平成24年11月 第2502号(11月7日)
■改革の現場
ミドルのリーダーシップ <30>
連続的な学部新設で基盤強化
淑徳大学
淑徳大学は、1965年、大乗淑徳学園の当時の理事長であり浄土宗大巌寺の住職でもあった長谷川良信氏により、社会福祉学部社会福祉学科を設置する単科大学として創立した。現在は、千葉(総合福祉学部、コミュニティ政策学部)、千葉第二(看護栄養学部)、埼玉みずほ台(国際コミュニケーション学部、経営学部)の三キャンパスを有し、中でもコミュニティ政策学部は、サービスラーニング等の先進的な教育手法を導入し、成果を挙げている。近年の学部改革のプロセスについて、足立 叡副学長、西塚 洋大学事務局長、桜井清吉郎千葉事務局長、津野實夫埼玉みずほ台キャンパス事務局長、長澤正志看護栄養学部事務部長に聞いた。
矢継ぎ早の学部学科改編の背景について足立副学長はこう振り返る。「2003年、理事長から「淑徳大学の改革の方向性と近未来へのいくつかの課題」と題した提起書が各教職員に配られました。18歳人口の減少を背景に、学生中心の教育改革などビジョンの明確化や大きな方向性が示されました。これを受け、学長から改革の検討会を開くように呼びかけがあり、最終的には「高等教育部門の将来構想について」と題した報告書が2009年に提出されました。「学部学科の名称変更では何も変わらない。教育自体を見直さなければならない」ということで、コミュニティ政策学部構想もここから生まれました。ここが改革の転換点でした」。
看護学部は、地元の看護専門学校が廃止となった際に、設置母体である国立病院機構千葉東病院から持ちかけられたもので、いわば、想定外の設置だったが、元々文系的な社会福祉学部の文化に新しい風を吹き込んだ。長澤部長は「教員たちのチーム教育は新鮮でした。教育自体に非常に熱心で、FDも一歩も二歩も先に進んでいました。既存学部に参考になることがたくさんありました」と述べる。このような新しい教育手法等を全体に浸透させるには、まずは導入可能な学部から先行して実施。良い評価が出れば、順次他学部にも検討してもらう。新学部設置とそれによる新しい文化の創出が既存学部に刺激を与え、大学全体の教育改革を推し進めている。
コミュニティ政策学部はその象徴でもある。「学生中心の教育改革について、新しい試みはこの学部で行うことにしました。中でもサービスラーニングを重視し、社会での体験活動により学生の成長を促しています。一年生は施設見学等がメインで、学習への動機付けとともに、自分に足りない知識や能力を実感して学習へと繋げます。3年次では事例研究を行い、4年次は学生自らがワークショップを行う等、実社会の中で実践的な活動をします。近隣のお祭りの手伝い、企業・行政と連携したプロジェクトの実施、地元の野球球団の運営に参加、学生による千葉市の消防団を組織したりしています」と西塚大学事務局長。長年掲げる「福祉」を大きい意味で捉え直し、地域の活動として展開する。建学の精神と中教審答申をコミュニティ政策学部が繋いだ形だ。
中期計画は、なんと30年前に民間出身の理事長が導入しており、現在では、中期経営計画と名称を変えて運用されている。「4年先の法人としての方針を毎年示し、具体的な事業や取り組みは、各キャンパスで自由に決めます。キャンパスは場所が離れており、風土も文化も異なりますから、それぞれにあった形での経営を行います。全体に関わることは大学改革室が調整しますが、日常的な教育・運営上の創意工夫は各キャンパス長の裁量に任せられています。基本的には学長か副学長が各学部教授会に出席するので、法人と各学部の齟齬がでる、ということはありません」。改革方針は法人のトップダウンであるが、十分なコミュニケーションが担保されている。こうした経営体制がこれまでの矢継ぎ早の学部改組などを実現したと言えよう。
職員の人事評価制度の導入も1994年と早く、SDと個人の目標設定、人事考課が全て一体となっていることが特徴だ。「人事評価制度は、人材育成を目的としています。いかに職員の職能を高め、生きがいを持って仕事をしてもらうかに焦点化されています」と西塚局長は述べる。この導入が職員の能力を押し上げ教職協働の機運を高めるという結果にもなっている。同大学では、1990年代前半に、全職員をアメリカ大学視察に送ったが、この試みが刺激となり、人事評価制度の早い導入等を促してきたと考えられる。
互いに文化の異なるキャンパスの試行錯誤が他キャンパスを刺激する。無理に足並みを揃えさせるのではなく、互いに高めあう仕組みは、スマートなボトムアップ型大学経営であると言える。
中期経営計画と目標による評価システム構築で改革推進
日本福祉大学常任理事/桜美林大学教授 篠田道夫
淑徳大学はここ数年急ピッチで学部の改組・新設を進める。3年で四つの学部・学科を立ち上げるなどそのスピードの速さは際立っている。2007年に看護学部を新設、ここから連続して08年通信教育部、10年コミュニティ政策学部、11年教育福祉学科、12年栄養学科(学部名称を看護栄養へ)、同年経営学部(経営学科・観光経営学科)を立ち上げ、13年には教育学部開設を予定、これ以降も学部新設を構想する。ただ定員規模は新設の看護以外は大きな増員はなく現行規模での再編である。
改革の背景には、志願者の減少傾向、福祉への風当たりの強さもあるが、時代のニーズに合った学部への進化、福祉を核とした幅広い需要に応え変化していかねば社会の期待に応えられないという強い思いがある。
淑徳大学には、30年以上前から中期計画があり、現在の中期経営計画になったのも1996年と古い。
しかし大学の成長期には役割や効果がはっきりしなかった計画に基づく運営も、厳しい環境の中で転機が訪れる。
それは2003年、上述した長谷川匡俊理事長の提起書である。これまでの右肩上がりの成長の中での危機意識の希薄さ、学部あって大学なしの状況、腰を据えた本格改革の欠如を指摘し、改めて学園の経営ビジョンの明確化、教員中心から学生中心への根本的転換を訴えた。30頁に及ぶこの提起は、改革の必要性、教育、学生支援、募集、財政の構造改革を求める本格的なもの。その後の中期経営計画はこの実現にシフトすることで全学改革の柱となり、ここで述べられている第三の学部構想も急速に現実化していく。
現在の中期経営計画は、毎年見直し修正され年度末の理事会で決定の上、毎回4か年計画として提示される。定員未充足部門や目標未達成の指摘から始まる厳しい内容で、重点目標として例えば学生生徒数確保目標、教職員の人員計画・人件費計画、財務計画、施設・設備計画等が提示される。これを基に学園設置の大学、短大、3高校、3中学、小学校、2幼稚園、日本語学校、特別養護老人ホーム等六つの付属施設全体の運営方針、教育方針、改善方針が、現状説明(取組状況)、点検評価及び問題点、今後取組む課題等も含めまとめられており130頁に及ぶ。設置校が多いだけにあらゆる活動の基本軸を常にはっきりさせる。
では学部改組・新設を含む数年にわたる改革のグランドデザインはどこが描くのか。中核はやはり理事会の下に7名の学内理事で構成される常務会であり、時々に「大学の将来計画委員会」等のチームを置き、提言や答申を取りまとめ改革の大きな流れを作り出す。それを実務上担うのが法人の高等教育改革室であり、学長直轄の大学改革室である。事務組織ながら学園中枢の将来計画作りに重要な役割を果たす。看護学部などの新分野は法人主導で出来る。しかし既存学部の改組、新設は学内議論が重要で、学長、副学長、学部長、大学事務局長、キャンパス事務局長などで構成される大学協議会で良く練った上で各学部の議論に付す。この協議会も職員幹部が多く正式構成員で参画する。思い切った改組提案に対して学部ではいろいろな意見が出るが、学長、副学長のどちらかが学部教授会にはほぼ毎回出席し丁寧な説明を繰り返す。
学部新設と並行して教育の充実、特色化にも取り組む。コミュニティ政策学部のサービスラーニングを組み込んだ教育システムは先進的だ。専門のセンターをつくって運営する。「自立学習シート」で学生自身に目標を記載させ、振り返りシートで反省しながら成長を促す仕組みも優れている。
計画を推進するには目標が教職員個々の教育や仕事に結び付くことが必要だ。教員については、自己管理目標制度を導入、教育研究活動の計画および報告により、教育、研究、社会貢献の目標、達成状況、改善を自己管理するシステムの構築を目指す。職員の人事考課制度は1994年から始まる。大学における人事考課制度の草分けであり、多くの大学の考課制度のお手本となった。しかし制度は進化し、変化しなければならない。現在の「職員開発(SD)・目標設定運用ガイドブック」にまとめられた目標管理・評価システムは大きな改変を経た三期目のものだ。
目標に基づく評価には自己点検・評価を推進する認証評価統括室があり、また中期経営計画課題の達成状況について業務監査、部門別監査を行い、PDCA・質保証システムを根付かせる新設の内部監査室の体制がある。
強い信念で福祉への逆風に立ち向かう連続した改革に挑戦し、社会的期待に応える学部・学科構成を短期間で形にし、教育内容を大きく改編・充実することでミッションの実現に迫っている。