Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
教育学術オンライン

平成25年1月 第2511号(1月23日)

知の拠点から
  大学図書館のいま ―自立的学習支援にむけて―


 昨年の夏、中教審答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて〜生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ〜」が世に出た。社会からの期待に応えるべく、大学は学士課程教育の実質化を図ることが急務とされ、学生の「学びの時間」について質を伴ったものとするための方策を講じ、実行に移す段階となった。自立的学習を促すともいうべき課題は、その答えとして実現する場をどこに求めるのか。利用者が学生であるということを踏まえ、大学図書館はいま大きな変容の可能性をもつ施設として、教育の場では期待されているのではないだろうか。今回紹介する3校の大学図書館は、昨年11月に開催された図書館総合展に初めて出展している。改革に踏み出し、これまでの取組の成果を示す機会と捉え、新たな展開を図るべく進化は続いている。

自らつくる学びの場
 大学図書館でも、ライブラリーサポーター制度を導入しているケースは多い。学生が能動的に図書館へ働きかけ、それを図書館ではサービスの改善に活かすこと、学生の自立的な学習意欲を喚起することといった効果を生みだし、そしてその結果として学生の満足度を高めることにもなる。サポーターの活動としては、学生による選書の取組である「選書ツアー」等が行われている。
 十文字学園女子大学図書館も、ライブラリーサポーターの制度を運用しているひとつだ。同館のライブラリーサポーターは昨年1月に学生6名で発足し、図書館への提案、図書テーマ特集の展示に参加、書店への選書ツアーを行ってきた。
 「サポーターである学生の知恵でこれからの大学図書館を創造するという過程は、学びの場を提供し、そこでの経験や達成感により学生時代に何かやったという思い出づくりにもなります」と語るのは同大図書・情報センター長の安達一寿教授。
 選書ツアーでは、毎回テーマを決めてサポーターが書店に出向き、選書した書籍を図書館で展示する。女子学生らしい手作りのPOPが添えられた展示コーナーは、同大図書館のカラーと言ってもいいだろう。
 「レビューなどを参考に書籍を手にする今の時代、学生は身近な人の“おすすめ”にまず関心を寄せるようです」と、展示が貸出にも一役買っている理由について、同大の石川敬史講師が語った。同大では司書課程との協働も特色の一つで、図書館見学や図書館内での展示を行っている。また「読書入門」のゼミがあり、もともと学生は読書好きが多いという素地がある。
 「学生数3000人規模ですが、アットホームな雰囲気で利用されています」と語る同大学術情報部部長の近藤秀二氏。
 授業などで図書館の活用が図られる中、「学習支援のための図書・情報、そして場がここにはあるということを大学全体、特に学生に印象付けたい」と述べる安達教授は、同大ならではの「ラーニングコモンズ」の姿を思い描いていた。
学生にもっと本を読んでもらいたい
 昨今、「ラーニングコモンズ」というキーワードで大学図書館が語られるが、図書館の一角にそのように呼ばれる学びの場を設けるのが一般的だろうか。自立的学習支援のために多目的に利用が出来るスペースを用意する。さて、ハコは用意できたが、そこを実際に学びの場として活用してもらうにはどうするか。
 帝京大学(八王子キャンパス)の図書館は2006年に「メディアライブラリーセンター」と呼称を変え、施設の充実化を図った。それから6年後の昨年、いよいよソフト面を強化するべく新たなプロジェクトを開始した。現在、帝京大学メディアライブラリーセンターでは、自立的学習支援をすすめるために全学規模での読書プログラムを実施している。
 「大学生はまず読書。一冊を読みきるという達成感を味わってほしい」と語るのは、同センターグループリーダーの中嶋康氏。
 同センターでは、これまでも学生の読書行動を喚起する取組を行ってはいたが、さらに貸出増を図るべく、また学生の学習時間、基礎学力の問題と絡めて、主体的な読書行動を活発化させる様々な仕組みを用意した。それが編集工学研究所と共同企画した「共読ライブラリー」。ここで提唱している「共読」とは、本を勧めたり、読み合わせたり、話し合う読書の形態だ。受講生がグループをつくり取り組む「読書術コースウェア」等で実践されている。
 同センターで運営管理を担当する中満恒子氏は「昨年から“共読”を核に主体的な読書行動の習慣化、学習基礎力の底上げ、学士力向上と情報編集の方法獲得をめざし、四年間のプログラムが組まれています」と説明する。
 中嶋氏は「“共読”は個々の自立的学習を可視化し、他者とつなげて循環・発展させていく仕組みとも言えます」と述べ、大学図書館として、多くの学生に読書の楽しさに気づいてもらい、足を運んでもらう仕組みを実践している。それはやがて全学的な学士力向上に向けた取組につながっていく。
利活用促進のため発信する大学図書館
 こうしてみると、学生に図書館を利用してもらうための取組の試行錯誤がうかがえる。学びの場として、インプットのための読書を手始めに、そしてさらに情報検索への要求を叶えるために。今や学術情報も電子化が進み、学生も教員もICTの活用が当たり前となり、大学図書館はあらゆる知の集積拠点としての存在感を増している。しかし一方で、検索の窓口は各人の手元にもあって、パソコンやスマートフォンといったメディアから即時に入手できる情報もある。情報検索、分析、そして発信といった現代に必要な情報リテラシーの教育は、大学図書館が担うべきという考え方に立って、新たな役割や機能が生み出されようとしている。
 青山学院大学図書館では昨年、学生を対象にデータベースを利用したコンテストの開催を試みた。AFP通信社のオンラインデータベースが収蔵するアーカイブ(著作物二次利用許諾済)から、テーマに合った写真と出来事を選んで雑誌記事(A4一枚)を作成するというものだ。購入してもなかなか利用が促進されないデータベースを、その存在と利用方法についてリテラシーを図る取組でもある。
 結果、51件が寄せられた。これらを、教職員と外部審査員で評価し、受賞作品をしぼる。受賞作品には講評がつけられた。コンテストを考案した同大の野末俊比古准教授は「学生にとって成果物を発信すること、それに対して評価を受けること、このことは学習動機になっているはず」と語る。完成に至るまでの時間、学生は創意工夫を重ね、オリジナルに仕上げるまで練りに練っている様子が浮かぶ。学生の成果物はすべて図書館に展示されていた。51件の作品は、同じ題材を取り上げたものでも、表現はやはり違う。
 「実は楽しい所ということを知ってもらいたい。そうやって学生参加型の図書館にしていきたい」と同大図書部運用課係長の西村 香氏は、明るく展望を語った。
 使わないともったいないものがたくさんある場所、でもある。情報を集積することに努めてきた姿から、発信する側へと移行していく。学生あっての大学図書館。学生が自ら学ぶ機会、時間と場を提供し、学生と共に創っていく新たな姿へと変貌していく。




コンテストによるデータベース活用促進の試み
  ―大学図書館における情報リテラシー教育の展開―


青山学院大学教育人間科学部准教授  野末俊比古

 手前味噌で恐縮だが、筆者が勤務する大学の図書館が実施した「『情報の探索と表現』コンテスト」は、「大」のつく成功であった。図書館界最大級のイベントである第14回図書館総合展(2012年11月20〜22日・パシフィコ横浜)のポスターセッションでコンテストについて発表したところ、優秀賞をいただいた(79点のなかから最優秀賞が1点、優秀賞が2点だったので、少なくとも3位に入ったことになる)。来場者の投票によって決まる賞なので、図書館関係者にコンテストを「いいね!」と言っていただいたと受け止めている。コンテストに参加した本学学生によるアンケートの結果も良好なものであった。コンテストにアドバイザー的な役割で関わった者としては、胸をなで下ろしている。
 コンテストの詳細については右記事を参照いただくとして、本稿ではコンテストの意義や成果を分析・整理してみたい。コンテストに興味・関心を持っていただいた他の図書館において同様の企画が実施されることも想定して、今後の可能性・方向性を含めて述べる。
データベースの利用
 大学図書館には現在、多くのデータベースが導入されている。文献情報を調べる、統計データを集める、ジャーナル論文を読むなど、教員(研究者)が研究を進めるときにはもちろんのこと、学生にとっても、授業の準備・発展学習、とりわけ論文やレポートの執筆にあたって、ときに不可欠なツールとなる。しかしながら、多くの図書館が悩んでいるとおり、せっかく有用な(しばしば高価な)データベースを契約しても、利用にはなかなか結びつかない。教員はともかく、図書館にどのようなデータベースがあるかをそもそも知らない学生は少なくない。データベースを利用すれば、優れたレポートが書けるといった「ご利益」があるのにもったいない。図書館は、チラシを作って学内で配布したり、ウェブサイトやメールで案内したり、説明会を開催したりして、広報に力を入れている。「卒論に役立つデータベース活用講座」といった講習会も実施している。こうした取り組みが実を結んでいる例は少なくないが、一方で、広報の効果が現れず、講習会に学生が集まらず、データベースの利用が伸びず、せっかくのデータベースを解約するケースもある。
 そこで、多くの図書館では、授業との連携を進めている。教員と協力して授業の一環として図書館による講習会を実施する。授業であるから、一定の動機づけが期待できる(強制的ともいえるが、後述するとおり、強制でもよいから、データベースを一度、使ってみることは有効である)。ただ、すべての授業に図書館が関わるわけにはいかない。また、授業を受講していない学生には機会が提供できない。
コンテストの実施
 知らない道具は使えない。どんな経緯でもかまわないので、ともかくデータベースを一度、体験してみれば、「こんなふうに使えるのか」「○○にも役立ちそうだ」と実感できる。授業には単位(成績)という目標があるとすると、コンテストには賞(賞品)という目標がある。今回は予算的な余裕がなかったので、コンテストで利用したデータベースの提供元(文化学園アカデミックアーカイブセンター)に協力を仰いで、グランプリの賞品としてiPadを用意し、代理店(紀伊國屋書店)からはグッズの提供を受けた(この場を借りて謝意を表する)。図書館では図書カードを用意した。正直に言うが、賞品を豪華・豊富にすれば、注目されて応募が増えると考えた。
 ふたを開けてみると、賞品以上に応募の動機として大きかったのは、作品を「発表」できること、審査員によって「評価」を受けることであった。昨今の学生は、FacebookやTwitterなどを使って日々、自分の文章や写真などを「発表」して、コメントなどの「評価」を得ている(Facebookの「いいね!」は典型だろう)が、基本的にはプライベートな範囲でのやりとりである。大学(図書館)というパブリックな場で、自分の作品を発表して評価を受けることは、学生にとって大いに魅力的な機会だったのである。コンテストの表彰式では、審査員から講評が伝えられた。賞状にも審査会での講評が記載された。これらが好評であった。受賞者のコメントからも、発表と評価の機会が得られた喜びが読み取れた。ちなみに、表彰式に参加した優秀賞受賞者は全員がすでにiPadを所有していた(もう1台ほしいとは思っていたようではあるが)。ただ一人、グランプリ受賞者だけがiPadを持っていなかった。
情報リテラシー教育
 今回、コンテストの応募期間にあわせて、提供元に協力を仰ぎ、データベースの説明会と相談会を数回、開催した。通常時だと参加者は多くて1〜2名、悪ければゼロだが、それぞれ数名程度の参加があった。コンテスト応募という目標があるため、充実した説明・相談ができた。
 説明会・相談会に参加しないで、自身でデータベースのアカウントを取得し、利用した学生もたくさんいた(新規アカウント作成数は跳ね上がり、アクセス数も目に見えて伸びた)。アカウント数・アクセス数から考える限り、課題に取り組んだものの最終的に応募しなかった学生も相当数に上る。そうした学生も含めて、作品づくりを通して、データベースを体験・理解してもらえたはずである。自分にとって有用・必要であると実感した学生は、今後も継続的に利用していくであろう。
 図書館としては、データベースの利用を増やすというねらいは達成できた。ただ、最終的には、学生がデータベースを利用して、学習・研究活動(さらにはクラブ活動や就職活動など)において「成果」を上げることこそが目標とすべきところである。データベースを活用できる能力、ひいては(図書館を通して)情報を活用する能力を習得・向上するための支援を図書館はめざしているのである。いわゆる情報リテラシー教育である。今回のコンテストも、データベースを利用した作品づくりを通して、レポート・論文に必要な情報探索・表現の技能を高めることを趣旨として掲げていた。むろん、どの程度の効果があったかについては、継続的な調査・分析が必要である。
今後の展開
 今回のコンテストでは、AFP通信社の取材記事(文章・写真・動画)を収録したオンラインデータベース「AFP World Academic Archive」(AFP-WAA)を利用した。使ってほしいと図書館が考えているデータベースはほかにもいろいろある。今回はAFP-WAAの特徴を踏まえて「写真を使って雑誌記事をつくる」という課題にしたが、特徴を活かした課題を設定することで他のデータベースを利用するコンテストも開催できる。例えば、雑誌記事ではなく新聞記事や広告記事・ポスターでもよいだろう。評論・論文などの作品を募集してもよい。数学・物理・歴史などの「問題」を、データベースを使って解くのもおもしろい。環境・ビジネスなどの社会問題の解決策を考えるのもやりがいがあるだろう。個人ではなくグループで取り組む、外国語で書く、口頭発表(プレゼン)を取り入れる、といった応用も考えられる。
 なお、コンテストに「誰でも参加できる」ということは、「参加しなくてもよい」ということでもある。コンテストについては前述のような工夫をすることで応募者をさらに集められるとは考えているが、コンテスト以外の方法でデータベースを利用する機会をつくることも考えたい。さらには、データベース以外にも図書館には有用ながら利用の伸びないツール(資料)がいろいろあるので、それらを利用する取り組みも検討したい。
 本学は総合大学であるので、今回は所属学部・学科にかかわらずに応募しやすい課題を選択した。小中規模の大学や短期大学であれば、学内の様子が把握しやすいだろうから、学生が興味・関心を抱き、適度なやりがいのある課題を設定できるのではないだろうか。賞品が豪華である必要は必ずしもない。
 本学の試みに意義があると思われたならば、ぜひ参考にして実践につなげていただきたい。成果をお互いに共有できるように、実践の結果はぜひ公表されることを期待したい。
 最後に、念のため、著作権について補足しておく。文章や写真などの著作物は、データベースに収録されたものであっても、自由に使うことは原則としてできない。AFP-WAAは、著作権上の許諾が予め与えられているため、写真を作品に取り込むことができた。他のデータベースの場合は、「引用」に留めるなど、著作権法上、許容される範囲の利用にするか、著作権者から許諾を得る必要がある。書誌データや統計データなどは、著作物ではないので、こうした問題は生じない。

Page Top