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平成25年1月 第2508号(1月1日)

知的資源を活かし復興人材を育成する“復興大学”の取組み


〈事業代表〉沢田康次 東北工業大学学長

 一昨年3月に発生した東日本大震災の復旧・復興に向けて、宮城県内の大学、短期大学等が手をつなぎ、持てる知見や技術などを活用する『復興大学』の取り組みが進められている。復興大学は同県内の21国公私立大学、短期大学等で構成する『学都仙台コンソーシアム』が企画したもので、「復興人材育成コース」「教育復興支援」「地域復興支援ワンストップサービス」「災害ボランティアステーション」の四事業が進められている。同事業代表の沢田康次東北工業大学学長に「この1年の活動」について寄稿いただいた。(24年12月)

 東北地方の太平洋沿岸一帯を襲った巨大地震・津波は多くの尊い人命と人の繋がりを奪い去り、かろうじて助かった人々の多くも、心から喜べる時間が将来に訪れることがあるのだろうかという不安が続いている。この出来事は、既存の組織・考え方の根底を揺さぶり液状化現象をもたらしている。教育改革が叫ばれているさなかに起きたこの出来事は、大学はどうあるべきか、教育はどうあるべきかを問いかけた。宮城県には大学の数が多く、仙台地域を学都として地域発展に貢献するため「学都仙台コンソーシアム」が組織されていた。この組織の力をベースに、県内21の国公私立大学・短期大学・高専の人的および知的資源をネットワークで結び「復興大学」(本部事務局キ酷喧k工業大学)を設立し、次の四事業を行ってきた。
 また、「シンポジウムキ高「ま仙台で学ぶことの意義」(9月2日)、静岡県議会議員による「復興大学」見学(10月18日)、ASEAN諸国等の高校生・大学生「絆プロジェクト」の「復興大学」受講(10月27日)、全国生涯学習ネットワークフォーラム2012宮城分科会「つながりを持った教育復興、復興教育と地域創造」(11月3日)、「シンポジウムキ告lと社会の脆さと大学生ボランティアの意義」(12月14日)など復興大学の活動状況を発信している。
平常時においては、コミュニティーを構成する人々は共通の価値観を共有していることが当然で、この地域の文化と呼ぶべきものは住民のアイデンティティーであり、堅固なものと考えられている。その構成員の多くの命が失われ、長年大切に手入れをしてきた住まいの多くが跡形もなく流されてしまったコミュニティーの再現を復興と呼ぶなら、それをコミュニティー外の人が希望することさえどんなに現実離れしていることか? 復興をreconstructionなどの即物的な言葉に訳さないで、私たちの言葉で、私たちの文化で外国の人には説明しなければならない。上記ASEANの学生たちも復興大学で受講した時は、その意味を理解できないようであったが、帰国直前の報告会で「分かった?」と聞くとにっこり頷いてくれたのはうれしかった。
 この「復興大学」が、地域の復興にどれだけ貢献できるのだろうかという不安は付きまとう。しかし今後、本誌読者のご協力を得て、東北地方の他県、東北以外の組織とも更なる連携を強め前進したい。

復興人材育成教育コース
事務組織 東北大学

 「復興人材育成教育コース」は、地域の復興に関わりつつ学ぶことにより、コースを修了して大学卒業後には、地域の復興支援さらには、グローバル化時代における日本社会全体の新生を担うリーダーとして活躍できる人材を育成することを目指す。
 「求ム、復興リーダー2012」をスローガンに受講学生を募集し、学都仙台コンソーシアム加盟大学から定員(30名)を上回る48名の出願があり、志願者の多くは3.11東日本大震災を体験しており、『復興について学びたい』『自分ができることは何か』『被災地のために…』等々、ひたむきな思いが伝わる志望の理由であった。その中から9大学42名の受講生を選考し、「復興人材育成教育コース」が5月12日(土)にスタートした。
 本コースは、復興の思想から政治学、経済学、社会学、生活構築および科学技術までの普遍的かつ応用可能な幅広い教育内容を持つ6科目で編成している。人間・社会・技術などに関する重要テーマの基本的素養と広い視野を育成するとともに、座学のみでなく現場でのフィールドワーク、学生同士の議論等を採り入れる中で、社会の諸課題に主体的に取り組む姿勢をも涵養することを目標に取り組んでいる。全科目合格者には「復興大学修了証」を与え、今後の復興支援活動に役立ててもらう。教室は仙台駅から至近距離の会場を確保し、各大学の通常授業に支障の少ない週末(土、日)あるいは夏季休業中等に開講している。
 「学生による授業評価」を全科目で実施し、多くの学生から「満足している」との評価を得ているが、より良い授業とするために、授業担当教員アンケートも実施し、次年度以降のカリキュラムに反映することにしている。
 また、昨年度は一般市民向け公開講座を学都仙台コンソーシアムで開講するサテライトキャンパス「講座仙台学」の枠を活用し実施したが、今年度は本コースの授業のエッセンスを取り込んだ「復興大学公開講座」として、平成25年2月9日(土)、16日(土)、23日(土)の三週にわたり計6講座(各定員100名)を開講する。来年度以降も基本的には今年度の事業を継承・発展させながら、一般市民向けにも公開講座等を積極的に開講していくことにしている。

教育復興支援
事務組織 宮城教育大学

 教育復興支援事業は、東日本大震災で甚大な被害を被った宮城県の教育復興に向け、県内の児童・生徒の確かな学力の定着・向上及び現職教員の支援を中・長期的視点に立って実施することを目的としている。支援にあたっては、宮城県教育委員会及び仙台市教育委員会等との連携のもと、学都仙台コンソーシアム加盟大学、全国の教員養成系大学・学部とも連携・協働しながら取り組んでいる。
 今年度は、@教育復興支援塾事業として、学生ボランティアを活用した、サマースクール等での自学自習支援、補習学習の実施、A教員補助事業として、通常授業や学校行事での教員補助活動、図書館の書籍整理などの教育環境整備の補助、B教員研修等事業として、フォーラムや公開講座などの研修会の実施・協力、C子ども対象・参加イベント事業として、サマーキャンプや地域交流イベントへの協力、総合学習の支援や特別授業の実施、などを行った。
 一方、震災から1年10か月が経過して、被災地の現状や支援ニーズにも変化がみられ、それらを踏まえてどのように対応していくかが課題となっている。一つには、学生ボランティアについて、教育現場からの要望も継続的で多様な学習支援を望んでいるが、支援人員確保の困難さがみられ、このような課題に対する方策も講じながら支援体制を拡充していく必要がある。
 今後の展開としては、現在の支援活動を継続するとともに、教育現場における震災復興の経緯をまとめ、記録化していくことも大切であると考えている。現在、仙台市小中学校長会と連携し、教科・道徳・特別活動などの学習教材の開発的実践例を整理・収集したり、被災学校の対応やその後の取り組みをまとめている。併せて、被災地域における教育問題の実態把握と実態分析、教育指導や学校経営等の問題改善に向けた方法論やその検証・研究について取り組んでいきたいと思っている。

地域復興支援ワンストップサービス
仙台センター
事務組織 東北工業大学

 ワンストップサービスのプラットフォームを仙台駅至近距離に設置。コーディネータやアドバイザーによる地域企業・関係機関の巡回訪問を現在まで約350社実施し、現状把握や課題抽出を行い、課題解決に向けた大学教員や支援機関とのマッチングを図っている。
 短期課題の対応としては、産学官連携、産産連携を図り課題解決に向けての迅速対応を目指し、中長期課題では、課題となるテーマの絞り込み、各大学・高専との共同研究・共同プロジェクト活動支援を行っている。また、復興人材の育成のため学生に対する被災地域や企業の現場視察・研修を実施し、さらに外部資金導入支援としてJST復興促進プログラムなどを支援している。学術機関とのマッチング例としては、@水産加工地区の地盤沈下対策、A製造技術改良改善に関わる外部資金導入支援(数社)、B水産加工業グループの研修事業支援等を行っている。
 また、中長期視点で活動している主なプロジェクトとして、@雄勝硯生産販売協同組合支援プロジェクト、A食文化を考えるプロジェクト、B構造物点検システム製作プロジェクト、などの活動を行っている。

地域復興支援ワンストップサービス
石巻センター
事務組織 石巻専修大学

 復興大学石巻センターは東日本大震災で甚大な被害が発生した石巻圏域の復興支援のワンストップサービスプラットフォームとして、石巻市役所庁舎内にオフィスを構えている。地域に密着したコーディネータ六名が、被災企業に出向き、あるいはオフィス窓口で、潜在する課題を掘り起こし、石巻専修大学だけでなく学都仙台コンソーシアムの専門家との橋渡しに努めている。今年度は、水産業を中心とした電力問題(災害時停電対策・省電力技術・新エネルギー導入)の調査や新技術提案、地域の労働人口減少傾向や震災後の雇用状況変化への外国人研修生の活用紹介、大学などの研究開発機関におけるシルバー人材活用提案、テレワークの活用による地域外のCAD技術活用の斡旋など、復興に寄与できる活動を行った。
 特に被災企業では協業化推進のために、主婦や高齢者などが帳簿の管理の戦力となることが期待されている。そこで、市民、特に女性や高齢者を対象に、街中の信用金庫などを会場にして、BHNテレコム協議会との協働で、25回にわたって継続したICTオープンカレッジを開催した。約50名の受講者が、タブレットやパソコンの応用技術を習得した。来年以降は、彼らがアシスタントとなって、活動を更に広げる出前ICTカレッジの実施を検討している。

災害ボランティアステーション
事務組織 東北学院大学 尚絅学院大学

 復興大学災害ボランティアステーションでは、被災地支援活動における支援者と需要者間のミスマッチを低減し、東日本大震災における被災地域への継続的で集約的な支援の実現と、今後他地域で起こりうる大規模災害への対応及び防災への取り組みも視野に入れた、地域内連携及び地域間連携のネットワーク構築に取り組んでいる。
 これまでの具体的な取り組みとして、東北学院大学では、学生とボランティアニーズを適切に結びつけるマッチングシステムの開発を行っている。県内大学等の学生・教職員へ向けたボランティア情報サイトを運営し、外部の活動の主体となる団体からの募集情報を中継している。ボランティア依頼件数は182件、5103名あり、参加件数は45件、518名(:参加件数は事務局を経由してボランティアに参加した数である)であった。
 次に、学生・教職員を対象とした共同研修プログラムの開発・実施の一環として、11月10日(土)から12月15日(土)までの毎週土曜日、全六講義による災害ボランティアスキルアップセミナー「復興期における災害ボランティアを考える」を開講した。
 また、地域内連携のネットワーク体制の充実を目指し、各校の学生ボランティア及びボランティア担当職員を招き、宮城県社会福祉協議会と仙台市社会福祉協議会の協力も得て、10月から月例懇話会(第1回、第2回)を開催している。また最近、借り上げ民間賃貸住宅での避難生活者への支援として、地域内大学等による共同プログラムの準備を仙台市社会福祉協議会中核支えあいセンターの理解と協力を得ながら、サロン活動への取り組みを中心として始めている。
 今後の展望としては、現在まで本事業で用意してきたマッチングシステムや懇話会といった資源を、それらの間のより効果的な連動を図り、時間の経過による風化および復興期の新たなニーズへの対応といった、大学でのボランティア活動における問題解決のツールとしても機能させる必要があると考えている。
 尚絅学院大学においては、東北学院大学と連携しながら前記活動の推進を担っている。また、独自の活動としては、宮城県南部の被災地域を中心に支援活動を行っており、各仮設住宅において学生、同窓生、他大学やNPO団体などと連携した寄り添い支援や自立のための支援活動、みなし仮設に住む被災者への支援や福島から避難されている方への支援活動を行っている。また支援の活動に参加する方のための学習会も併せて実施している。時間の経過と共に被災者への支援のあり方に変化が見られるようになってきたので、自立に向けた、的確な支援が出来るよう関係各方面と連携を密にした活動に取り組んでいる。
 なお、ボランティア依頼件数は86件、394名あり、参加件数は40件、186名(注:参加件数は事務局を経由してボランティアに参加した数である)である。



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