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教育学術オンライン

平成24年11月 第2503号(11月14日)

大学は往く 新しい学園像を求めて〈59〉
  学生の夢を実現させたい
  社会貢献に学生が奮闘 「学際教育」に力を傾注
  神戸学院大学

  「後世に残る大学」がモットー。神戸学院大学(岡田豊基学長、兵庫県神戸市西区)は、「自主的で個性豊かな良識ある社会人の育成」が教育目標だ。1966年、建学の精神「真理愛好・個性尊重」の下、栄養学部単科の大学として開学。その後、法・経済・薬・人文・経営・総合リハビリテーションの学部を設立、現在では、7学部8大学院、学生数1万人を超す総合大学となった。共通教育機構、防災・社会貢献やスポーツマネジメントを学ぶ学際教育機構といった同大学独自の教育システムが特長だ。2007年、神戸のウオーターフロントに明るく開放的なポートアイランドキャンパスを開設。今年、法人創立100年を迎えた。「『元気な大学』でありたい。学生・教職員が互いに尊重しあい、学生の『夢』を実現させたい」と語る学長に、大学の歩みとこれからを尋ねた。
(文中敬称略)

今年が法人創立100周年  後世に残る大学へ

 神戸学院大学は、校祖・森わさが1912年に創立した森裁縫女学校が淵源だ。大学を設立したのは、わさの長男、森茂樹。茂樹は、京都大学医学部で病理学を専攻、世界的に著名な体質医学の権威。「後世に残る大学をつくりたい」と大学を創設、初代学長になった。
 学長の岡田が大学を語る。「初代学長は、国立大学にないユニークな総合大学を念願していました。その理念は孔子が説いた智(知:wisdom)と仁(benevolence)の遺訓であり、双方の調和のとれた人間形成を目指しています」。
森の遺志を受け継ぐように続けた。「グローバルな視野に立ち、高度な学理の修得が目標です。研究の実践を図ることのできる積極的、創造的、そして国際的な、21世紀に開花する人材を育てていきたい」。
 1966年、神戸・有瀬に栄養学部(男女共学)単科の大学として開学。67年、法学部・経済学部、72年、薬学部、90年、人文学部、2004年、経営学部、05年、総合リハビリテーション学部を設置。
現在、7学部8大学院、学生数1万351人。有瀬キャンパスでは、法学部・経済学部・経営学部の1・2年次、人文学部・総合リハビリテーション学部・栄養学部の全学年の学生が、ポートアイランドキャンパスでは、法学部・経済学部・経営学部の3・4年次、薬学部の全学年の学生が学ぶ。
 神戸学院大学を語るうえで、1995年の阪神・淡路大震災は外せない。「目の前にある明石大橋の対岸の淡路島北部が震源地で、大学の施設も被害を受けました」。
 有瀬キャンパスに大時計(直径6メートル20センチ、重さ約4トン)がある。
 震災で損傷し、地震発生時刻である午前5時46分を指したまま止まっていた明石市立天文科学館の大時計を引き取った。「この大時計を動かしてこそ『復興のシンボル』になり得る」と、時計メーカーのセイコーに修理を依頼、1997年3月5日、学内に設置した。
 「天文科学館の三代目大時計が稼動するまでの約10か月間は、この時計が日本標準時を刻みました。今も『復興のシンボル』としてキャンパスに静かに時を刻み続けています」
 阪神・淡路大震災の経験から、防災に関する研究・啓発活動やボランティア活動などの社会貢献に力を入れる。東北福祉大学、工学院大学と「TKK三大学協定」を結び、防災・社会貢献に資する人材育成を目指すことにした。
 協定締結の2年後に東日本大震災が起きた。発生翌日に震災災害支援対策本部を設置。「情報収集を行うとともに、学生らが教職員とともに被災地に向かい、支援活動に取り組みました」。
 たまたま東北福祉大学の学生が関西旅行に来ていた。「彼らの安否を東北福祉大に報告するとともに宿泊先を用意しました。阪神・淡路大震災を経験した大学として“心の絆”でもって支援できるのは本学の誇りです」。
地域社会との交流も活発だ。神戸市西区や明石市と連携協力協定締結。商店街の活性化や住民の健康増進などの研究や活動を行う。「土曜公開講座」、様々な舞台芸術を公開する「グリーンフェスティバル」などは地域住民に開放している。
 共通教育機構と学際教育機構について。共通教育機構は、学部組織とは別に学部横断型の教育を行う。「学部での専門教育に加え、共通教育機構では、総合大学としての強みを生かして、リテラシーやリベラル・アーツに配慮した教育を実施しています」。
 学際教育機構は、法学部・経済学部・経営学部・人文学部の枠組みを超えた同大学独自の教育システム。二年次から、所属学部の専門領域以外に防災・社会貢献とスポーツマネジメントのいずれかのユニットを選択する。
 「学際教育機構は、やはり阪神・淡路大震災の経験から設置しました。防災を柱に社会貢献をしたい、それを学生に還元できないものか、と検討。防災・社会貢献とスポーツ分野を学び、実習や研修を通して社会との接触を密にしています。学生のモチベーションが高まります」。
 また、アクティブラーニングを積極的に展開する。その一つがキャリア教育。2010年度文部科学省に採択された「大学生の就業力育成支援事業」を機に、全学共通のプログラム構築に取り組む。今年度から共通教育科目内に新たに就業力講座として五つのキャリア科目を開講している。
 「入学時、何を意識して勉強すべきか分からない学生もいます。キャリア教育で大学の学びと社会をリンクさせ、キャリアデザインが形成できるよう、全学あげてサポートしています」。
 さらに、充実した資格教育を実施している。数十種類に及ぶ資格・検定や公務員試験対策の課外講座を開設。「就活塾」を設けて個人指導も強化した。同窓会との絆も就業力を高めている。「同窓会が連携講座を開設、卒業生が客員教授になって業界の動向や就職活動のアドバイスをしてくれています」。
 理学療法士国家試験・作業療法士国家試験(総合リハビリテーション学部)、管理栄養士国家試験・臨床検査技師国家試験(栄養学部)、薬剤師国家試験(薬学部)の合格率は全国トップクラスを誇る。中学・高校の教員免許に加え、神戸親和女子大学との提携で小学校教諭一種免許も取得できる。
 「元気な大学」を掲げる同大学は、課外活動も活発だ。体育会や文化会など60を超える団体がある。硬式野球部、軟式野球部、女子駅伝競走部、ソフトボール部、バレーボール部、硬式テニス部、吹奏楽部などが強豪だ。
 法人創立100周年。そして、卒業生である西本誠實(にしもと・せいみ)氏が理事長に就任。「大きな節目なので起爆剤にしたい。大学が変貌する、絶好のチャンス。大学の変わる姿を発信し続けたい」。具体的には?と聞いた。
 「両キャンパスのバランスの取れた再編整備、新学部の設置を考えています。研究の成果をあげ、教育を充実させるのがねらいです。また、『女性プロジェクト』を設け、女性の視点から見た大学のあり方を検討しています」。
 大学のこれからについて。「『後世に残る大学』として、『夢』を実現できる大学、仲間と『感動』を共有できる大学でありたい。学生にものごとを知る喜びを味あわせ、『夢』を実現させるため、われわれ教職員は誠心誠意尽くしていきたい」。
 初代学長の目指した「後世に残る大学」は、この現学長の言葉が象徴するように、現在(いま)も確実に継承されている。これほど、創立者の思いを受け継いでいる大学は稀有(けう)だし貴重だ。「大時計」の話もそうだが、もっと自慢していい。


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