平成25年8月 第2533号(8月21日)
■主催/私大団体連・私短協
東日本大震災 被災地支援シンポ2013開催
「東北被災大学の取組みと地域貢献」
いわて高等教育コンソーシアム
(岩手大・岩手県立大・岩手医科大・富士大・盛岡大など)
国公私を超えて共催
日本私立大学団体連合会・日本私立短期大学協会は、国立大学法人岩手大学を始めとする「いわて高等教育コンソーシアム」と共催して、去る8月7日、岩手県盛岡市の岩手大学テクノホールを会場に、『東日本大震災を超えて:大学のなすべきこと、できること〜教育の復興なくして地域の復興と国の再生なし〜』をテーマに、東日本大震災の被災地におけるシンポジウム2013を開催した。猛暑の中、岩手県下の国公私立大学・短期大学を始め、全国から約200名の関係者が参集し、被災大学等のこれまでの取組みに耳を傾けて情報を共有し、今後の支援の在り方を協議した。
この度のシンポジウムは、震災発生時の平成23年の宮城県仙台市、翌年の福島県郡山市に続く3年目となり、宮城県、福島県、岩手県の被災3県における学生支援、大学支援を“風化させない”ことを目的に開催され、国公私立大学が共催して地域の復興に取り組んだことに大きな意義が感じられた。
開会の挨拶で大沼 淳氏(私大団体連副会長・文化学園大学理事長・学長)は、「被災地支援のシンポジウムは3年目を迎え、この度は国公私立大学が一堂に会して開催できることは大変有意義であり、今後の取組みへの示唆を与えてくれるものと期待している」と述べた。
次に、主催者を代表して清家 篤氏(私大団体連会長、慶應義塾長)が挨拶に立ち、震災で亡くなられた多くの方に哀悼の意を表するとともに、「各大学等が設置者の壁を超えて、情報共有し、連携・協力して地域振興・地域再生に貢献できるように願っている」などと語った。また、公務多忙にも拘らず出席の来賓の小松親次郎文科省高等教育局私学部長、達増拓也岩手県知事、谷藤裕明盛岡市長の3人に感謝の言葉を述べた。
来賓挨拶(文科省小松私学部長、達増県知事、谷藤市長)
引き続く来賓挨拶ではまず、小松氏が「今日までの様々な努力はもとより、地域の拠点としてのご努力に感謝します。震災から約2年半経過したが、道のりは未だ途上にあり、今後とも地道な取組みが待たれる。原発問題も含めて、文科省としても総合的な見地から施策等に取り組んでいきたい。この度のシンポジウムでは未来に向けて多くの示唆が得られることでしょう」と期待を込めた。
次に、達増岩手県知事は「震災発生以来、国の復興会議をはじめ、全国からの学生ボランティア等多大なご尽力に感謝している。いわて高等教育コンソーシアムには、それぞれの知見や特長を活かして復興に向けた調査研究も続けられている。本年は“復興加速年”と位置づけ、復興の先にある世界に誇れる新しい街づくりを目指したい。そのためにも、全国の多くの高等教育関係者の知見や若者の活力等が何よりも必要であると感じている」と挨拶した。
最後に、谷藤盛岡市長が「岩手県では、沿岸各地の津波被害等が甚大であり、現在も未だ盛岡市内に約1500名の被災者がいる。国・県・市等が連携して、各支援団体とともに被災者に寄り添いながら支援している。また、県内5大学のコンソーシアムが地域の中核を担う人材育成事業に取り組まれていることは、本当に心強く思っている」などと、この度のシンポジウムへの期待とともに歓迎の言葉を述べた。
基調講演(岩手大藤井学長)
「震災地岩手からの発信―いわて高等教育コンソーシアムの取組み」と題して、藤井克己岩手大学学長が基調講演を行い、岩手大学の取組みや県内の状況、いわて高等教育コンソーシアムの取組みなどを詳細に解説した。
▽震災直後の岩手大学の主な出来事=〈3月〉人的被害(犠牲者1名、被災学生377名、被災教職員14名など)、一般入試後期日程中止、卒業式中止、調査団による沿岸被災地の調査、〈4月〉震災復興対策本部設置、学生ボランティア開始、入学式中止、〈5月〉前期授業開始、「岩手県沿岸復興プロジェクト」開始など。
▽岩手県の状況=被災地の大学進学率の低さ、農林漁業就業者の増加などを示し、今後の若年層の動きに不安を示した。
▽いわて高等教育コンソーシアムの取組@=5大学の学長連名による、被災地高校生が大学進学を断念しないこととともに、被災地の復興を担うことを期して、『学長宣言』(平成23年6月15日)を発表。
取組A=地域を担う中核的人材育成事業(「いわて学」の展開、「新規科目」の開講(ボランティアとリーダーシップ)、「危機管理と復興」(全国からボランティア講師))
取組B=大学進学事業として学習支援交流プロジェクトの実施
そのほか、震災復興支援プロジェクトの各種事業活動を紹介した。
講演資料の最終ページには、岩手の自然を愛した詩人の宮澤賢治の写真等とともに、岩手大学は「いわての“大地”と“ひと”と共に」のスローガンを掲げ、岩手の復興と再生のためにオール岩大パワーで邁進しますと宣言している。
被災大学の取組と地域貢献
休憩の後、「東北被災大学におけるこの二年の取組みと地域貢献〜被災学生支援、被災大学支援を風化させないために」をテーマとするシンポジウムが行われた。
コーディネータは佐藤弘毅氏(日本私立短期大学協会会長、目白大学・短期大学部学長)が務め、シンポジストには、中村慶久岩手県立大学学長、眞瀬智彦岩手医科大学災害医学講座教授、藤原隆男富士大学学長、徳田 元盛岡大学学長、藤田成隆八戸工業大学学長の5氏が登壇した。
始めに、各シンポジストからこれまでの取組みについて報告があった。
【中村岩手県立大学長】
各学部の特長を活かした支援活動のほか、地域政策研究センターの活動、学生によるボランティアを中心とした地域コミュニティ復興支援(いわてGINGA―NETプロジェクト)の活動などを紹介した。
【眞瀬岩手医科大教授】
附属病院を持つ唯一の医療機関として震災発生直後から、県民の命を救うことに取り組んできた。特に津波による医療活動が中心であった。沿岸の病院の支援、沿岸の患者の内陸への搬送、避難所での医療活動などであった。岩手県の広さは四国より大きく、沿岸から盛岡市まで車で2時間半もかかるので、救急ヘリによる搬送活動が重要となった。元々医師不足であり、今後とも解決しなければならない課題であると強調した。
【藤原富士大学長】
被災学生支援としての学費免除等の経済的支援など、ボランティア活動や教育・調査研究活動等の地域貢献、国際交流としての留学生への支援活動を語った。
【徳田盛岡大学長】
被災地図書館支援プロジェクトを立ち上げ、図書館の資料修復(脱塩・水洗作業)や文化財の保護・修復支援を行っていることを紹介。
【藤田八戸工業大学長】
同大学の東日本大震災に対する基本方針(@学生が受ける教育の機会をできうる限り確保する、A地域の未曾有の災害に対して、本学の有する英知を結集し復旧・復興に努める、B本学のすべての教員、職員および学生は、所属部局に留まることなく、これを超えて連携を図り、All Universityの体制でこの困難に立ち向かう)を掲げたことを紹介。そのほか同年4月の防災技術社会システム研究センター設立とその後の支援活動の詳細を報告した。
これら5氏の報告の後、コーディネータの佐藤氏は「5大学から、それぞれに興味深く多様な活動の様子を伺った」とした上で、各大学に対して全国からのボランティアの受入れ、広域災害時の医療体制、留学生対応、防災・減災教育などについて、更に詳細な説明を求めるなど質疑を行うとともに、フロアとの質疑応答もあった。
「設置形態の如何に拘らず、それぞれの大学の知の資産を活かし、他の機関では気づかないような取組みもあった。災害にどう対処するかのヒントや勇気があった。多くの事例を共有したい」と締めくくった。
大会宣言
最後に、別掲の『大会宣言』を納谷廣美氏(私大団体連副会長、明治大学学事顧問)が読み上げて、満場の拍手で採択され、大沼氏の閉会の挨拶で全日程を終了した。