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平成25年8月 第2533号(8月21日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <50>
 IRと結合したEMで学生支援を進化
 京都光華女子大学


 1939年に東本願寺系の宗門校として光華高等女学校を創設、1964年に光華女子大学を設置した。現在はキャリア形成学部、健康科学部、人文学部を有し、いわゆるお嬢様大学から実学系への転換を目指した。全国でも珍しいエンロールメント・インスティテューショナルリサーチ部(EM・IR部)が学長の下に置かれ、主に教学政策の司令塔として機能している。山本嘉一郎副学長・EM・IR部長、阿部恵木学園事務局長、宇野哲司修学グループマネージャー、吉田咲子准教授に話を聞いた。
 元々、学部自治の強い大学だった。2010年に学部教授会の上に理事長、学長、学部長等が参加する大学運営会議を置き、トップダウン運営へと舵を切った。しかしトップからの改革案は十分には理解・納得されず、現場は様子見、改革に向けて自ら動くことはなかった。
 この反省から、2014年度に行う学部学科の新増設・改組や学生・教員・学科支援体制の見直しでは、各学科会議に何度も足を運んで説明し、担当者レベルから意見を募り改革の中身を練り上げていった。「施策を考える部局と実際に動かす部局を一致させる必要がありました。議論の仕方とメンバーを変え、管理職以外を多く入れました」と阿部事務局長は振り返る。
 こうした動きと並行して、学長の統括機関「EM・IR部」が設置される。EMは、大学のユニバーサル化を背景に2007年度から学生生活の総合的支援に取り組んでいた「EM推進センター」等の動きが発展したもの。
 IRについては、「受験生の減少を目の当たりにし原因分析を進めた結果、「教育をしている」ことと教育成果が連動していないことが分かりました。そこで学生に学習をさせる、能力を身に付けさせる、それを検証する仕組みについて議論しました。その結果生まれたのがIRです」と山本副学長は説明する。入学前調査や成績等在学時調査のデータ、面談記録、就職活動状況などの学生情報を「学生支援情報システム(光華navi)」で一元管理し、学生支援策の検討に加え、広報募集戦略にも活用し、入試から卒業後までの取り組みの情報を統合し検討する、各部局の司令塔だ。組織図的には学長直属の機関で、学長・副学長・学部長・事務局が関わる。
 各部局に「全学的なEMをいつも意識して」と伝えても、日常業務に埋もれ、結局縦割りになる。従って、EM・IR部がそれぞれの情報を統合、全学的な方針を策定し、学内の部局・学科に実施事項を依頼する形にした。全体の調整、成果の検証などPDCAサイクルの責任を受け持ち、年度の最後には報告して次年度に繋げる。会議は月に2回。「退学率の問題など、課題をどう解決していくかの議論を行います。活動状況の共有は膨大になるので、そのような情報共有は別な時間を取ります」と山本副学長。
 EM・IR部の発案となって推進されている取組の一つが学生支援である。例えば、課外活動を推進する「学Booo(マナブー)」は、NPOの立ち上げ、異文化研究など、学生が興味や関心のあるテーマを選択して学ぶ、自由参加型の学習グループである。社会人基礎力育成グランプリの全国大会にも出場した学内カフェの企画・運営プロジェクト等もある。更に、学生の自治会、部活動、学園祭運営等、様々な学生の活動に対して、大学側からの支援体制を一本化しピアサポートとして位置づけた。
 こうした全学的な方針は、2014年度に設置する学習空間「コモンズルーム」にも表れている。「学生の学習スタイルの多様化や学内での学習時間を質・量ともに向上させる取り組みとして各学科に大部屋を作り、そこを学生が学習できるコモンズルームとします。教員の研究室はここを通って通じる小部屋になっていて、学生はいつでも相談することができます」とプロジェクトリーダーの宇野修学グループマネージャー。また、図書館、キャリアセンターにも同じくコモンズルームがある。さらに学部学科を横断して基礎学力の向上やレポートの書き方、キャンパスライフのさまざまな悩みを支援する学習ステーションを設置するなど学生の学内滞在率を伸ばし、その成果を数値化して検証していく。
 最近ではアクティブラーニングを重視。積極的な教員を集めて研究会を開催している。職員の能力開発は「35歳以下の職員を集めて、新風会という参加自由な組織を立ち上げ、様々なテーマで議論する機会を作りました。グループ毎に研究テーマをまとめ、理事長・学長の前で提案する発表会も行っています。単なる研修ではなく、実際の改善提案とも連結しています」と会の発案者でもある宇野修学グループマネージャーは説明する。
 EMもIRも最近注目されているキーワードであるが、実践的に学内に組み込まれている大学はまだまだ少ない。方針や全体の構造をデザインする副学長と、それらを運用して学内の司令塔として機能させる事務局の連携が取れて始めて機能していると言える。

徹底した学生実態分析で、満足度向上、学部改革を推進
桜美林大学教授/日本福祉大学学園参与 篠田道夫

 2007年から始まった京都光華エンロールメントは、年々進化している。その特性はまず総合性である。高校生への進路相談、入学前教育に始まり入学後の履修指導や初年次教育、教育支援、生活支援、就学困難者支援、そしてキャリア支援、卒業後は転職、子育て支援と続く。
 このシステムの優れている点は、大学の単なる1部門の取り組みではなく、学長直轄のEM・IR会議(EM・IR部)が教学執行機関である大学運営会議と一体となり方針を全学提起、学生サポートセンター、高大連携室、キャリアセンター、国際交流センターはもとより、全学の専門委員会や学科まで動かし、各部門の責任者で構成するEM・IR推進連絡会で進行状況を掌握する全学推進、一元管理体制を作り上げている点だ。
 それらは独自のサブシステムに支えられている。例えば、特別な支援を必要とする学生へのトラッキングサポート。欠席状況等から要支援学生を判断、心理、福祉の専門教員に保健室、学生相談室の専門職員で構成する常設支援チームがクラスアドバイザーとともにサポートチームを作り迅速に問題解決、支援に当たる。
 ピア・ひろばでは学生がピアイベントを企画、交流の活性化、共同学習を進める。
 光華ライフアルバムは、学生の学習意識、意欲、関心、大学適応度、性格特性、学習・生活サイクル、キャリア形成などの項目を5段階で調査する。学生自身は平均と比較し学生生活を見直す材料に、また1年〜4年の成長度合いを測ることで自身の成長を実感できる。大学はそれを関係部署にフィードバック、出席率と成績の相関など統計的分析を加え支援に活用する。
 さらに優れているのは、EM・IR部の呼称の通り、データ、学生実態に基づきEM政策を企画・推進している点にある。EMを効果的に進めるためには、学生個々の詳細な状況把握、継続的で総合的な情報と分析がいる。学生ポータルサイト・光華naviには満足度調査、授業評価、出席状況、学力テストの得点、成績、面談記録、経済状況、基礎学力診断、就職希望調査、就職適性診断、卒業時満足度調査など学生の全データが集約されている。光華ライフアルバムのデータもクロスさせ、またベネッセなどが行う他大学も含む調査で自大学をベンチマークする。こうした体系的アセスメントを通じて、待つのではなく能動的に手を差し伸べる支援を構築する。
 しかもこのIRは、カリキュラムや授業内容・方法の改革、教育力向上策やFD、退学防止策、さらには学生募集・広報戦略や学部再編のデータにまで活用される。いわば全学改革の発信源だ。
 同大学は、2008年から連続的に学部改組、新設に取り組んできた。これまでの教養系の学部構成で志願者の減少や定員割れが進行してきた背景がある。文学部を廃止し現在は人文、キャリア形成、健康科学の3学部構成。今後、人気のある健康科学部を軸に領域拡大していく方向だ。この改組とEMの努力で志願者は徐々に回復、中退者も減少しつつある。
 この改革のバックボーンには、創立70周年(2005年)にKRS70(光華リバイバルスキーム)で提起した@特色ある教育A学生満足度向上B改革推進組織構築C健全経営の4本柱や80周年に向けた光華ビジョン2020の施策があり、その実現の要としてEMが位置付けられ成長してきた。
 EMには教職員の力が不可欠である。担当教員は学生の授業評価を基に、授業改善策、学生の要望への対応策にまとめ、リフレクションペーパーとして光華naviで公開、持続的な授業改善に取り組む。学生も自分の意見に基づく改善の実感が得られ、学びを促す効果を持つ。教員評価制度も資質向上につながるよう大幅な改善を行った。
 職員もきめ細かい面談を軸とする評価制度があるが、特に若手職員がチームでテーマを決め先進大学を調査、改革案をまとめプレゼンする研修を重視する。体験的学習と理事長、学長の前での発表で自信と企画力を高める。
 大学運営は学部教授会が中心だったが、全学一体改革が求められるにつれ大学運営会議を軸にした機動的な運営に変えてきた。理事長も出席する実質上の経営・教学一体改革の組織である。しかし、トップ機構の権限強化だけでなく一般教職員も巻き込みボトムアップを重視する。EMの遂行には政策・方針の共有、浸透が最も大切だからだ。
 IRをEMと本格的、組織的に結合させ、実効性ある学生支援、学部改革を進めている。


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