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平成25年8月 第2532号(8月7日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <49>
 時代の最先端行く学部構成
 東京工科大学


 学校法人片柳学園は、1947年に創美学園として開校し、その後テレビ技術者養成など常に時代の一歩先を読み、改革に改革を重ね、後に当時日本初のコンピュータ教育を導入するなど、これまでに有能な技術者を多数輩出してきた。東京工科大学は1986年に工学部の単科大学として開校。その後、日本初のメディア学部をはじめ、応用生物学部、コンピュータサイエンス学部、デザイン学部、医療保健学部と、色彩豊かな学部を設置するまでに発展した。大学改革について、軽部征夫学長、大野澄雄教務部長・学長補佐、豊嶋信一学務課総轄課長、三好公秀学長室長に聞いた。
 Only one, Best care。大学が掲げる行動規範である。Only oneは、他大学ではない独創的な教育を行うことで、例えば、医療保健学部を除く4学部では1学部1学科のコース制を敷き、学生は在学中に自由にコースの「乗り換え」(オ欄シ学後、専門性を深める際に自由にコースの選択)ができる。Bestcareは学生の入学・就学(オ頼w修)・生活・就職などあらゆる面で、学生が満足するきめ細かい指導を行う、教職員の使命を示している。
 2005年前後の受験生減少を背景に、相磯秀夫学長(当時)の下に、軽部副学長(当時)ほか、教職員で構成される企画推進本部の設置を片柳 鴻理事長に提案した。片柳理事長も、過去に専門学校の入学者が落ち込んだ時に企画推進本部を設置し、自ら陣頭指揮を執って入学者の回復に成功した経験があることからこれを快諾。その後同本部が大学改革の司令塔となり、危機感を共有する方策を立案してきた。例えば、理念とミッションの再定義が行われ、「理念とミッション」「基礎教育の指針」という冊子にまとめられた。更に、新学部の設置や、入試課、キャリアサポートセンター、教務課の協力のもと、エンロールマネジメント体制を構築。毎月のようにプロジェクトチームが立ち上がり、各学部の改革の足並みをそろえた。
 これらの取り組みが徐々に教員にも浸透しはじめ、意識も変わってきた。現在は企画推進本部から学長室に名称を変え活動を続けている。「各プロジェクトには若手教職員も多数参画します。限られた人数で業務を遂行しますので、若手がプロジェクトの中心的立場を担うこともめずらしくありません」と三好室長は述べる。
 片柳理事長の大学への意向は、大学運営会議で伝えられる。これは、理事長、学長、各学部長が参加する会議で、新学部設置、財政に関することなど大きな方針が共有される。これを経て、評議会、学部教授会へと降りていくが、別に、月に一度、全教職員を集め、FD・SDの一環として行われる「全学教職員会」でも、理事長・学長の方針が伝えられる。「これまで大学運営に関して無関心だった教職員が、徐々に興味を持つようになってきたと思います。この体制こそが改革のスピードを上げる重要ポイントだと思います」と大野学長補佐は振り返る。
 各学部は教授会とは別に「アゴラ」と呼ばれる、学部理念、カリキュラム、教育研究等を討議する会議を開いている。正式に発言が議事録に残る教授会とは違い、教授から助教まで忌憚のない意見交換ができるため、ここで学部の運営について議論がなされ、教授会に参加しない教職員のコンセンサスが取れる効率的なシステムとなっている。
 さらに、教員は授業点検を2年に1度のペースで受けなければならず、評価が著しく低い場合は再度評価を受け、それでも改善が認められない場合は、授業や学生指導を一定期間休止し、授業方法の改善に専念しなければならない。逆に大学に多大なる貢献をした教員には奨励制度を設けている。
 「元々変化の激しい専門学校から発展してきましたから、職員の中にも改革マインドが根付いています。教職員の区別もなく、意見がどんどん上がってくる雰囲気があります」と豊嶋課長。改革という渦の中で教職員がスクラムを組んで行かなければならないという教職協働の機運が高まっている。
 最近、特に力を入れているのが教養教育。@国際的な教養、Aクリティカルシンキング、B創造性を身に付ける、の3点を身に付けることを「国際教養スタンダード」と定義した。「国際的に活躍する基礎を身に付けさせることを主眼に、各学部の一般教養系教員を集約した「教養学環」を新設し、学部同様の組織にしました」と大野学長補佐は説明する。
 同大学は軽部学長のリーダーシップと、その下の教職員が絶妙なマネジメント体制を構築していると言える。

教職員の改革マインドを育成し、オンリーワン・ベストケアを推進
桜美林大学教授/日本福祉大学学園参与 篠田道夫

 東京工科大学は1986年開学。当初は工学部のみだったが、1999年メディア学部を新設、2003年には工学部を改組しバイオニクス学部、コンピュータサイエンス学部の2学部を立ち上げた。2008年バイオニクス学部を応用生物学部に変更、2010年には蒲田キャンパスにデザイン学部と医療保健学部を設置した。自己評価報告書では「矢継ぎ早に21世紀型の新しい学部を設置、多くの受験生を集め偏差値が向上、改革を成功裏に推進した」とする。時代の要請に対応する学部改革により、先端技術に精通した人材の育成を目指す。
 連続した改革推進の原動力としてまず上げられるのは三つの理念の実行、@実社会に役立つ教育A先端研究による教育B理想的な環境整備。軽部学長はこれを実学主義教育と定義、国際性、批判的思考、創造性の育成を強調する。実社会で役立つ学問で実践力ある人材を養成し抜群の就職率で社会に送り出だす。驚くほど充実した校舎、優れたデザインのキャンパス、バイオナノテクセンターなど世界最先端の設備が整い、企業等も利用している。
 理念を確実に実践すべく、行動規範Only One, Best Care(全ての学生が満足する万全のサービスを提供する)を掲げ、その実践を多彩に展開する。
 2012年より「教養学環」と呼ぶ東京工科大学教養スタンダード、学士力教育を学部横断で展開、独立した教授会をもつ組織を作り基礎教育全体を統括する。それを支える学修支援センターも基礎からハイレベルな知識、プログラミングまで教員常駐で支援する。5学部全てでICTスキル教育を基礎から専門まで徹底的に行い、ノートPCサポートセンターが一人ひとりをサポートする。
 ベストケアの面では、アドバイザー制度が強力に機能し、担当教員が学習と進路の両面から支援する。教員の約半数が企業の出身で、即戦力となる先端的教育と共に人間形成教育にも効果を発揮する。経歴豊富、人脈多彩で企業に精通、就職に大きな力を発揮する。就職は教員の責任という考えが徹底、研究室ごとに内定率を公表、低いところは担当教員が学部長面談などで対策を練る。
 事務局にはキャリアサポートセンターがあり、就業力診断カルテに基づく客観的評価を基礎に就職トレーニングプログラムを実施、毎年300〜400社を学内に招待するなど充実したサポートで、リーマンショック以降も内定率90%以上の実績を誇る。
 授業評価も厳しい。学部長を含む5人前後の委員が授業点検シートに基づき授業を見学・採点、点数化し公表し、講評会で意見交換する。また、教授法の研究会や教育力強化委員会などを通じて授業改善に恒常的に取り組む。授業点検は三つの基準、@教員の教授法A授業内容・構成B学生への姿勢を基に4段階で判定、点数化する。
 改革全体の推進には92歳、カリスマ性の強い片柳 鴻理事長と千葉茂副理事長が強い指導力を発揮し、理事長会議を軸に指揮を執るが、こと大学改革については軽部学長に全面的に任せている。
 当初の大学改革は1992年設置の自己点検評価委員会から始まった。点検評価の徹底のため2000年大学改革委員会を設置、工学部の発展改組、2学部設置の企画推進に重要な役割を果たした。この委員会は、新学部の基本理念、中長期ビジョン、カリキュラム、教員配置・採用、さらには改革後の教育方針、教育方法など中身の改善・充実にも寄与した。それが、志願者減少を受け2006年理事長、学長直轄で設置された企画推進本部に引き継がれ、今日の、学長の下に置かれた学長室や企画推進会議となり、連続した改革推進のエンジンとなっている。
 学長提示のマクロビジョンに従い、全教職員の深い理解のもとで連続改革を実行、現在も改革路線を踏襲し、『改革なくして大学の発展なし』の強い教職員マインドを作り上げた。全教職員の一体的推進の背景には、教職員全員参加の全学教職員会を毎月開き、学長や幹部から毎回、基本理念やミッション、改革方針を説明、周知・浸透させる取り組みがある。教授会でも正規の会議と並行し、アゴラと呼ばれる自由な意見を述べ合う会合を毎月行い共通認識の形成を図っている。
 事務局も経営方針、大学改革方針を受け、年度の目標を各課で定め、重点方針を法人本部に提出、目標達成に向けて組織的な取組みを行っている。教職員が積極的に提案する気質が、この大学の改革を支えている。


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