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平成25年3月 第2516号(3月6日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <41>
 優れた中期計画で確実な成果
 静岡理工科大学


 静岡理工科大学は、1940年に設置した静岡県自動車学校を起源とし、1991年、理工学部に機械・電子・知能情報・物質科学の各学科を持つ単科大学として開学した。モノづくり盛んな静岡県西部において、“やらまいか※教育”と名付けられた教育法は、地域の企業経営者の協力を得ながら、実践型のアクティブラーニングとして特徴づけられる。中期計画の導入後、受験生のV字回復を果たした同大学の経営について、下田修事務局長、高橋 仁法人室次長、山下博通学生事務部長、久留島康仁総務部総務課長、河村都美明企画室次長に話を聞いた。(※「やらまいか」とは遠州地域の方言で「一緒にやってみよう」という意味で、進取の気性に富み、チャレンジ精神が旺盛な遠州人の気質を表現している言葉)
 2006年、荒木信幸学長が就任し、外山浩介現理事長が大学担当の常務理事として赴任した。志願者が最も落ち込んだ時期でもあった。「新しい大学運営の旗振り役に荒木学長と外山理事長が呼ばれました。赴任直後、中期計画策定とこれに連動した人事制度導入を指示されたことで、それ以前はバラバラだった組織としての目標が設定され、教職員が共通の方向を向き始めました」と下田事務局長は振り返る。
 中期計画の策定は、まず全体的な項目を学長、学部長を中心に定め、現場からその項目を具体的に埋めるべく意見を集めた。各課、学科では、これに基づいて具体的な目標、施策、スケジュールを書き込む。同時に、中期計画や重点項目と人事考課を連動させた(人事考課は、職員が1999年から給与・賞与と昇級に、教員は2002年から賞与のみ、2011年から給与にも反映)。職員は目標管理制度となる「チャレンジシート」を各自記入、年に一度、評価を行って次年度に反映させる。
 かくして、2008年に第1次中期計画がスタートした。現在、中期計画の元になる学長方針の抜粋は学内掲示板、研究室、事務局に張っている。中長期計画の微調整や日常の課題の共有等は、毎週1回開催される大学運営検討会で行われている。
 特徴ある教育としては、創造体験教育「創造・発見」がある。これはモノづくりの現場を教育に反映させる試みで、静岡県西部特有のモノづくり企業が多い地元から、リタイアした技術者を非常勤教員として招き、授業に関わってもらう。最近ではキャリア教育にも力を入れて関わりを持ってもらっている。
 教育評価にも力を入れる。「自己評価委員会の下に3〜4名の教員で構成される「PDCA小委員会」を作って、授業アンケートなどから授業法、評価方法、目標達成について数値的に検討、新カリキュラムの課題を見つけて、次年度以降の計画に反映させています。一連の教育評価活動は、出口 潔理工学部長が中心に始められたものです」と河村次長。
 志願者増の戦略として中期計画に掲げられたスカラシップの充実、授業料減免制度が功を奏し、翌年以降回復の兆しを見せる。「学生納付金が減っても、優秀な学生を受け入れて、4年間でしっかりと育てて地域企業に送り出す、人材が評価され大学の評判が高まるという循環に繋げる。大学の本質的な改善はこれしかありません」と高橋次長は力を込める。
 職員研修も充実させている。「学外研修報告会とテーマ別検討会の2本が走っています。学外研修報告会は、主に若手教職員が全職員に対して、学外研修の内容を分かりやすく伝えます。大学が社会でどういう位置づけにいるのか、それに則って大学の中期計画があり、各人の業務がある。この仕組みを理解させています。また、大学内の部局間が有機的に繋がればもっと大きな力になる。そのために、部局同士で情報共有しようという目的があります」と山下部長。
 続いて、久留島総務課長がテーマ検討会について引き継ぐ。「入職5年以内の職員でグループを作り、中期計画と連動したテーマを決めて解決策を検討させます。管理職は入らず、自分たちで検討させます。元々、課長会で行っていた各課の業務内容の紹介を若手にも応用しました」。
 第1次の中期計画から、数値目標、人事考課との連動まできっちりと回している事例は多くない。荒木学長の方針を忠実に実現するミドル層のリーダーシップの賜物であると言える。

計画と評価の積み重ねで経営・教学改革を推進
日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫

 静岡理工科大学の中期計画は良く工夫されている。計画本体は冊子形式だが、概要版はそのポイントを1枚に端的にまとめ、その裏には5年間で取り組む年次ごと分野ごとの改革課題と進行計画を記載、一目瞭然だ。
まず将来ビジョン、理念・使命・教育方針が明示され、現状と課題(外部・内部環境、強みと弱み)が簡潔に書かれ、その上で個別戦略(教育・研究・社会貢献・高大一貫教育・管理運営・SD)、学部学科再編計画の柱が示される。定性的な目標だけでなく具体的に5年後の数値目標(入学生数・在籍学生数・帰属収支差額比率)、投資計画として教職員数計画、施設・設備充実計画、帰属収支差額比率改善計画の数値や表が載る。第2次中期計画ではそこに第1次計画の到達度評価、数値目標には志願倍率、入学生の偏差値、就職率や進学率も加えられた。1枚の紙にグラフや図をカラーで入れ込み、現状・課題・目標・実行計画が端的に、分かり易く一覧でき全教職員が共有出来る。
 またこの推進・評価システムも優れている。中期計画は年度計画に具体化され、全体の重点目標と事務局の課別の重点目標を定め、さらにテーマ別(教育・研究・地域・学生・就職・広報・管理運営等)または学部・学科別の方針に分けられ推進責任者名明記の上「計画遂行必須事項」を記載する。これによって誰が、何を、いつまでに、どのようにやるかが明確になる。そしてその目標・施策ごとに「何を実施したか」「その結果はどうであったか」「課題は何であるか」「そのため来年は何をやるか」という形で、PDCAを現場レベルまで実質化し改善を積み上げていく仕組みだ。この実行計画の策定や具体化、評価には全部局、学科、課室が主体的に関与する。大学評議会に中間報告、最終報告され、最後に「現状と課題」(総括)にまとめられる。認証評価はこの中期計画の総括を評価機構の形式にのっとって整理する形で行い、中期計画総括と認証評価を一体化している。教育の評価は教育評価委員会が中心になって行い、教育方針の効果を毎年アンケート等で検証する。この取り組みを通じて中期計画は教職員一人ひとりに浸透し、教育や業務に結合、評価と改善の実践的なマネジメントを作り出す。
 第1次中期計画は、総合情報学部の新設や理工学部に航空工学コース等ニーズに対応した学科充実、スカラシップや高大連携、FMやTVのCMなど積極的に広報を行ったこともあり、4年間で効果は明瞭にあらわれた。計画がスタートした2007年が志願者のボトムで、定員360人に対して入学者267人、これが2011年には423人となり3年間続いた定員割れ状態を脱却、負のスパイラルを回避し消費収支差額比率もプラス9.7%に大幅改善、経営安定化を軌道に乗せた。中期計画に基づくマネジメントの開始には、企業出身の現理事長の優れた経営手腕、国立大学で中期計画作りを主導した現学長のリーダーシップ、そして事務局幹部の企画力が大きい。
第1次計画では教育改革も大きく前進した。何でも積極的にチャレンジする「やらまいか教育」、理論ではなく体験で学ぶアクティブラーニング「モノから入る教育」、カリキュラムの全面改定、習熟度別授業、ポートフォリオなども導入した。
 第2次計画はいよいよその教育の内実を作ること、個々人の授業改革、教育内容と手法の抜本的充実が問われる。雇用情勢の悪化の中で、これまで100%近くを保持してきた就職率が80%台へ急激に悪化、就職に強い大学の評価の低落となれば生命線を断たれるに等しく、改革の成果を消し去るほど重たいと認識、社会人基礎力養成教育の徹底強化、優れた学生をさらに伸ばすアドバンスト教育を進める。一部教員の異論や非協力的態度には学長自ら厳しい批判を行い、入学した学生を必ず成長させる教育の実現に決意を持って臨んでいる。
改革行動に教職員を巻き込む上では、中期計画テーマへの主体的な挑戦を励ます人事評価制度の存在も大きい。チャレンジシートへの職務目標の記載から始まる職員評価の五つの着眼点の第一は挑戦(職務内容の飛躍、目立った進歩)であり、管理者集団は、中期計画推進上の問題点、成功・失敗事例を徹底議論する「問題・課題解決のための意見交換会」を開催する。教員評価の柱にも、教育・学生指導、研究、大学運営、社会貢献と並んで「大学の重点施策に関する項目」を掲げ、中期計画に特に教育の面から何が貢献できるかを問いかけ、評価している。
 優れた中期計画を掲げ、多くの教職員による計画の具体化と評価の真摯な取り組みによって、改革を着実に推し進め成果を上げている貴重な実践事例である。



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