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平成24年11月 第2504号(11月21日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <32>
 地域人材育成を核に定員充足
 美作大学



 美作大学は、1915年に、地域の教育界の有志により津山高等裁縫学校として創設。1967年に美作女子大学を開学、2003年に共学化して美作大学となった。『サンデー毎日』(2011年9月11日号)のランキングでは、「小規模だが評価できる大学」全国16位など、中四国の私立大学では唯一のランクインでまさに小規模だが個性輝く大学だ。これまでの取り組みについて鵜崎 実広報部長・食物学科長、片山学事務局長、松岡信義学生・就職部長・教授に話を聞いた。
 『オォオォ保育士、社会福祉士、管理栄養士、教師、美作大学オォオォ』という十数秒のフレーズは、中四国や沖縄に住んでいれば、知らない人がいないとさえ言われる有名なテレビCMである。10年程前からフレーズは変えずに映像を変えつつ、繰り返し流してきた結果だ。
 「高校からは、『卒業生が見違えるようになって戻ってくる』と評判はよかったのです。問題は知名度でした。そもそも「美作(みまさか)」が読めなかったり、場所が分からなかったり。そこで、2000年くらいから、テレビCMを流そうと決めました」と鵜崎広報部長。どのTV番組のどのスポットで流すか熱心に分析した。その後、「日経BPコンサルティング」の大学ブランド・イメージ調査2011―2012」では中四国で「広報活動に力を入れている大学」で1位に輝いた。
 2009年に発足した進学支援特待生制度は、成績優秀だが経済的に困難で進学できない学生を支援するもの。「約30名の学費25〜50万円を減免、女子寮舎費は無料。地域で頑張る学生を育てて、地域を豊かにすることに徹することが大学のアイデンティティで、この制度はその表れです。毎年、多くの学生に活用してもらっています」と片山事務局長。
 社会福祉士合格率2009、10年度全国私大2位、2011年度管理栄養士は中四国私大で1位。就職先も、病院や公務員と、地方ではステータスの高い職種が多く、各学科の専門職求人数も昨年は過去最高となった。この実績は更に優秀な学生を集める呼び水ともなる。学生募集や実習指導でのきめ細かい訪問活動に加え、夏休みに全教員が一丸となって取り組む就職先開拓など、不断の努力もしている。現場経験をもつ教員も多く、教育熱心。各学科の教育の目標については、学科長が責任を持つ。
 職員も学科を超えて学生情報を管理し、問題がある学生がいれば担任(教員)と情報を共有して学生の支援に当たる。就職支援では、卒業年次の学生と各学科の就職委員及び担任とが就職支援室を配信元とする求人等の就職関係情報を共有し、メールや電話によって緊密に連絡を取り合っている。「教職員の連携こそが最大の学生支援です。こうして実績を作ることで、地域の大学としての評価を高めることができます」と松岡教授。
 津山や美作地域に留まらず、広く地域社会を支える人材の養成の視野から取り組む。島根、高知、沖縄など、広域からも入学する。「自宅から近いから大学を選ぶ」のではなく、将来に明確な目標を持って、わざわざこの地に教育を受けに来る前向きで強いモチベーションがあるから、学生たちの学習意欲は高く、打てば響く。こうした緊張感の中で、教員も熱心に教育の質を高めようとする。「学生も教職員も家族的で一生懸命。これが大学の生命線です」と松岡教授は続ける。
 地域との連携では、日本私立大学協会の「地域共創」協議会において過去に講演をさせて頂いたこともあるように、地元産物を用いたラーメンやお茶などの加工食品であるつやま夢みのり、ユニバーサルデザインを取り入れた繊維製品を地域企業と共同で開発するなど非常に活発である。また、地域や高校に講師として派遣されることも多い。
 こうした強さはどこからくるのか。「大学の風土としか言えません。リーダーが方針を決め、戦略を立てて、その通りに動いているのではなく、「地域の若者を育成する」という大きなコンセンサスがあって、各自が判断して動いています。例えば、学科の名称変更等も現場から出てきます」。大学の中核に位置する「経営会議」が週に一度開催され、あらゆる問題が議論されてはいるが、そこは決定機関ではなくコンセンサスを得るための合議機関。教職員、学生一人一人の意欲が高いのであれば、教員の自主的な創意工夫を見守るゆとりある組織運営も大学の「個性」となっている。まさに小規模だからこその全員経営。熱意ある教育と、冷静な分析による広報戦略の両輪が小粒だがピリリと辛い存在感を放っている。

熱意ある教育が作りだす全国トップレベルの教育成果
日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫

 美作大学を訪れた日、登校してくる学生たちは皆ゆかた姿。聞くと学生が自主的に決めたゆかた登校日とのこと。前夜は学生企画による七夕祭りを開催、年間を通じて大学祭だけでなく、ハロウィンやイルミネーション点灯式等、学生の力だけで実行する自主活動が極めて盛んだ。この活動的な素地のある学生を育て上げ、地方にありながら面倒見の良い熱心な教育で全国トップレベルの教育成果を作り出す。
 社会福祉士合格率は、2009年、10年の2年連続全国2位、昨年は28位に落ちたが中四国ではトップ、管理栄養士も97.4%で中四国一の成績だ。上述の『サンデー毎日』の特集「進路指導教員が勧める大学はここだ」では、「小規模だが評価できる大学」16位、「面倒見が良い大学」30位、「偏差値や地理的、経済的制約が無い場合生徒に進めたい大学」29位と、地方大学では抜群の評価を得た。
 その背後には並大抵ではない教職員の努力がある。例えば社会福祉士国家資格の受験対策では、試験対策講座を少人数グループで編成、合宿も行い教員は指導の傍ら食事も作る。初詣は全員で合格祈願、教員からはおせちやお餅の差し入れがあり、直前には総決起大会も開いて徹底的に学生を励まし、きめ細かい学習指導を行う。
 もともと学生は目標が鮮明、資格を取って地元に貢献しようという意欲の強い層が集まる。そして教員の熱心さも半端ではない。大学は地域の篤志家が集まり設立、在校生も卒業生も住民も大学も、地域一体で暮らす津山の環境の中で培われてきたのが、地域から預かった大切な子どもを手抜きしないで育てること。小集団で学生の名前と顔は全教員が熟知していることも親身な教育を生む大きな要因だ。献身的な教育姿勢は強い伝統となり、先輩教員から新人へ受け継がれむしろ強化されてきた。むろん危機意識は浸透している。他と同じことをしていたのでは、この立地では学生が集まらないことも分かっている。それが熱心さに拍車をかける。
 こうした教育を支える組織も動いてはいる。国試対策関係者協議会、教員採用対策協議会、授業運営情報交換会では、ゼミの持ち方や担任の指導に関ってきめ細かな情報交換や議論を行う。しかし組織で決めるから動いている訳ではない。まず熱心な取り組みがあり、それを発展させるために組織があると言った方が良さそうだ。
 広報・学生募集分野も優れた取組みが多い。知名度を上げるためにTVコマーシャルで学科・大学名を歌にして流す。優れているのは10年以上同じ曲を形を変えて流していること。今や幼稚園児までもが口ずさみ、大学名は自然に浸透する。
 高校巡回は500校を年3回まわる。お土産は大学名入りの煎餅で一個一個に名前が入っている。これも10年近く続け、大学名を印象付ける。しかし『サンデー毎日』に見る進路指導教員に評価が高いのはこうした活動にあるのではない。那覇西高校の先生が言うように「美作の説明は他大学と全く違う」「在校生、卒業生の把握の質の高さ」は群を抜いており、面倒見の良さが実質を伴っていることにある。
 人口減少もあり地元だけでは定員が集められない。徹底した募集活動と共に就職実績を上げる取組みを展開し、栄養教諭では沖縄県内全採用数13名のうち5名を占有するなど目に見える成果を作り出して広報する。沖縄出身学生はコンスタントに100〜150人(全学生の1割強を占める)に達する。
 就職率は大学全体でも97.1%と全国トップクラスで、「美作の奇跡」と自認するが、不況に強い職種であることに加え卒業生の評価が高く、また親身な指導で本当の実力をつけ果敢に高い資格や就職にチャレンジし続けた活動の積み重ねの成果である。地方は経済的に苦しい学生が多く、授業料を大幅に減免する進学支援特待制度をつくり1割の学生を採用する。
 こうした取り組みの進め方について書かれた方針はあるにはある。しかし方針があるから動く訳でもない。役職についた者が各持ち場、持ち場の仕事に熱心に取り組む。従って大学全体を動かす経営会議を筆頭に会議はいつも激論、本音でぶつかり徹底討論の上一致する。これも教育熱心さゆえで、後を引くことはない。理事長の前向きでおおらかな調整力も皆の力を一つに束ねる。
 「みまさかまさか」は広報で良く使うフレーズだ。この「まさか」の奇跡を熱心な教育で現実化させ巧みに広報することで、地方にありながら優れた評判、評価を作り出し、定員割れから、ここ2年、全学科定員充足という大きな成果を作り出している。



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