点を合併で乗り越えていく狙いがある。
 教育改革にもまた着実に取り組む。2007年、GPを獲得した「縁コミュニティ」離脱者ゼロ計画は大きな効果を発揮し、中退率は2.1%〜2.2%で推移する。学修支援室による徹底した個別支援、インターネット上のコミュニケーション、セーフティネットの構築やコミュニティの形成、特に低単位取得学生の把握と対策を重視する。
 2001年には教学改革推進本部を設置、全国でも珍しい教授法開発室を置き授業改善に着手した。2004年にはカリキュラムの抜本改革に取り組み@導入教育、キャリア教育の重視、A動機付けと学生のやる気を引き出す仕組みの創出、B演習・フィールドワークなど少人数、参加型教育の強化、Cカリキュラム、卒業単位の大綱化、Dテーマ別学習プログラムなど学部の垣根を低くする教育課程の構築などに取り組んできた。2011年からはキャップ制の導入、キャリア科目を全学共通の正課科目とした。学生ポータルサイト・サンサーラWebも2011年に導入。学生情報の一元化、情報を必要とする学生だけに伝達できるシステムで、電子申請機能、就職情報・支援機能、履修登録機能などを持つ。
 60年の歴史を持つ通信教育課程は日本の通信教育の草分けであり、一時は3万7000人まで拡大、現在は通信教育を取り巻く環境の激変から入学者は減少したが、社会人教育・佛教大学の名を全国に知らしめ、大学経営、財政強化の牽引力の役割を果たした。
 2012年からは、学長直属の諮問機関で2年間の検討を経て教育機構、事務機構、並びに委員会制度の抜本改革が行われた。多数の委員会を入学、学生支援、教育推進、研究推進、生涯学習の五機構体制に再編・統合し、それに合わせ事務部体制も整備強化した。例えば、学生支援機構は学生部、教学部、キャリア支援部を統合、入学から卒業までの学習、学生生活、キャリア形成、資格取得を総合的に支援するエンロールメントマネジメントを目指す。
 こうした全学運営重視の機構改革の背景にはこれまでの大学運営体制がある。学部教授会は最高意思決定機関で、大学全体の重要事項を審議する大学評議会はあるが、教授会が大学評議会の議決に理由を付して異議を申し立てた場合は再審議可能というシステムがあるなど、学部自治を軸とした運営を行ってきた。学部と全学を繋ぐのは専門委員会で、ここが全学調整機能を果たし、教学と事務一体運営の中心であった。しかし、委員会数が増え運営が複雑化し、迅速な意思決定が難しくなったことから今回の五機構への改革となる。また学長には浄土宗教師資格が必要で、建学の精神を体するとともに、トップリーダーとしての高度なマネジメント力が求められる。今回の改革で学長のリーダーシップの強化、権限の見直し、補佐体制やスタッフ機能の強化にも取り組む。また伝統的に教学と事務は独立した運営で教授会の議事録も教員が作成する。この改革で教員機構長と職員部長を組織的につなぎ、より一層の教職共同による改革の前進を図る。
 佛教大学は、開学100周年を契機に「佛大Vision2022」を初めて作成した。ただ、その実現のための中長期計画、アクションプランはこれからだ。理想の実現へ、計画的な取り組みや財政計画との接合を目指す。強い伝統、変わらぬ理想のもと堅実な改革を積み上げ、安定した評価を保持し続けている。


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