平成25年4月 第2520号(4月17日)
■大学は往く
新しい学園像を求めて〈70〉
高い倫理感持つ学生育成
きめ細かな指導で人間力 科学技術の知の拠点へ
埼玉工業大学
きめ細かな指導で人間力を高め、学生一人ひとりの能力を導き出す。埼玉工業大学(内山俊一学長、埼玉県深谷市)は、「テクノロジーとヒューマニティの融合と調和」という理念と、「仏教精神」を基盤とする建学の精神を掲げる。工学部と人間社会学部の2学部に約2300人の学生が学ぶ。今年、前身の東京商工学校開学から数えて学園創立110周年を迎えた。開学以来、エンジニアや実務家など、社会の中核となる人材を養成してきた。初年次教育に熱心に取り組む。新入生には、少人数のゼミで、教員と職員がペアで学生を指導。基礎教育を通じて、勉強のおもしろさ、考える楽しさを実感させる。4年間通してコミュニケーション能力と情報化社会に対応できる力を養い、就職力を高める。「きめ細かい教育を実践し、高い倫理観を持った学生を育てていきたい」という学長に、これまでの学園の歩み、大学改革、これからを聞いた。(文中敬称略)
建学の精神は「仏教精神」
初年次教育に傾注
キャンパスのある深谷市は、埼玉県北部の水と緑に恵まれ自然あふれたところ。北に利根川、南に荒川が流れ、「深谷ねぎ」が有名。深谷市は、「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一やドトールコーヒー創業者の鳥羽博道を輩出している。
埼玉工業大学は、1903年に東京・浅草区森下町(現:台東区寿)に設立された東京商工学校が淵源だ。戦後の1948年、聖橋高等学校を開設。62年、聖橋工業高等専門学校を開設。埼玉工業大学は76年、工学部の単科大学として開学した。
学校法人智香寺学園が運営。仏教精神を基盤とする建学の精神に謳っている。「科学の真理を窮め、それを世のために役立てるよう決意することよって、若き日に使命感を養え。深く科学を学び、豊かな技術を身につけることによって、若き日に正しい人生観を養え。学生、教職員及び父兄が一体となり、学園の理想発展を目指すことによって、若き日に連帯感を養え」
学長の内山が埼玉工業大学を語る。「これからの科学技術の発展にも、学生が社会のために役立てる社会人として成長するためにも、学力や技術を習得することは大切です。それとともに、技術をどう生かすかといった正しい道徳観・倫理観・宗教観を持つこと、感性、精神力やコミュニケーション能力を磨くことも必要不可欠と学生には諭しています」
2002年、人間社会学部を新設した。11年、工学部を3学科6専攻に改組改編。機械工学科(機械工学専攻、ロボティクス専攻)、生命環境化学科(バイオ・環境科学専攻、応用化学専攻)、情報システム学科(IT専攻、電子情報専攻)となった。
文系の人間社会学部の新設は?「技術一辺倒ではなく、人間の内面的な問題にも取り組もうと開設しました。CGや音楽などを幅広く学べる情報社会学科と臨床心理士の資格の取れる心理学科からなり、人間力を高める教育を行っています」
教育について。「きめの細かい丁寧な教育を心がけています。『目』が行き届くと同時に、学生の立場に立った『こころ』を込めた指導を行っています。進路や関心に合わせた専門分野の充実に加えて、英語教育と情報処理教育にも力を入れています」
2学部の学び。工学部。機械工学科は、ものづくりに必要な幅広い基礎知識と応用力を備えたエンジニアや研究者、生命環境化学科は、化学の力で21世紀を支える研究者や技術者、情報システム学科は、ハードとソフトの両面に精通したエンジニアを、それぞれ養成する。
「人間のためのテクノロジー、を基本に、高度な専門研究に必要な工学の基礎・技術を学びながら、ものづくりや研究への理解を深めます。社会人に必要とされる、幅広い視野で考えて問題解決を図る能力、プレゼンテーション技能、語学力の習得にも力を入れています」
人間社会学部。情報社会学科は、文系の学問と、情報学やCG・音楽を含む、情報社会の先端知識と技術を同時に学ぶ。心理学科は、人の心を理解し、人の心の問題を適切に解決できる心理学のスペシャリストを養成する。
「人間と社会を学び、豊かな知性・教養・価値観を身に付けます。人と社会をさまざまな角度から学びます。文系であっても、コンピュータの技能が求められており、ITを自在に駆使できる人材の育成にも力を入れています」
大学院の臨床心理学教育研究分野は、07年に日本臨床心理士資格認定協会から臨床心理士養成課程第一種の指定を受けた。「修了すると臨床心理士資格試験が受験でき、毎年本学卒業生が臨床心理士資格試験に挑戦しています」
研究も盛かん。なかには、商品化されたものもある。学長の内山の専門は電気化学。電気化学的手法で水の汚染度や果物のビタミンの濃度などをチェックする新しい分析法を開発。「これまで食品や水道の汚染などを調べるには薬を入れるなど面倒でしたが、少量の試料を滴下するだけで測定できます」
地域貢献に学生奮闘
地域貢献につながるのが、「がんばる!学生プロジェクト」。学生の自発的な取り組みを大学が支援する。科学の不思議やおもしろさを子供たちに伝える活動を行う「集まれ科学実験教室プロジェクト」や、駅前をライトアップする「OKABE光の回廊プロジェクト」などがある。
「地域に支えられる大学として、このように自発的にプロジェクトに取り組む学生の姿は頼もしく映ります。こうした形で地域貢献を進めるとともに、本学を埼玉県北部、さらには北関東の『科学技術の知の拠点』と位置付けていきたいと思っています」
スポーツも盛んだ。卓球部は関東大学リーグ2部、ラグビー部は関東大学リーグ3部、サッカー部は埼玉県大学リーグ1部で奮戦している。「スポーツ以外の文化・研究系サークルも頑張っています。自主性や社会性を培える有意義な活動なので、大学としても積極的に応援しています」
資格取得で高い就職力
就職力。「219時間!!」が就職支援のキャッチコピーだ。「本学が、就職支援に費やす時間のことです。年間約219時間、146回(授業をのぞく)、ほぼ全学生が受講できる体制を取っています」。このうち、無料の就職支援講座は約174時間、116回、ハローワークから就職アドバイザーが週5回、キャリアカウンセラーが週3回来る。
こうした就職支援講座のほか、力を入れているのが各種資格の取得。工学部は、応用情報技術者、公害防止管理者、CAD(コンピュータによる製図)利用技術者など、人間社会学部では、教員免許、臨床心理士、CGクリエーターなどの資格取得をめざす。
「機械工学学科では、CADの資格取得に力を入れています。平成24年度後期CAD利用技術者試験1級機械の試験で、本学の学生が難関の1級に最高得点で合格しました。これは、全学の資格取得をめざす学生の励みにもなりました」
大学のこれからを聞いた。少子化、大学全入と大学を取り巻く状況は厳しいが、「地域の受験生が増えています。これからも全国展開だけではなく、地域に密着した大学づくりを大切にしていきたいと思う。それには、学生はもちろん、高校の先生、保護者の皆さんの評価を得なくてはならない」
こう続けた。「学生にとって良い大学であるだけでなく、地域社会からも愛され、地域に必要とされる大学を目指したい。名前は工業大学だが、工学系と文系が両輪となって大きく伸びていきたい」
内山に導かれた埼玉工業大学は、これからも埼玉県北部地域の「科学技術の知の拠点」に向って邁進する。