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平成24年10月 第2498号(10月3日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <26>
 厳しい構造改革に挑む
 神奈川工科大学



 神奈川工科大学は、1963年に中部謙吉氏(当時大洋漁業(株)社長、現(株)マルハニチロホールディングス)により設置された幾徳工業高等専門学校を母体とし、1975年に幾徳工業大学を設置、1988年に現在の名称に改名された。消費収支に対する教育研究費比率が41%と非常に高く、教育研究に力を入れてきたが、近年、柔軟な給与体系を中心とした人事改革や、今年4月からPBLを中心に据えた教育改革を行うなど、矢継ぎ早に新しい政策を打ち出している。谷村浩二理事、金井徳兼教務主任・教授、尾コア亮典経営管理本部総務部長、関 喜義学生支援本部キャリア就職部長、鈴木 勉総務専任部長にその意図を聞いた。
 教育改革の契機は、志願者減少というよりはむしろ、多様な学力の学生の学習支援だった。不足する知識を補い、また、ものづくりへのモチベーションを上げるための施策が必要だった。そこで学長を委員長とした教育体系等検討委員会、共通基盤教育委員会、専門基礎教育委員会などで教育プログラムを設計した。「中教審答申や産業界の動向を横目で見ながら生まれたのが、キャリア教育と結合したPBLと共通基盤教育です。新教育案は、学長・副学長が中心に教職員向けに何度も説明を行い了承され、各学科と連動しながら改革を進めました。教員にはFD研修会を年3回行い、「何を教えたか」から、「何が身についたのか」という新しい教育への認識を深めてもらいました」と金井教授は説明する。例えば、共通基盤教育の「数理リテラシー」という科目等では数名の教員が同じ教材・シラバスで授業を行う。全教員が集まって、教材を開発し、定期的に打ち合わせをして、授業内容の確認も行う。
 改革は教育に留まらない。経営者集団としての理事会を目指して、徐々に企業幹部などの名目理事を実務系理事に切り替えた。例えば、このたびの教育改革は、職員出身の教務担当理事が、学長・副学長とともに検討した。それぞれの担当理事がその時々に先頭に立って改革を行ってきた。
 事務組織の大きな変更は平成23年から。五部局の組織を、指揮系統をシンプルに、資源を一元管理し、小回りが利くようにするために、経営管理本部と学生支援本部の二本部に、部長職は担当部長職に変更して、部長代理などの中間管理職は廃止した。また、課単位で担当理事が受け持ち、直接命令できるようにした。
 給与体系も柔軟な体制に変更。平成13年に新規教職員の定年年齢を引き下げる等の改革を行うとともに、平成15年からは退職金制度改革に加え、年功序列の職員給与を廃止し、人事考課と連動させた。
 「年3回の上司との面談では「目標を達成できたか」より、じっくりと話し合ってもらうことを重視しています。教員給与についても、平成19年に全教員を教授、准教授、助教等にもう一度「格付け」して、新しい役割に合う給与や体系に変更しました」と尾コア総務部長。
 職位について、鈴木専任部長は、「ジェネラリストとして行政管理に関わる職位と、現場でスペシャリストとして関わる職位の二本のキャリアパスが必要だと感じています」と語る。
 ところで、同大学では、およそ十年前より職員が理事に就任する際に、職員を退職するというルールがある。これは学長も同様で、学長就任時には教員を退職しなければならない。そして、復職は約束されていない。学長は学長、理事は理事の立場に専念して退路を断ち、例えば、学部の利益代表にならないように、あるいは、学長退任後に再び教員に戻った時のことを考えないようにと配慮されたものである。
 一連の改革の非常に優れた取組として、中教審の各種答申、学校教育法や私立学校法の改正、認証評価の結果を効果的に利用している点である。「中教審の答申、法律の改正を理由に出されたら、教職員も従うしかありません。例えば、学校教育法では、教授会は決定機関ではなく審議機関である、とされている。また、私立学校法では法人の最高意思決定機関は理事会と定められている。先の教員の給与体系の変更についても、教員は抵抗しましたが、あくまで法改正で教員の役割分担と責任が明確化されたから導入すると説明をしました」と谷村理事は語る。
 教職協働は「教育開発センターが主導で、理事・教員・職員が一同に合宿を行うFDとSDを実施しています。グループディスカッションやワークを行い相互にコミュニケーションを図っています」と関部長。
 大学の将来のために、現在の幹部が積極的に憎まれ役を引き受け、人件費改革等に手を付ける。一層変化の激しい時代に向け、今のうちに柔軟な制度にしておくことが重要だ。谷村理事が「いつも言うのが「我々は中継ぎだ」と。どんな形で未来の教職員に大学を引き継げるかをいつも考えています」と言うように、現在の大学幹部が本格的な少子化時代を迎える前にどれだけ準備をしているかに、将来の大学経営の成否が掛かっていると言えよう。

長期的視野に立ち、教育・人事・組織改革を着実に実行
日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫

 神奈川工科大学は、2012年から新たな教育課程をスタートさせた。教育体系等検討委員会で2年をかけ検討し、取りまとめたものだ。ユニットプログラム、PBL(課題解決型学習)を柱に、教育目的「考え、行動する人材育成」の実現を目指す。ユニットは1科目(90分)の4倍(360分)をひとつのユニットとし、知識・理論科目と技術・実習・体験的科目を組み合わせ、また必要学習事項と関連授業科目を有機的に連携させ、系統的学習ができるようにする。学生がグループ学習を軸に主体的に学ぶことで「力と自信がつく教育」を目指している。
 シラバスは授業計画だけでなく事前・事後の学習内容を、授業の各回ごとに具体的に明示する様式に改めた。自ら学ぶ学習への転換を目指し、教員はファシリテイターの役割に徹し、モデル授業で研修を深める。
しかし、改革は教育分野だけに止まらない。
 理事会機能を強化するために担当理事制を導入、総務・財務・企画・入学・キャリア・国際・管財など課題ごとに業務責任を明確にした。実務家・専門家集団としての理事会機能の強化を目指して現在、理事11名中、理事長、学外出身理事1名のほか、職員系理事6名、教員系理事(学長・副学長)3名の構成となっている。理事や学長就任時には、学内動向に左右されずに職務専念すべく、教員、職員を退職し、復帰は原則なしとした。正規の理事会の他に、定例理事会、全体理事会、担当理事連絡会議など構成と目的を変えた経営会議をほぼ毎週開催し、迅速な意思決定と実行を図っている。
 定年年齢は、教員を70歳から65歳へ、職員を65歳から63歳へ引き下げ、併せて退職金制度も職位ポイント制に転換、勤続年数だけの支給基準から役職在職年数等大学への貢献度をポイント化して加算する方式とした。給与制度も年功型から、教職とも年齢給・職位給・職責給の3本立てとし、職員は、職責給考課、賞与考課を行う人事考課制度を導入、年3回の考課を実施している。
 管理職比率が非常に高かった職員には管理者職位定年制を敷き、部長60歳、課長55歳、課長代理50歳とし、合わせて早期退職制度も導入した。司書の専門家集団がかえって図書館全体のサービス向上の阻害要因となっていた図書館業務は、(株)紀伊國屋書店への全面業務委託を決断し、図書館機能の向上と専任職員の政策業務の強化を目指した。
 教員組織は、設置基準改訂の機会をとらえ、現行の全ての職位とその資格を新たな基準で見直し、格付けをし直し辞令を再交付することで、基準に合わない実態を是正し、処遇についても新制度に対応して変更を行った。内部質保証委員会が設けられ、個々の教員が教育研究業務について自己評価、報告書を公表すると共に、単位取得率、留年率、退学率、標準年限での卒業率、就職率、進学率などから教育内容・方法の適切性を検証する。この繰り返しで体質改善の効果を狙う。
 事務組織も、これまで五つの部で運営されてきたが横の連携がスムーズにいかず、齟齬が生じるようになり、2011年、経営管理本部、学生支援本部の二本部制に移行、その下にそれぞれ6〜7課を置いた。各部に置かれていた中間管理職的な部長代理を廃止し、現場と管理者の距離を大幅に縮める事で、素早い学生サービスによる学生本位主義の実現、迅速かつ的確、一元的な経営管理体制の実現を目指した。
 この背景には、厳しい環境の中で、10年、20年先を見据え、教育・人事・組織・運営の構造改革に、今こそ着手すべきという経営・教学トップの判断、とりわけ現場経営を担う職員理事の強い危機意識があった。人事・組織の構造を変える仕事は苦労が多く、軋轢や抵抗を伴う。だからこそ我々の世代で変えねばならない、今後の発展の基盤をつくるための憎まれ役は我々が引き受けねばならないという強い思いがあった。ただ、改革をいきなり教員から着手するのは難しく、危機意識を共有できる職員から厳しい改革に着手し、実行モデルを作ることで全学に広めていった。
 長期的視野の下、改革を先延ばしせず、今、構造改革に挑むことの重要性を示している。


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