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教育学術オンライン

平成25年6月 第2527号(6月19日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <46>
 教育工学を駆使した先進的教育
 北海道情報大学


 北海道情報大学は、1989年に「情報化社会の新しい大学と学問の創造」を建学の理念として開学し、1991年、日本初の通信衛星を用いた遠隔教育PINE―NETを導入。産業界のニーズに的確に応えながら、経営情報学部、医療情報学部、情報メディア学部、細分化された25コースの中できめ細かい教育が行われる。就職率90%以上を維持するなど、まさに情報分野の「小さな巨人」。同大学の経営戦略を中居聰士常務理事、近藤 始理事・事務局長、川口修一副事務局長に話を聞いた。
 創設者松尾三郎博士は電波の専門家として、逓信省、民間放送局開局、東京タワーの建築等にも携わった。その後コンピュータに携わる人材育成も重要との観点から、全国10か所に専門学校を設置。その後、江別市から誘致を受けて大学を設置した。現在は、二つの株式会社、大学、専門学校、情報技術の研究所と、産・学・研を持つグループとしてシナジー効果を狙った協同ネットワークとして運営されている。早期からコンピュータ支援教育(CAI)の導入、通信衛星を利用した遠隔教育等を中心に展開してきた経緯から、教育プログラムの根底にはインストラクショナルデザインをはじめとした教育工学を重要視してきた。北海道情報技術研究所にはリアルタイムで行う遠隔教育のためのスタジオが完備。「PINE―NETによる教育やeラーニングでは、教育工学的なノウハウが必要でしたから、専門学校の設立当初より教育工学の専門家を招いて教育設計を行い、改善を積み重ねてきました」。しかしながら、教育工学会やeラーニングベンダーとして有名な企業とコラボレーションをしてきたわけではない。いわば、同大学の教育そのものが、日本のICT活用教育の一つの歴史と言ってもよいだろう。
 大学と10校の専門学校では、リアルタイムの通信教育とeラーニングの独自の遠隔教育システムを活用することで、専門学校で大学の講義を同時に履修するダブルスクールシステムを備える。卒業時に大学の学士と専門学校の高度専門士の両方が取得可能だが、学生は大学生の1.5倍程度は勉強しないといけないという。現在、ダブルスクールには1500人程度の学生が通っているという。
 二つのICT活用教育を特徴としたGPを獲得するなど、教育改善にも熱心だ。こうした取り組みを推進してきたのが民間企業出身の教育工学研究者、冨士 隆教授である。例えば、FDのためのeファカルティポートフォリオでは、授業を映像で記録したり、各授業をビデオに録画して教員相互で議論ができる。カリキュラムについては、産業界からメンバーを招聘してのアドバイザリーボードを設置し、最新技術を導入したり、企業ニーズと齟齬がないかをチェックする。一方、対面授業の充実、キャンパスは無線LAN完備、ラーニングコモンズを設置する等、オフラインでの学習環境も充実させている。専門家、産業界の意見を織り交ぜながら、オンラインとオフラインを組み合わせたブレンド型学習を追及している。
 FDについては、やはり冨士教授を中心にしたFD委員会の下に、10以上のワーキンググループが稼働しており、全教員の5分の4が参加している。職員も全てのWGに参加し、教職一体となって推進される。教学は、個々のWGが提案をしてFD委員会の名の下に改革が行われていく。教学の運営方針は、月に一度、理事、教員、職員が参加する教育研究評議会で決定し、これが学部教授会や事務連絡会議に下ろされる。教職員は開学当時から上下関係もなく、民主的に意思決定が行われる。
 教職員のモチベーションも高い。「北海道大学出身の教員が多いです。しかし、教員評価において教育を重視するとともに、日頃から教育に力を入れないと大学が潰れると言っては危機感を持ってもらい、教員採用の理事面接の際に口うるさく「本学は教育第一である」と伝えます。学長・副学長は理事会と全学教授会から選ばれた選考委員会で決められます。
 職員もグループの企業、専門学校など多様なバックグラウンドを持っているので、意見も活発に出てきます」大学の風土をこう述べた。

自律的FD推進
モデル、eラーニング活用で教育充実
桜美林大学教授/日本福祉大学学園参与 篠田道夫

 北海道情報大学のICTによる自律的FD推進モデルは他に例を見ないシステムである。専門学校時代からのeラーニングの草分けで、得意とする教育工学の伝統が生きている。システム概念図の通り、教育にPDCAサイクルを取り入れ、ファカルティポートフォリオに蓄積された情報を基にFDの到達状況を診断、アドバイスを自動表示し、継続的な教育改善を支援する。
 まず授業計画、シラバスの作成に始まり(プラン)、ICT、ID(インストラクショナルデザイン)を活用した教材開発や授業展開、授業日誌の作成(ドゥ)、学生評価、ピアレビュー、アドバイザリーボードレビュー(チェック)を経て、FDダッシュボードでの自己点検、そして研修の受講(アクション)に至る。ファカルティポートフォリオには、授業改善計画、シラバス、教材、26教室同時自動録画による授業映像、学生授業評価結果、レビュー結果や過去のアドバイス、研修履歴など全ての情報が蓄積されている。このデータから、FDエキスパートモデル(あるべき姿)を指針に、実態とのギャップを分析、FD評価エージェントが各教員のFD成熟度を自動的に5段階で判定する。そして次の授業改善に何を取り組むべきかアドバイスが提示され、これら全てがFDダッシュボードから閲覧できる。当面全員がレベル2到達を目標にするが、活用不十分な教員も2割ほどおりそのフォローも課題となっている。
 こうした取組みは2008年のFD義務化から本格的に開始、FD委員会の下に10のWGが活動、多くの教員を改善行動に巻き込むと共に、全教員のピアレビュー(相互評価)を実施、2人1組で相互に授業を参観、良かった点、参考にしたい点、改善すべき点を記述、全教員が閲覧できる。また科目ごとに学生の授業評価に対する所感、評価結果の原因分析、録画授業も参考に授業改善計画を作成しポータルサイトで公表する。FDには学生も委員として参加、2011年の学生満足度調査でも、授業に大変満足、満足の合計が72%と非常に高い。
 この満足度向上には、GPを獲得した学習者適応型eラーニングシステムも大きな力となっている。学生の理解度に応じた三コースの学習、トライ&エラーを繰り返しながらの学び、システム開発の疑似体験など学習者の興味・関心に応じた学習システムが効果を発揮する。5年スパンの中期計画を掲げ、目標を達成するための計画、年度計画にブレイクダウン、教育の内容や方法、教育環境、学生支援などの総合改革に取り組み、これも満足度向上に結び付く。
 この背景には、この大学がeDCグループという株式会社エスシーシー、宇宙技術開発株式会社、北海道情報技術研究所、全国10か所に展開する情報教育の専門学校を擁する「産・学・研」の複合ネットワークの中にあり、通信衛星を使ってリアルタイムで質問・回答が可能な双方向型授業システムを全国に先駆けて始めたことでも知られる。専門学校の学生は同時に大学の通信課程に入学できるダブルスクール制も採用している。
 2013年より医療情報学部を新設、宇宙情報、観光情報、健康情報、ケイタイアプリケーションなどの特色ある新コースも立ち上げ、3学部25コースであらゆる情報教育のニーズに応え、今や総定員をかなり上回る在籍学生を確保する。
 教育工学を駆使した先駆的な教育システムで、多彩で特色ある情報教育を展開、高い評価を作り出している。


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