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教育学術オンライン

平成25年2月 第2515号(2月27日)

大学は往く  新しい学園像を求めて〈67〉
 新時代に対応できる人材
 カリキュラムを一新  新学長が大改革に着手
 名古屋経済大学

 人間的な触れあいを大切にし、個性を尊重した少人数教育。名古屋経済大学(佐々木雄太学長、愛知県犬山市)は、100年の伝統を誇る市邨学園が母体。同学園は大学をはじめ、大学院・短期大学部・高校・中学校・幼稚園を擁する総合学園。「一に人物、二に伎倆」の精神で、自分に責任が持てる、社会で評価される人材を養成してきた。近年、名古屋経済大学は、多くの大学がそうであるように入学志願者の減少に直面している。  2012年に学長に就任した佐々木は、すぐさま、改革へと舵を切った。名古屋大学教授、愛知県立大学学長、公立大学協会会長として大学のガバナンスに精通した佐々木の改革はカリキュラム改革などドラスティックなものだ。「人間力を重んじる建学の精神を継承し、教育の充実という学生にとって魅力ある大学にして、予測困難な時代に生きる力を育てたい」という佐々木学長に改革の意義を中心に聞いた。
(文中敬称略)

個性尊重の少人数教育 一に人物、二に伎倆

 名古屋経済大学は、創立者・市邨芳樹が1907年に「わが国初の女子商業教育を」との信念の下に創立した名古屋女子商業学校が淵源である。爾来、「一に人物、二に伎倆」の精神で個性を尊重した人間教育を実践してきた。
 1965年、市邨学園短期大学(商経科、家政科)を開学。79年、市邨学園大学(経済学部消費経済学科)を開学。83年、市邨学園大学を名古屋経済大学に改称し、男女共学にした。
 91年、法学部(企業法学科)を設置。02年、経済学部経営学科を経営学部に改組。05年、人間生活科学部(幼児保育学科、管理栄養学科)を設置。現在、経済学部、経営学部、法学部、人間生活科学部の4学部に1515人の学生が学ぶ。
 理事長の末岡熙章が大学を語る。「自分に責任が持てる人材、社会で評価される人材の養成、この理念は現在も変わることなく本学の教育方針として息づいています。教員と学生の距離が近い『Face to Face』による教育を実践し、即戦力となる人材を養成し、生涯学習の場として地域にも貢献していきたい」
 学長の佐々木は、政治学者で、専攻は、イギリス政治外交史。京都大学法学部卒業後、京都大学大学院法学研究科修了。大分大学助教授、名古屋大学法学部教授を経て、愛知県立大学学長に。昨年4月から名古屋経済大学学長となった。
 公立大学協会会長、大学評価・学位授与機構学位審査委員、日本学術振興会外部評価委員会委員、グローバルCOEプログラム委員会委員、大学設置・学校法人審議会特別委員、中央教育審議会大学分科会臨時委員などを歴任した。
 佐々木は、就任間もない6月、「改革試案」を全教職員に発信した。「大学教育の質的転換を提唱する中教審答申に沿って、大学の姿や教育のあり方を大胆に変革したい。それには、何を教育目標とするか、大学の存在理由は何か、といった教育の理念を共有しなければならない」
 まず、改革のねらいを佐々木に聞いた。「世界は、大きく変容しつつあります。経済を中心にしたグローバル化の進展とその下でくり返された経済危機・金融危機を背景に、日本の社会構造や産業構造が大きく変わりつつあります。
 予測困難な時代を生きる若者たちに必要な力は、想定外の事柄に出会った時に、そこに問題を発見し、適切な答を導く筋道を見つけ出す力です。100年を超える本学園の伝統を継承しつつ、新しい時代に対応できる力強い人材を養成したい」
 そして、続けた。「知識注入型の受験勉強に馴染むことができずに大学に進む学生も少なくない。何かのきっかけで、学ぶ意欲を持てば、これからの時代は本学の学生にとってチャンス。教育方法の工夫が急務で、フィールドワークやPBLなど主体的な学びを促す教育を取り入れたい」
 具体的な教育改革は?「まず、カリキュラム改革。日本の大学は、欧米に比べ授業科目数が多すぎる。授業科目を精選し、科目数を大幅に削減したい。精選された科目群を体系的に提示して、学生が順序良く履修できるように図りたい。
 また、社会科学系3学部(経済、経営、法)に共通する専門共通基礎科目を設定して、3学部の学生全員に履修させたい。3学部の学生は、経済、経営、法律を中心とした社会科学の基盤的領域を修得することで自信につながると思う」
 カリキュラム改革は、今年度の入学者から取り入れられる。もっとも、改革は始動している。嚆矢は、「成績優秀者優遇制度の拡充」。学力・センター利用入試の高得点者(合計得点8割以上)の入学金20万円、および毎年の学納金(授業料、施設整備費、維持費、教育充実費)を免除する。
地域連携に力を注ぐ
 佐々木が、教育改革のほかで、力を込めるのは地域連携と国際交流。「大都市圏では、キャンパスの都心回帰が言われていますが、本学は、ここ犬山にどっしり構え、尾北(尾張の北)と岐南(岐阜の南)に目を向けたい。地域社会の人々に広く学びの機会を提供し、地域とともに歩む大学として発展したい」
 犬山市や小牧市及び両市の商工会議所と連携交流協定を締結。ニーズに応じた市民講座やオープンカレッジを開催して地域の人々にさまざまな学びを提供。犬山市や周辺自治体と連携した『開かれた学び』を多角的に実践している。
 「地域をキャンパスに」が佐々木の口癖。「カリキュラム改革では体験型学習も取り入れます。教室の外に出て、課題を見つけ、解決策を探すというプロジェクト型授業。犬山には、国宝の犬山城はじめ、古い町並みも残っています。農村部には入会権をめぐる歴史もあり、地域から学ぶべきことは多い」
海外との交流で国際力
 国際交流について。「国際社会、とくにアジアとの学術・教育交流を深め、留学生を迎え、留学生を派遣したい。国際的視野を持ち、身近な地域を大切にするグローカルな人材を育てたい」
 つとに、ベトナム司法省付属の研究機関である国家と法研究所との間で研究者の相互訪問などを目的とした、学術交流協定を締結。ベトナムからの留学生の受け入れも始まっている。さらに、現在、ハノイ国家大学やモンゴル国立大学と協定締結の協議を進めている。
 佐々木の改革談義は終わらない。「スポーツ特待制度を充実させたい。スポーツ特別カリキュラムの設置も考えている。社会科学系3学部にスポーツ関連科目を設け、将来、スポーツを通して社会に貢献できる道をつくっていきたい」
 「ボランティア活動を支援したい。東日本大震災では、多くの学生がボランティアで東北に向かった。帰ってきた学生は一回り大きくなった。3・11の教訓をくみ取りながら、学生と新しい価値観を共有し、豊かな教養教育を追及していきたい」
 大学のこれからを聞いた。「今から100年程前、本学の創立者である市邨芳樹先生は、教育が単なる知識の注入に堕することを戒め、何よりも人間性を身に着けた『人物』を育てることを唱えました。この教えは、今、あらためて輝きを持ち始めています」と述べ、こう続けた。
 「少子化、18歳人口の減少の中で入学者を獲得するには、『魅力ある大学』づくりが課題。それは、学生にとっては、課外活動を含めた広い意味での教育の魅力。教育の充実こそが大学の活力強化にもつながる。そのための改革なんです。何としても成功させたい」
 その自信は?「改革には、目の前の学生と向き合う教職員の力が大きい。教員の教育力を高め、事務職員のスキルを高めていきたい。3月から教職員の間で研修をやろう、という動きも出ています」
 政治学の泰斗とは思えぬ伝法な口調で、こう結んだ。「やらなきゃいかん。急がず、出来るところから」


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