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教育学術オンライン

平成24年9月 第2496号(9月12日)

ソーシャルメディアを活用した大学広報
  TwitterやFacebookをどのように使うか ― 上 ―

大学プロデューサー 倉部史記


 個人が世界に向けて情報を発信できるソーシャルネットワークサービス(SNS)の利用が盛んだ。リクルートの調べによると、高校生の6割がSNSを、ほぼ全員が動画サービスを利用している。大学はどのように利用していくべきか。「文学部がなくなる日」等の著書がある大学プロデューサー、倉部史記氏に寄稿してもらった。

■ソーシャルメディアって何?
 4月末にイギリスで9歳の少女が自分のブログに掲載した写真が、世界中で話題となった。通っている学校の給食を写したもので、栄養バランスの悪い献立と少な過ぎる量。「これじゃ午後の授業に集中するのは無理」という言葉が添えられていた。そのブログは著名な料理家をはじめ多くのネットユーザーの目に触れ、「Twitter」や「Facebook」で瞬く間に紹介されていく。これらのソーシャルメディアで大勢のユーザーに共有されたことがきっかけで、彼女はBBCラジオなどから取材を受けることになり、はや5月半ばには、彼女の学校の給食メニューは劇的に改善された。何のコネもない9歳の少女が現実社会を変えたこの事例は、ソーシャルメディアの影響力を私達に教えてくれる。
 140文字の短文で自分のフォロワーに情報を拡散するTwitterや、「友達」との繋がりをもとに意見や写真などを共有しあうFacebookは、今日の代表的なソーシャルメディアだ。ウェブを見ていて「自分の知り合いにもこの情報を紹介したい」と思うことは誰にでもあるだろう。それはユーモラスな画像だったり、考えさせられる論説だったり、怒りや悲しみがわき出るニュースだったりする。こうした情報を簡単に拡散・共有させるツールがソーシャルメディアなのだ。
 マスメディアでの情報発信は、一発の花火を打ち上げ、そのインパクトで大勢の耳目を集めるようなものだ。それに対しソーシャルメディアでは、小さな「種火」を隣人に少しずつ分けていくような動きで情報が広がっていく。時間がかかっても燎原に広がっていく炎のように、「花火」以上に大きな影響力を発揮することもある。
■学内広報でのソーシャルメディア活用
 大学もソーシャルメディアの影響力に注目し、その活用に力を入れている。敬和学園大学は2007年に公式Twitterアカウントを開設。広報課がイベント情報などを発信している。現在は教務課やキャリアサポート課など、学内各部署がそれぞれのアカウントを運営し、それぞれ休講情報や就職情報などをツイートしている。在学生はこれらのアカウントをチェックしていれば、学生向けの重要な情報を漏らさず受け取れるというわけだ。同様の動きは他大学でも盛んだ。
 Facebookの導入も進んでいる。主要な大学の多くが既に公式Facebookページを開設し、自校に関する情報の発信に励む。2012年8月19日現在、最も多くのファンを獲得しているのは関西学院大学(15230人)で、名古屋商科大学(7998人)、上智大学(4811人)、早稲田大学(4768人)、慶應義塾大学(4280人)と続く。新たな広報ツールとしてメディアでも取り上げられるFacebookに、各大学も力を入れ始めているのだろう。
 これらの取り組みは、学内関係者に対しては、効果的に機能し始めているように思われる。多くのフォロワーに「いま重要なお知らせ」を届ける即時性を持ち、必要に応じて双方向のやりとりもできるTwitterは、学内広報のための主要ツールとして不可欠になりつつある。公式ブログで学生に様々な告知を届ける動きが以前、大学業界で広がったが、その座はTwitterに取って代わられつつある。また大学が主催するシンポジウム等のお知らせが、Facebook上の友達からもたらされる、という流れことも増えているようだ。
 大学は、受験生向けの入試広報には以前から力を入れてきた。昨今ではメディア関係者へのPRや卒業生への情報発信にも熱心だ。メディアでの露出が増えることはブランド価値を上げ、同窓会へのPRは寄付金などのメリットをもたらす。一方で、在学生への日常的な情報発信は後回しにされがちだった。ある部署が有意義な学内イベントを開催しても、告知が徹底されておらず、参加者を十分集めきれなかったというケースは関係者からよく聞く。ソーシャルメディアは、そんな広報上の穴を埋めるものとして機能し始めている。
■労力を最小化、効果を最大化する海外大学の工夫
 しかし「学外」への情報発信にはまだ課題も多い。そのひとつが、更新にかかる労力の問題だ。広報部門のスタッフの人数は限られており、現状の業務だけで手一杯という大学は少なくない。TwitterやFacebookの重要性は理解しているものの、日常的にこれらを新たに運用するとなると、二の足を踏んでしまうのも無理はない。実際、公式サイトの「What,s New」、Twitter、Facebook、ブログとを見たとき、まったく同じ情報が転載されているだけという大学も少なくないようだ。理想は、これら各メディアの特性に合わせて発信する情報を分けることであるが、十分な体制を取れない大学も多いだろう。
 海外の事例に目を向けてみよう。公式Facebookページに41万人のファン登録者を抱えるスタンフォード大学や、188万人のファンを持つハーバード大学など、有力大学は学外のあらゆるユーザーを取り込み、彼らが関心を寄せる、あるいは大学を知る上で役立つ情報を届けている。両校のFacebookページはかなりの頻度で情報を発信しているが、よく見てみるとFacebookのために担当者が記事をゼロから新しく書き起こしていることはほとんどない。大学の公式ニュースブログ、フットボールチームのブログなどをはじめとする学内メディアや、ウォールストリート・ジャーナルなど学外メディアなどでスタンフォード大学の活躍が紹介されている記事を探しては、リンクを貼って公式Facebookで「シェア(共有)」し、そこに3行程度のコメントを添えているだけである。両校のFacebook担当者は、自校に関する興味深い情報を探し、それをFacebookページのファン達に共有する仲介・紹介役に徹しているのだ。
 公式ウェブサイトの各ページにも、ソーシャルメディアに対応する工夫がなされている。たとえば両校のウェブサイトに上がっているニュースリリースを見ると、リリースの内容を読み手がTwitterやFacebookで簡単に社会に共有できるよう、クリック一つでこれらの行為が行える「ソーシャルボタン」と呼ばれるリンクボタンが、全ページに組み込まれている。実際にそれぞれの記事が、世の中のFacebookユーザーによって「いいね」と評価されたり、Twitterで紹介されたりしている。大学の公式Facebookページも、そんな「いいね」を押した一人に過ぎない。記事に興味を持った人は自由に気兼ねなく友達にシェアしてよ、という姿勢なのである。
 情報の発信者は、広報担当スタッフだけではない。そして広報部門が注目していなかった思わぬニュースが、世間の関心や共感を集めることもある。広報用にコントロールされた情報を発信することではなく、様々な箇所で上がった「種火」が燃え広がるよう、適切な環境を整えてやることが広報部の役割だ……そんな発想が、両校のソーシャルメディア活用のベースにあるようだ。この発想の転換こそ、大学のソーシャルメディア活用に求められるものなのである。(つづく)


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