平成25年2月 第2514号(2月20日)
■改革の現場
ミドルのリーダーシップ <39>
3大学を統合、10学部へ発展
常葉大学
(学)常葉学園は、1946年に地元の臨済宗龍雲寺出身の歴史学者、木宮泰彦氏が創立した。静岡に常葉学園大学を設置、浜松の浜松大学と富士の富士常葉大学は「地域を大学誘致で活性化させたい」という地域に請われて設立した。教育者でもあった木宮氏の想いの主軸である教育学部のほか、ビジネスデザイン学部、総合経営学部などを設置するが、大学同士が受験生の「食い合い」をすることもあり、一大学に統合する指針を木宮健二理事長が打ち出し、来年度からは「常葉大学」として新たなスタートを切る。大学統合について木宮岳志副理事長、高木敏正常務理事・人事監、加藤 薫常務理事・兼事務局長、佐々木 弘総統合企画室長に聞いた。
2003年6月に発行された学園誌「とこは物語」の巻頭言で、木宮和彦学園長は3大学の統合に触れ、2010年、理事長主導で具体的に動き出した。副理事長は振り返る。「学生募集に陰りが見え始め、県内に三つの大学を設置する法人として、大学経営戦略の明確化が求められていました。そこで理事長は、単に統合をするのではなく、県下の大学において手薄な領域を見極め、学部整理して総合学園を目指す方針を打ち出しました」。
大学統合と学部新設を同時に行う。理事長が掲げた方針は無謀にも見えたが、同年、統合再編、水落校地整備(学部新設含む)を扱う二つの委員会が立ち上がる。理事や教員も加わり月に2回のペースで委員会を開催。「統合再編」は4回、「水落校地整備」は9回の委員会を経て、同年11月には答申が出され、12月の理事会で決定。常葉学園大学を常葉大学に名称変更するとともに、浜松大学と富士常葉大学を統合して常葉大学の浜松・富士キャンパスとし、水落校地には法学系と看護系の学部を新設することなどが決まった(常葉学園短期大学も常葉大学短期大学部となる)。その後の2011年2月に具体的に統合・学部新設を推進する「大学統合・学部新設準備機関(事務局)」を設置した。スピード感が重視された。
「学内からは、何故統合の必要があるのかと反対がありました。3大学の置かれた状況も校風も運営の仕方も全く違いますから、その調整に労力が掛かりました。大学の運営ベースは、常葉(学園)大学となりますが、各大学の良い仕組みは全体に適用させるようにしています。各大学の教授会等には副理事長自ら回り、「現在ではなく、未来の在るべき姿を考えてほしい」と説得しました」と佐々木室長は語る。
学部新設はマーケティング調査の結果、法学部と健康科学部とした。統合再編、学部新設を通じて、常葉大学内に保育や健康・保健など類似学部学科が複数設置されることになるが、各地域のニーズに合わせてカスタマイズした。「静岡県は東西に長いという地理的特徴がありますので、自宅通学を希望する学生に配慮して、経営学部だけは1学部1学科2キャンパス制としました」と高木常務理事は述べる。
統合の特色の一つは、全学共通の演習科目「人間力セミナー」を必修にしたことだ。専任教員が学生20人程度を受け持ち、1冊の本を読み説きながら、得た知識をどのように活かしていくかを育成し、コミュニケーション能力を身に付けさせるもの。予めプロジェクトチームで推薦図書を決める。元々は常葉学園大学で行っていた演習を全ての学部学科に広げることとした事例である。この取り組みは、教員の意識を変革し、常葉に共通の教育力を高めるためでもある。特に富士と浜松の教員からは強い反対があったが、やはり各キャンパスに副理事長が出かけて行って説明した。
学生募集や就職支援は各大学に「入学センター」「キャリアサポートセンター」の分室を作ることで、入試は統合した形で日程を組み、入試を実施、全学部を複数受験ができるようにし、就職支援は求人情報の共有化をする。
教学の意思決定はどうなっていくのか。「元々、各大学には学長を議長とする部長会があって、そこで教育研究の基本的な意思決定を行い、各学部の教授会に下ろしていました。大学統合後も同様な意思決定システムになります。各キャンパスに副学長や事務局次長を配置して連絡を密にとっていきます。学長の決裁した事項を副学長に下ろしていきます」と副理事長が解説する。
幼稚園から大学、病院も抱える法人は、これまで各機関が別々に経営されていた。このたび大学組織が巨大化することで、大学をベースに法人と統合できるところはしていく予定だ。大学統合により、法人・大学から基本方針を打ち出し、それに基づいて各学校・病院が具体的な事業を実行していく。「対立関係が生まれる可能性はありますが、統合の目的である法人と教学の一体化は重要です」と副理事長は力を込める。
同大学規模の「統合」は日本初でもあり、この事実とノウハウは今後の大学業界に大きな影響を与えると思われる。
全学一体の改革推進で、県下最大の総合大学創り
日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫
常葉学園大学、浜松大学、富士常葉大学は統合し、10学部1短大部を持つ県下最大規模の総合大学に生まれ変わる。これまでの3キャンパスに加え、静岡駅に近い水落地区に静岡県内初の法学部、看護学科、理学療法学科を持つ健康科学部を新設、重複する学部を統合・再編し新たな陣容でスタートする。その構成は、静岡に教育、外国語、造形、法、健康科学、浜松に経営、健康プロデュース、保健医療、富士に経営、社会環境、保育である。常葉学園はもともと大学・短大に加え、三つの中学・高校、1小学校、2幼稚園、専門学校や病院を持つ県内有数の総合学園で、専任教員数600人、専任職員約300人、学生・生徒等約1万人を数える。
大学統合の構想は以前からあった。学園誌などで前理事長の将来構想として1大学3キャンパス校化の方向性が提示されていた。ここにきて急にそれが現実味を帯び、実行に移された背景には、年々厳しさを増す入学動向の中、3大学が志願者を奪い合うのではなく、1大学として総合化することで受験生の選択肢を広げ志願者のすそ野を拡大すると共に、互いの強みを共有し魅力を倍増することで評価を高め、競争環境の中で盤石の基盤を作り上げることにある。
2010年、大学統合・再編計画委員会と水落整備計画検討委員会が理事長、学長を中心に立ち上げられ基本計画を策定、翌11年2月には大学統合・学部新設準備機関と同事務局が設置され、直ちに文科省設置申請に着手、12年には認可を得るという大変なスピードである。大学統合と2学部設置はどちらも膨大な申請業務を伴うが、新生常葉大学として社会に打って出るには同時開設しかないという理事長の強い決断があった。
統合の強みは、教育内容、教育システムとして具体化されなければならない。新生常葉大学の教育理念「知と徳を兼ね備えた豊かな人間性を持つ社会人の育成」を行う教育の中核に位置するのが全学共通科目、「人間力セミナー」である。これを現在の三大学の専任教員全員が担当、演習形式で1冊の本を手掛かりに読み、書き、コミュニケーションの基礎力を養成するもの。これまで専門教育しか担当してこなかった教員からは戸惑いの声もあったが、専門の枠を超えて教育目標の実現、学生基礎力養成教育に向き合うことで教員自身の教育力の向上と全学一体化を狙ったものである。
入試・広報部門も、3大学1本の入学センターに統合、これまでバラバラに行われていた入試を統一日程にすることで全学部併願が可能となり、受験生も大きなメリットとなる。今年から統一してオープンキャンパスを開催、統合への期待から過去最高の4000名近くの高校生が参加した。就職分野は全学キャリアセンターに統合、専門のキャリアカウンセラーも常駐し、求人情報の一本化などで、求人件数1万3000件、教員合格170人、公務員527人、就職率82.6%の2011年実績のさらなる向上を目指す。
こうした全学一体の改革推進を担うシステムとして、キャンパスごとに運営責任を負う副学長と事務責任者・事務局次長を配置、全体を学長が統括すると共に、学部教授会の上に全学の教学基本方針を審議・決定する部長会を置く。それら全体を常務理事会が束ねる仕組みだ。これを担う統一事務体制の構築を大学統合・学部新設事務局が推進しており、また申請・認可業務から全学改革の遂行に総合企画室が機関車の役割を果たしている。
複数キャンパスでの教育や業務を統合的に発展させる上で、この法人独自の教員、・職員評価制度も役割を果たしている。常葉学園に所属する全ての職員、大学教員、中高教員、事務職員、幼稚園教員までの統合的な「職員勤務評定実施要綱」が定められている。大学教員の評価基準は、A教育実践、B学術研究及び社会的活動、C学務、D勤務実績に分けられており、特に授業の評価やゼミ指導、就職指導や課外支援、研究では論文と共に学会発表や社会的活動なども重視し、教育力を付け全学的に良質な教育の提供を目指している。事務職員については評価に連動した研修システムも整備されており、職員の管理者への昇格もこうした評価を基にレポートや面接審査で力のある者を抜擢している。新任の教職員に対しては、学園内の研修センターにおいて宿泊型の初任者研修を行っている。
静岡県内の主要都市に展開する教育機関をまとめ上げる全学一体の改革推進体制の整備・強化に取り組み、県下最大の魅力ある私立総合大学・学園創りに挑戦している。