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平成24年9月 第2497号(9月26日)

ソーシャルメディアを活用した大学広報
  信頼と共感をどのように得るか ― 下 ―

大学プロデューサー 倉部史記


■「信頼」される情報発信姿勢
 リクルート社が行った2011年7月の調査によれば、Twitterを既に利用している高校生は34.0%、Facebookは12.7%。今後使ってみたいと回答した割合では、Twitterは48.5%、Facebookは25.2%にもなる。
 ソーシャルメディアを活用するにあたり、重要なキーワードが二つある。その一つは「信頼」だ。「この人が普段何を考え、どのような意見を発信しているのかが気になる」という関心からユーザーはTwitterで相手の書き込みをチェックする。リアルな社会での交友関係をウェブ上に拡張させるFacebookの「友達」という繋がりは、信頼できる情報共有のベースとなる。商業的な意図が含まれているかもしれないメディアの記事よりも、立場や趣味などをよく知る個人の評価の方が信頼できると多くのユーザーが考えている。
 大学の情報についても同様だ。公式のパンフレットやウェブサイトなど、大学が自ら発信する情報には広報的な意図も含まれていると高校生や保護者、高校関係者は考える。だからこそソーシャルメディア上での大学の評判や、実態に関する具体的でリアルな情報に関心を寄せるのだ。志望校に通う先輩は普段の授業やサークル活動、就職活動などの大学生活をどのように描写しているか。目的意識の高い学生が多く集まる大学なのか、それとも無気力で愚痴ばかり言い、遊びやアルバイトに精を出してばかりの学生が集まる大学なのか。志望校の実態を見極める情報源として、ソーシャルメディアは役に立つ。事実ソーシャルメディアでは、組織の公式アカウントよりも、個人のアカウントが影響力を持つケースが多い。本音を発信していると受け取られるからだ。したがって大学がソーシャルメディアの特性を活かした広報活動をするのなら、まずは信頼される情報の発信者になることが第一だ。求められるのは社会が知りたい事実や情報を、隠さず真摯に発信する姿勢である。
■「共感」を生むコンテンツ
 もう一つのキーワードが「共感」だ。前回、イギリスの九歳の少女がブログに上げた給食の写真が、ソーシャルメディアで共有され、現実の社会を動かした例をご紹介したが、これは多くのユーザーが「ひどい給食だ」と共感したから。誰もが簡単にアカウントをつくり、情報を発信できるのがソーシャルメディアの特徴だが、大きな影響力を発揮できるかどうかは、共感を得られるかどうかにかかっている。共感を集める情報とは「面白い!」「許せない」など様々な理由で、「誰かに教えたい」という感情を多くのユーザーに抱かせるようなものだ。
 アメリカの名門イェール大学が2010年1月にYouTubeにアップした「That’s Why I Chose Yale」という動画がウェブ上で話題となった。キャンパスを舞台に職員や学生が、ミュージカルのように踊りながら大学の特徴を歌い上げていくという内容で、歌も映像も、プロ水準の出来。「名門校だが、我々は芸術的な素養も備えている」というわけだ。この映像は現時点で100万回以上再生され、話題となっている。大学の公式紹介映像としては異例の内容がソーシャルメディアで話題を呼んだのである。
 マスメディアでの情報発信は、一発の花火を打ち上げ、そのインパクトで大勢の耳目を集めるようなものであるのに対し、小さな「種火」を隣人に少しずつ分けていくような動きで情報が広がっていくのがソーシャルメディアであると前回述べた。多くの共感を集め、人に伝えたくなる「種火」を用意できるかどうかが重要だ。
■リスク管理に重要な視点は
 誰もが自由に発言できるソーシャルメディアの導入にあたっては、様々なリスクを恐れる声も強い。未成年の飲酒など、法律に触れる行為を学生が軽い気持ちでウェブに書き込んだことで、本人および大学へのネガティブなコメントが拡散する「炎上」の事例は確かに少なくない。今後は大学でも適切な情報発信の作法を教育すべきだが、どれだけ備えても炎上リスクはゼロにはならない。かといってソーシャルメディアを大学生から引き離すのは不可能だ。ならばリスクを本当の危機にしないためにも、火種が上がった後に適切な対応をすることが大切だ。
 2011年、日本橋学館大学の「基礎力リテラシー」のシラバスがウェブ上で話題となった。「アルファベットの書き方」など、中学生レベルから立ち戻って確認するその内容が、「これは大学の授業か」というネガティブなコメントとともにソーシャルメディアなどで拡散した。しかしすぐに学長が自らマスメディアに、こうした授業が必要になる社会状況や、学生に対する教育責任を果たすという大学としての姿勢を明確に表明すると、その姿勢を支持するコメントとともに、ポジティブな評価が広がっていった。正面からの説明が、ウェブ上で信頼と共感を集めたのである。
 ソーシャルメディアでは、情報の秘匿・隠蔽は不可能だ。大学が受験生に教育内容をPRしても、在学生から「そんな教育は受けていない」とコメントされれば信頼は失われ、炎上リスクは増大する。誠実・真摯でない発信者にウェブの住人達は厳しい。
■信頼・共感を集める大学コンテンツの実験
 一方で、新たな取り組みも始まっている。6月よりウェブ上の映像配信サイト「ニコニコ生放送」でスタートした「真☆大学デビュー!(9月より「大学の見方」に改称)は筆者がMCを務める高校生向けの番組で、テーマは進路選択である。様々なゲストと対談しながら高校生にメッセージを送る。視聴者からのコメントをリアルタイムに画面上に表示させるニコニコ生放送の特徴を活かし、寄せられた質問や意見にライブで答えて番組を進めている。
 主なゲストは大学職員で、自校に対する想いや教育への熱意を発信している。大学に対して視聴者に「共感」してもらうことが最大の狙いだ。それが結果的に、大学への信頼にも繋がる。8月末までに13回の放送が終わっているが、思った以上に反響を呼んでいる。YouTube上に公開した過去放送回の映像もソーシャルメディアで徐々に広がっており、早々に再生回数1000回を記録した。なおコメントは書き込んだ瞬間に表示されるので、ネガティブなコメントも流せるわけであるが、そのようなコメントは現在までほとんどない。率直に伝えることが最大の共感を生む、というソーシャルメディアの特性を前提にした構成にしているからだ。各校の大学案内のユニークなポイントを1分で筆者が紹介する映像を、YouTubeで公開する取り組みも始めた。多くの方がそれをきっかけに、大学のことをソーシャルメディア上で語ってくれればという想いからだ。
 TwitterやFacebookの公式アカウントを開設すれば良いというわけではない。魅力的な種火や、それを誰もが気軽に共有できる環境の整備、そして真摯な情報発信の姿勢。これらを通じて「共感と信頼を得る組織」になることが、ソーシャルメディアの活用で目指すゴールなのである。
(おわり)


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