平成24年8月 第2494号(8月22日)
■大学は往く 新しい学園像を求めて〈53〉
宝塚大学
芸術と科学の協調めざす
看護学部も設立 3学部の特長打ち出す
個人の潜在する能力を顕在させ、創造的な学生を育てる。今年5月に創立25周年を迎えた宝塚大学(小清水 漸学長、兵庫県宝塚市)は、芸術大学として培ってきた実績を踏まえ、奥行きのある教育による人材育成を行う。宝塚の造形芸術学部、東京・新宿の東京メディア・コンテンツ学部、2010年開設の大阪・梅田の看護学部の3学部で構成。▽創造的な学生を育てるための専門教育の実践▽アクセスに恵まれた好立地のキャンパスと最新の施設設備▽実社会での活躍につながる教員による万全のサポート体制―を誇る。来年度から造形芸術学部では、コースや専攻ではない「研究室」と学生の自主的な創作活動の場である「工房」を設ける。「3学部がお互いに影響し合い、それぞれの学部の特長を打ち出していきたい」という学長に、創立25年の歩みや教育研究、就職などについて聞いた。
(文中敬称略)
創立25周年
宝塚、梅田、新宿が拠点
宝塚大学は、1967年に設立の関西女子学園短期大学(後の宝塚造形芸術大学短期大学部)が淵源だ。1987年、宝塚造形芸術大学を開設。芸術にITやマルチメディアを取り入れた先駆的な教育を行い注目された。
2007年、人、モノ、情報がすべて集まる街、東京・新宿に、東京メディア・コンテンツ学部を開設。2010年、アートを介した教育で人間性豊かな看護師を育てる看護学部を大阪・梅田に新設と同時に、大学名を宝塚大学に変更。現在、3学部に1427人の学生が学ぶ。
学長の小清水は著名な彫刻家。関西女子美術短大時代に教員をしており、京都市立芸術大学教授から昨年、帰ってきて学長になった。「男の学生がいるのに驚いた。男女比は女子6、男子4だが、実学志向になり男子が増えている」
大学を語る。「時代の要請に応えるべく、教育内容を進化させています。建学の精神は『芸術と科学の協調』。看護学部ができたのはそもそも、創始者が人を癒やす芸術と医療を結び付ける教育の実現を望んでいたことが発端です」
芸術と看護の融合について。「両者は本質的に似ています。芸術は人の心を自由にするために存在するもの。看護は専門知識や技術を与えるだけでなく、患者さんの心も健康になるように手助けします。ともに心に働きかける学問です」
研究室と工房を設置
多様化する社会情勢や将来を見据えて、教育内容の見直しを行った。「日本の美術系大学の運営は厳しい。専攻やコースを減らすなどリストラを行っていますが、そういう手法でなく、視覚芸術全般を専門的に支えながら改革していきたい」
造形芸術学部では、来年度から造形芸術学部のアート・デザイン学科を制作力創造学科に、メディア・デザイン学科を想像力創造学科に変更、新たに「研究室」、自由に使える「工房」を開設する。
「研究室」は洋画、日本画、彫刻、イラストレーション、ビジュアルデザイン、建築・インテリアデザイン、写真、マンガ、アニメーション、ゲーム、映像、放送、舞台芸術など17あり、学生は1年次からいずれかに所属する。
「研究室は学びを制限するものではなく活動の拠点のような位置づけ。学科の枠も超えて、違う研究室が開講する科目を自由に選ぶことができます。デパートの売り場をブティックがたくさんあるショッピングモールに変えて、学生一人ひとりの興味に対応するというイメージ」
「工房」は、陶芸、金属、木工、版画、彫金の五つ。学生の自主的な創作活動の場として自由に使える。「ファッションデザインを勉強していてアクセサリーを作りたくなった時でも活用できます。看護学部の学生も陶芸療法などで使えます」
看護学部。芸術系大学ならではの新しい視点から看護学を学ぶ。専門的な看護の知識・技術を学ぶだけでなく、患者の気持ちをくみ取り、心と体をトータルにケアできる看護師を育てる。助産婦師の資格を取る専攻科設置の計画もある。
「一般の看護系大学とは一線を画しています。3年次の看護と芸術では、人の心や体に働きかける芸術を学べ、絵画療法、音楽療法、笑い療法、リハビリメイク、陶芸療法から選択して学びます」
東京メディア・コンテンツ学部。マンガ、イラストレーション、ゲーム、アニメーションの四つにコースを明確に分けている。キャンパス内には、井上幸喜教授が経営するメディア工房(株)JETMANがあり、学生が同社のプロジェクトに参加することが出来る。
「授業とは別に、教員の幅広い知識と能力を提供する活動を研究室と位置づけ、ストーリー文化研究室、エコロジカル美術研究室など六つを開設。興味のある学生は1年次から参加でき、自分のコース以外に視野の広がりが持てます」
同大の大学院研究科では、茶道や華道など東洋・日本文化の真髄を研究して学ぶことができる。「伝統芸術分野の研究領域を、全国の大学に先駆けて設置。伝統芸術を学ぶことができる数少ない研究科の一つです」
就職力強化にチームT
就職について聞いた。「再来年に卒業生を出す看護学部は引く手あまたが予想されるが、造形芸術学部と東京メディア・コンテンツ学部は他大学同様に厳しい状況にある」という。
造形芸術学部には、学生による自主的な就職力強化の組織、「チームT」(TはTAKARAZUKAのT)がある。「学生は学科を超えてチームを編成、教職員はアドバイザーとして学生をサポート。就職活動勉強会などの会議や各チームが集まり、セミナーを開催、内定獲得に向けた取組みを行っています」
東京メディア・コンテンツ学部の就職支援は、クリエイティブ系の職種に必須のポートフォリオ制作の指導やクリエイティブ業界研究セミナーなどを実施。「学生一人ひとりが、どのような状態にいるかを把握、個人面談の強化などをきめ細かな支援を行っています」
地域貢献や産官学連携事業は芸術系大学らしさが出ている。企業や自治体などからデザイン力や企画力を求められ、ポスターのデザイン、イベントの企画・運営、ホームページの制作など多くの実績がある。
「産官学連携事業の活動を積極的に行うことで、企業や地域、大学の活性化だけでなく、学生の社会人基礎力の向上にも役立ちます。これからも、人の心を癒やし、豊かな心を育てる芸術を核にして積極的に社会と関わり続けていきたい」
創立25周年について。「25年前の日本は、後にバブル経済と言われるような見かけの繁栄のただ中にありました。この間、阪神淡路大震災、東日本大震災があり、本学に限っても、学舎の増設、新宿キャンパス・看護学部の開設、大学名の改称と、大きな変化を伴った25年でした」
創立25周年記念事業テーマは、「Turning Angle」(“反転角”の意で、意思を持って反転する)。創立25周年記念事業のメイン事業は、「舟プロジェクト×千の夢舟プロジェクト」だ。
「舟」で25周年を表現
全長約20メートルの「舟」をモチーフにしたモニュメントの共同制作を3学部の教職員と学生が心をひとつにして行う。「舟の内部に、『夢、希望』などの言葉を書いた紙の『夢舟』(笹舟)を千杯納める予定です。『夢舟』の参加者は、学内はもちろん広く学外からも募ります」
宝塚大学のこれからについて。創立25周年を語った小清水の次の言葉の中に、それは込められていた。
「今、私たちは一旦立ち止まり、次の25年に向けて、自覚的に大きく反転しようとしています。宝塚・梅田・新宿を拠点に、芸術と看護の大学として大きな飛躍の反転角、Turning Angleの軌跡を描こうとしています。どのように明確な軌跡を残せるのか、私たち自身の決断と実行にかかっています」