平成25年2月 第2512号(2月6日)
■地域創職 ソーシャルビジネスと若者 C
地域全体の挑戦を支えるプラットフォーム
岐阜 NPO法人G−net・岐阜大学
NPO法人G―netインターン事業部コーディネーター 岩瀬彰子
1.学生を主役にした産学連携を
地方国立大学法人として地域に貢献をしながら、同時に学生の教育も進めていきたい。それらはもはや大学内だけで完結することではなく、地域との、特に「人と人を結ぶ」連携が欠かせない。授業、インターン、ボランティアについて、学生のチャレンジ支援を多様化し、段階的、重層的に地域と連携して、新しい教育モデルを構築する取り組みに挑むのは岐阜大学。そして連携パートナーとしてこれを支えるのがNPO法人G―netだ。
岐阜大学(森秀樹学長、岐阜県岐阜市)は、「学び・究め・貢献する」地域に根ざした国立大学法人として、自立性と国際性を備えた高度な専門職業人を社会へ輩出すること、様々な分野で社会貢献する人材を育てることを目標に掲げている。社会で評価される優れた研究成果や、共同研究等の実績を数多く生み出し、情報発信し、社会の中で、より存在感のある大学となることを目指して産官学連携にも積極的に取り組んでいたが、ここでの「学」は「研究」が中心で、主役は学生ではなかったといえる。
2.実践型インターンシップで地域を学びの場に
そこで2010年に生まれたのが「地域協働型インターンシップ」。地域に根付く地場産業や地域活性化に取り組む団体等で一か月以上に亘り、リサーチマーケティングやイベント企画・運営に携わる実践型インターンプログラムである。学生自身が社会における自分たちの役割を考え、大学生活の目標を明確にすること、職業観の醸成を教育の狙いとし、スタートからの3年で計106名の学生がプログラムに参加をしている。(他大学にも開放されている科目のため、岐阜大学以外の学生も含む。106名のうち岐阜大学生は10名。)
学生の成長だけではなく、地場産業や団体など受け入れ側の事業加速にも貢献できるよう、G―netのコーディネーターがプロジェクト設計に携わり、事業成果目標の達成も重視しているのが特長。その結果、インターンを通じて、地域に対する関心や愛着、当事者意識を持つ学生が増加した。
また、体験を学びに転換する機会として集合研修をインターン期間中に5回実施(事前、中間、事後研修を各1回、フォローアップ研修を2回)、日報へのフィードバック、個別の面談対応などG―netのコーディネーターによる手厚いサポートが学生の成長を支えている。インターン修了後には、参加学生の企画・運営による修了報告会も実施。インターンで得た学びや気づきを、報告会の開催というプロジェクトで再試行すること、また自らの経験を言語化して他者に伝える機会を得ることで、学びの定着化、自身にとっての経験の意味づけが出来るようになり、それが結果として次のチャレンジに繋がっている。
2011年度からは講義「地域活性化システム論」を事前学習として位置付け、実践型プログラムに挑戦する土台づくりを行い、2012年度から実践型インターンを教養科目として正課化、県内22大学等と岐阜県で構成するネットワーク大学コンソーシアム岐阜(GUC)の地域連携プログラムとして単位互換科目にも位置付けられている。
3.地域の挑戦者たちと手をつなぐ
地域でチャレンジをしている人たちとのネットワーク―G―netとの連携で岐阜大学が得た大きな利点はそこにある。2004年より岐阜・愛知で長期実践型インターンに取り組むG―netには、伝統的な地場産業を支える経営者、日本の産業を確かに支えるものづくり企業、まちづくり・地域活性に取り組むNPO団体代表など、学生のロールモデルとなり得る「挑戦者たち」のネットワークがすでに存在していた。岐阜大学が目指す「気づき↓挑戦の喜び↓課題の発見↓課題解決と成長の加速」という流れを共に作るパートナーとして、G―netと岐阜大学の二人三脚がはじまった。
リレー講義を通して社会的課題や地域課題、その解決に向けての思いを知り、一日体験のボランティアで自分でも貢献できることがあることに気づき、実践型インターンシップでともに挑戦する喜びを感じてもらうという段階的な支援体制の構築も、G―netをはじめとする地域の「挑戦者たち」との試行錯誤の結果で生まれてきたと言えるだろう。
実は岐阜大学には、学生のボランティアを支援する組織は2011年まで存在しなかった。
リレー講座、実践型インターンの実績が評価されたことで、地域に飛び込む若者をもっと増やすこと、小さなチャレンジの芽を育てていこうという学内の機運が熟し、ようやく組織としてのボランティアセンター「学生ボラネット」が発足。この「学生ボラネット」の立ち上げに学生スタッフとして大きく貢献したのもまた、講義を受講し、実践型インターンに挑戦をした学生だった。「自分がした経験をもっと多くの学生に伝えたい。地域には、すごい人がたくさんいる」そう話す学生の言葉は自身の経験に裏打ちされており、力強い。
4.チャレンジの連鎖を生む
東日本大震災を機に、ますます地域活性、まちづくり、地域貢献というキーワードに関心を持つ学生が増えている。興味はあるけれど何をしていいのかわからない学生にはチャレンジの間口を広げ、より高い志を持つ学生のためには大きく成長できる機会も提供する。そんな重層的なチャレンジ支援が確実に地域と大学の距離を縮めている。
「講義をきっかけに里山保全・獣害被害に取り組む団体から“獣肉ジャーキー”が岐阜大学ブランドとして商品化」「インターンを経験した学生を中心に、大学と地域連携を考える岐大発!熟議推進委員会が誕生」といったように、少しずつチャレンジがチャレンジを生むプラスの連鎖が生まれている。しかし岐阜大学が目指すのは「学生だけでなく地域全体の挑戦を支えるプラットフォーム」。それは大学単独で実現するものではなく、志を同じくする学内外の「挑戦者たち」と手を繋いでこそ完成する。大切なのは志を共有する機会、場面を大学が積極的に地域に発信していくことではないだろうか。
「学び・究め・貢献する」地域に根ざした国立大学法人として、学生を介してその間口を広げ、大学が持つリソースがどう地域に貢献できるのかを「見える化」していくことを期待したい。
右写真は「地域仕事づくりチャレンジ大賞」での発表。